高品質で耐久性のあるコンクリート構造物は技術者たちのプライド。写真は熊本県が2017年に施工した二軒屋橋下部工

【良質なコンクリート構造物を造る男たち2】 熊本地震で危機感はピークに。熊本県が高品質コンクリート構造物を造る理由

熊本県でも良質なコンクリート構造物を。合言葉は「QC活動」

熊本地震の発生からちょうど1年が経過した2017年4月。熊本県県南広域本部の土木部技術管理課長の山本茂雄は、自身がキーマンとなり「県南コンクリート構造物品質確保推進協議会」を立ち上げた。

県南コンクリート構造物品質確保推進協議会の設立目的は、高品質かつ高耐久なコンクリート構造物を築造することだ。

熊本県県南広域本部土木部技術管理課 山本茂雄課長

「重要構造物の多くはコンクリート構造物です。その品質・耐久性は施工プロセスに支配されるのは言うまでもありません。

不適切な施工をすれば構造物の寿命を縮め、社会的・経済的な損失が大きくなります。適切に施工することにより、より耐久性の高い構造物が築造可能です」と山本は話す。

県南コンクリート構造物品質確保推進協議会の合言葉は「QC(クオリティー・コントロール/品質改善)活動」。QC活動を通して、高品質で耐久性のあるコンクリート構造物の構築を目指してきた。

QC活動のモデルは、山口県の「PDCAサイクル」

山本は公共工事を担う行政マンとして、総合評価の技術審査や竣工検査で合否を判定するという重い責任ある業務に携わっている。

竣工検査のたびに品質の向上、施工の改善に向けた指導を行っているものの、個別指導では成果も上がらず、毎回、同じことの繰り返し。品質向上に関する裾野が広がらないことに焦りを感じていた。

折しも、2016年に発生した熊本地震で、熊本県内の多くのコンクリート構造物がダメージを受け、大量の新設コンクリート構造物が築造されようとしていた。山本の焦りは頂点に達した。

そんな時に目についたのは、専門紙が取り上げた、山口県の”「10点満点」のコンクリート”。山口県がコンクリート構造物のひび割れ対策として始めた活動にヒントを見出した。

山本は、すぐさま山口県へ視察に飛んだ。そこで見たものは、試験施工や施工業者の協力により積み上げられた、ひび割れに関する膨大なデータベースの構築だった。

QC活動の構成。山口県のPDCAサイクルがモデル

「山口県では、施工時の不具合やその他の欠陥などを県の技術センターで集計していました。その成果として『品質確保ガイド』を作成して適正な施工を促しています。

中でも最も注目したのは、「施工状況把握チェックシート」と「表層目視評価法」です。独自で開発した施工状況把握チェックシートに、東北地整が導入していた表層目視評価法を加えることで、施工計画(PLAN)→実施工(DO)→評価(CHECK)→改善(ACTION)というPDCAサイクルをしっかりと確立していたのです。

これを継続することによって品質のスパイラルアップに繋げていました。これを使わない手はないと。現在の熊本県におけるQC活動のモデルとなっています」

表層目視評価法の評価基準

ただ、山本の求めるものはそれだけに止まらない。コンクリート施工管理技術に関する人材育成にも狙いを定めた。

「技術者の高齢化、退職、新規入職者の減少などにより技術の移転・伝承が危機的状況にあるのが現状となっています。

県南コンクリート構造物品質確保推進協議会を立ち上げたのは、コンクリートの品質に関する意識の向上、知識、技術力の習得も急務と考えたからです。そのためのQC活動とも言えるでしょう」

品確法で発注者の責任を痛感

山本が熊本県に入庁したのは1981年4月。これまで県内の各部署を転々としながらスキルを磨いてきた。

山本に大きな影響を与えたのは、2004年に施行された『公共工事の品質確保の促進に関する法律』(以下、品確法)だ。

発注者に対して、入札参加希望者の技術的能力の審査が義務付けられた。入札・契約制度も多様化し、品質や技術力に重点が置かれる総合評価方式も導入された。いつしか山本の技術屋魂に火が付いていた。

「入庁して10年目には1級土木施工管理技士を取得していましたが、品確法施行後は、行政にもっと品質を見極める能力が必要だと感じていました。総合評価の技術申請書の審査や竣工検査をする中で、私自身ももっと研鑽を積まないといけないという思いが強くなったのです。

2013年から本庁勤務となったことで、電車で片道約1時間の通勤時間を活かして受験勉強に充て、3カ年でコンクリート診断士、コンクリート主任技士、技術士(建設部門/鋼構造及びコンクリート)を取得しました。

そのせいか、最近は職員や施工者からコンクリートの施工や劣化診断・補修に関する相談が増えています。受験勉強は苦労しましたが、QC活動をはじめ、少しでも皆さんのお役に立てることになればうれしい限りです」

QC活動は現場の効率化にもつながる

熊本県でのQC活動は、まだ始まったばかり。発注者、施工者、生コン生産者、学識者が一体となって、コンクリート構造物の品質確保と技術者の人材育成に的を絞ったプロジェクトを展開中だ。

ただ、「目標を達成するために必ずしも特別なことを要求しているのではない」と山本は言う。

「あくまでも、共通仕様書に書いてある技術基準をきちんと履行してもらうことを求めています。示してある技術基準を疎かにすると、標準以下の構造物が出来るリスクが高くなるということです。

品質とコストは相反するといいますが、その部分をいかに縮小していくかが大事。QC活動を通して、現場の作業員とともに考え、改善点を見出し、その情報を共有していくことで、効率化も追求できます。

QC活動で構築したコンクリート構造物を見にきてください。実際に効果を感じてほしいですね」

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建設業専門紙に32年間勤務し、現場第一主義で取材・編集に従事。時代にマッチした特集記事を通して、現場の声を読者に届けることを使命感とし、業界に課題を投げかけながら進むべき道筋を示す。建産プレスくまもとを主宰。情報発信により地方の建設業が果たすべき役割について考える場を提供する。
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