若築建設株式会社 福岡支店 博多統括作業所長 田北文彦氏

若築建設28年目の統括所長が語る「海洋土木」と「飲みニケーション」の難しさ

若築建設のベテラン海洋土木技術者

若築建設株式会社(本社:東京都目黒区)は、128年ほど前の明治23年に現在の北九州市若松区で創業した建設会社だ。本店は、今でも同地にある。海洋土木(マリコン)を得意とするが、現在は陸の土木、建築も手がけている。

若築建設の福岡支店で博多統括作業所長として活躍している田北文彦さんは、海洋土木の現場でのキャリアが長いが、最近は陸の土木の現場も担当する土木のオールラウントプレイヤーだ。

統括作業所長としての役割や、マリコンと陸の土木の違い、最近の若手社員との「飲みニケーション」事情などについて、田北所長に聞いた。

若築建設に入社28年目、九州各地で港湾土木を経験

——田北所長は若築建設一筋ですか。

田北 そうですね。大学新卒で入社してずっと若築建設です。今年で28年目になります。

——転勤などは?

田北 九州内での転勤はありました。

——最初の配属先は?

田北 長崎県です。五島列島でした。列島の南に福江港という当時国が整備を行っていた港があって、防波堤の築造や岸壁の整備などを行う仕事に5年間ほど携わりました。

その後、大分県、福岡県、沖縄県、宮崎県、鹿児島県での現場経験があります。

——これまで海洋土木の仕事が長い?

田北 そうですね。若築建設がもともと海上工事主体の会社ですし、私自身も海上工事が長いです。70%ぐらいが港湾関係の仕事です。

ただ最近は、造成工事や橋梁の下部工事などの陸の仕事も担当しています。最近の若築建設では、海上工事と陸上工事の仕事の割合が半々ぐらいになっていますが。

——初めて現場監督を担当したのは?

田北 北九州市発注の内防波堤の工事現場でした。30才ぐらいのころで、自分の他にもう一人28才の社員と2人現場でした。ケーソンの基礎工、据付け、上部工までの一連工事で会社からは「勉強のために、自分たちで全部やれ」と言われました。

当時の発注者の方々には、「一緒にものをつくろう」という姿勢が明確にあって、書類のつくり方などを教えてもらいました。

大変なところもありましたが、初めて自分がやり上げた現場だったので、やりがいがあって、楽しかったですね。

若築建設の統括所長としての仕事

——今は統括所長というお立場ですが。

田北 一定の地域の複数の現場を統括するポジションです。統括所長になって4年ほどです。

現在は、福岡市内などの4現場を担当しており、公共土木の現場がメインです。協力業者との折衝など、複数の現場全体の段取りをしたり、工程管理、原価管理などをチェックしたりする立場です。

今は自分の現場を持ちながら、他の現場の統括をしています。会社と現場の間に入って、すべてうまく回るようにする立場なので、責任は重いです。

——大変そうですね。

田北 そうですね。自分の現場だけに集中するわけにはいかないのですが、かと言って、自分の現場をおろそかにもできません。当然ですが、仕事量は増えます。

発注者や協力業者への対応など、各現場の責任者が主体となって行い、その中で若い人にどんどん仕事を任せることが必要になってきます。彼らにとって経験にもなりますし。

ただ、複数の現場を見ているからこそ、気づくことがいろいろあります。複数の現場をトータルとしてうまく回していくということを目指して、やっています。実際にはなかなかうまくいきませんが(笑)。

若築建設の正社員求人はこちら[PR]


陸上とは違う、海洋土木の難しさ

——やはり海洋土木は、陸の土木とは違いますか。

田北 違うと思いますね。同じ土木でも、海と陸ではそれぞれノウハウが違います。

陸の人が海の現場に行って、すぐ仕事ができるかと言うと、できません。逆もそうです。やはり慣れないと難しいところがあります。

——海洋土木の難しさというと?

田北 見えない作業があることですね。陸の作業でも同じことはあると思いますが。

例えば、海上で基礎をつくる作業などの場合、潜水夫である「潜りさん」が海中に潜って、基礎をつくるわけですが、現場監督自らが海に潜って作業を確認することはありません。

私が手がけた作業で、ちゃんと基礎をつくったと思って、潜って確認してもらったところ、まっすぐつくれていなかったということがありました。

現場監督である自分が目で確認できないモノについて、どう確認し、作業員さんにどう伝え、自分の意図をどう理解してもらうか。そういう難しさがあります。

台風で3週間作業ストップした海上工事

——波のうねりの影響などは?

田北 波のうねりの影響で作業が止まることはありますね。長崎でケーソンを製作して、長崎の港から運んで、福江港にすえるという工程を組んでいたのですが、一連の工程は波が穏やかなときしかできません。

海がシケたり、季節風が吹くと、何日も作業が止まってしまいます。発注者の方でも、そういう時期には発注しません。基礎をつくっても、波で壊れてしまうこともありますから。

ただ、夏場の台風は発生が読めないので、困ります。台風の場合、遠くで発生しただけでも、波にうねりが生じるので、作業がストップしてしまいます。

台風が過ぎた後も、海面がナギになるまで、1週間ほどかかるので、トータルすると、3週間程度作業できない場合もあります。海上工事にとって、台風はシビアですね。

波のうねりは、波長が長いので、小さな船だと、なかなか気づかないんです。ところが、大きな作業船になると、うねりの影響をモロに受けるときがあります。大きな作業船が来て、初めてうねりに気づくということもありました。波のうねりには、とにかく神経を使いますね。

——長期間作業が止まると、その都度工程を組み直す?

田北 当然そうなります。後の工程が詰まっていきます。そういう事態に備え、発注者によっては、海上工事の作業の休止率が比較的長くとられています。

通常1日分の作業を1.6日分でとっていたりとか、発注の段階で工程を長めにとってもらっています。それでも工期内に収まらない場合は、発注者と協議する必要が出てきますが。

——通行漁船などへの対応とかは?

田北 漁船の通行に配慮することは当然あります。船舶の通行が多い場所で作業することも多いので。当然、一般船舶が優先ですので、それを考慮して、作業船を動かすなど作業を進める必要があります。

浚渫工事をした後、海水に濁りが発生したり、作業船からの漏油などがないように細心の注意を払って作業を行っています。

「作業に伴う振動で魚が逃げる」という話を聞くこともあります。海上工事の現場では、そういうことへの注意も必要になってきますね。


若築建設の若手技術者と「飲みニケーション」

——若築建設での若手技術者の確保は?

田北 新卒者採用については、会社の方ではやはり苦労しているようです。大学生などを対象にした現場見学会などを実施しており、私が担当する国の現場では、ここ数年ぐらい見学会を行なっています。

実際の現場を見てもらって、少しでも興味を持ってもらおうということで、これまでに4回ほど行なっていますね。インターンシップの受け入れも行なっています。

大学生からは、「転勤がイヤ」、「ゼネコンに就職するなら、地場の会社さんが良い」という話をよく聞きます。ただ、中には、「全国どこでも良いです」という学生もいます。私の現場には今年入った社員がいるのですが、彼なんかはそのタイプです。

——新人社員とのコミュニケーションはいかがですか?

田北 他の社員に比べると、コミュニケーション回数は少なくなりがちです、最初は仕方ないかなと。慣れてくれば大丈夫だろうと思っています。

本人がイヤがらない範囲で、飲みニケーションなどをとるようにしています(笑)。

——若手の育成に関して、心がけていることは?

田北 「土木工学は経験工学だ」と新人のころに教えていただきました。現場に携わって28年になりますが、今までのいろいろな経験がすべてに生てきていると感じます。同じ内容の仕事でも同じ結果にならない、施工方法も変わりますから。

一緒に現場を行っている若い社員にいつも言っていることは、「まず自分で考えなさい、想像しなさい、それから相談しなさい」ということです。最初からなんでも聞くと、「自分の中に残らないから」です。

もう一つ、発注者でも協力業者の人でも「自分の名前を覚えてもらいなさい、会社を信頼してもらうなら、まず自分を信頼してもらうように」と言っています。恥ずかしくない行動を行うようにと、自分にも言い聞かせています。

——若手にある程度任せることが必要?

田北 若手に多くを任せる方が早く育つと思います。ウチの会社の社員の年齢構成で見ると、40才以上のベテラン世代が多いので、現場を仕切るのもベテランが多く、なかなか若い社員が現場責任者になって現場管理を行っていけるような現場は少ないように思います。

——「任せる」のは大変そうですね。

田北 確かに、人に任せると、私が思っているのと別の方向に行くことがありますからね(笑)。日頃からコミュニケーションをとりながら、うまくいくように努力しています。

良い現場監督の条件は「段取り」

——土木の魅力は?

田北 やはり、「自分がつくったものが目に見える」というところですね。防波堤なら防波堤、橋脚なら橋脚というカタチで、目に見えるものができあがること、それを日々実感できることが、大きな魅力です。

——良い現場監督の条件を一言で言うと?

田北 「段取り」ですね。まあ、土木の仕事に限らないと思いますが。土木の現場では、段取りをちゃんとやっておけば、仕事の80%はもう済んでしまうようなところがあると思います。

作業工程を立てることは、そこにすべての段取りが入っていることなので、事前に準備がちゃんとできていないと、そもそも工程を立てられません。工程が立てられないと、現場が止まってしまいますので。

若築建設の正社員求人はこちら[PR]

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
マリコン一筋の土木人生。東洋建設の現場代理人が語る「マリコンの魅力」とは?
五洋建設ひと筋40年、大ベテラン技術者が語る「マリコン」の魅力と厳しさ
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
非公開: スーパーゼネコンをサブに従える「マリコン」の未来
非公開: 悪しき昔の土建屋あるあるBEST5「港湾土木編」
ドカタのイケメン「ドカメン」が静かなブーム?お叱りも受けて賛否両論
基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
モバイルバージョンを終了