土木写真部の発起人であり、部長の岡部章さん。本職は、宮崎県県土整備部都市計画課美しい宮崎づくり推進室美しい宮崎づくり推進担当主幹(2019年3月時点)。手にするのは愛用の「OLYMPUS STYLUS XZ-2」

土木構造物を愛でる「土木写真部」の発起人、岡部章の思いとは?

「土木写真部」の発起人 岡部章

土木写真部」というグループをご存知だろうか?

Facebook上で橋梁などの土木構造物の写真を投稿し、その写真を愛でながら、「土木ファンの輪を広げよう」とする集まりだ。

発起人は、宮崎県庁に勤務する岡部章さん。岡部さんは土木職として県庁入りし、現場も担当した土木技術者でもある。

岡部さんは土木の仕事に従事する中で、「土木の魅力が世間にちゃんと伝わっていないんじゃないか」という思いが募っていた。

そこで、プライベートな活動として、土木写真部という「部活」をスタートさせた。

岡部さんの作品「望原谷第1砂防堰堤」

土木写真部がこれまでに投稿した写真は2,300枚以上。Facebookページは7,400を超える「いいね!」を獲得している。WEBのほか、国土交通省九州地方整備局とコラボし写真展を開催するなど、リアルな場でも活動の幅を広げつつある。

土木写真部を設立した経緯や同部が伝えたい土木の魅力について、土木写真部の発起人であり、部長を務める岡部章さんに話を聞いてきた。


“構造物を写真に残す文化”がない土木業界に疑問

岡部さんには、土木写真部を立ち上げる以前から「土木は情報発信が弱いなあ」というモヤモヤとしたものがあった。

国や自治体なども、HPなどを通じて土木工事などに関する情報発信を行なっている。だが、その多くは「この道路が開通すると、何分短縮されます」とか「この事業により、何億円の経済効果が見込まれます」など、事業効果を伝えるものが多い。

発注者が事業効果を伝えることを否定はしないが、「それだけで本当に土木の魅力が伝わっているのか」、広報のあり方に違和感があった。

また、宮崎県をはじめ、各都道府県ごとに土木広報イベントも行われているが、その様子を伝える情報発信では「土木の魅力を伝える活動をしたこと」は伝わっても、「土木で働く魅力はほとんど伝わっていないなあ」という不満も感じていた。

岡部さんは、他の産業に比べ土木関係の情報発信が物足りない理由を、「発注者など土木関係者には、潜在的に自分の仕事を情報発信することに対する『抵抗感』があるから」だと分析する。

「みんなで作り上げたモノを自分だけの手柄のようにアピールするのは、いかがなものか」という配慮が、結果的に情報発信力を弱めているというわけだ。

岡部さんには「読者の共感を得られる情報を発信していかなければ、土木に対する理解や関心を高めることはできない」という思いが募っていった。

そこで、2013年8月、Facebookページ「土木のミリョク」を開設。「土木技術者の現場での仕事ぶり」に軸足を置いた情報発信を開始した。仲間とアイデアを出し合いながら、土木現場の写真や動画をアップしていった。「伝わること」に主眼を置き、投稿を重ねていった。

「土木のミリョク」で情報発信をしていく中で、「建築物の写真や情報はいっぱい出ているのに、なぜ土木構造物のモノは出ていないのだろう」という疑問が大きくなった。

岡部さんは「土木には完成した構造物を写真として残すという文化がないからだ」と考えるようになった。

単にキレイな写真ではなく、マニアックな土木情報を発信したい

土木の世界では、構造物を記録写真として残すことはあるが、「魅せる作品」として写真を撮ることは少ない。

「みんなで完成した土木構造物を愛でる活動ができないか」。そこから「土木写真部」の構想が生まれた。

土木現場写真の投稿は関係者に限られるが、完成した土木構造物であれば、「より幅広い人に参加してもらえるのではないか」という期待もあった。そこで2014年4月、新たにFacebookページ「土木写真部」を開設した。

土木写真部の部員は27名(2019年4月時点)。九州の土木技術者が中心だが、写真愛好家、ダムマニア、主婦なども名を連ねている。

部活中の岡部さん(右)

また、土木写真部は土木構造物の写真を愛でるのが趣旨とはいえ、「土木技術者に対する関心も高めてもらいたい」という思いは捨て切れないものがあった。

そこで「単にキレイな風景写真」ではなく、例えば、橋梁構造の説明などのちょっと専門用語が入る「若干マニアックな情報」に軸足を置いた情報発信を行うことにしている。

岡部さんは「あれ?このページなんか違うぞ、というところを感じ取ってほしい」と話す。

また、土木写真部では一方的に情報発信するだけではなく、読者とのコミュニケーションを重視している。投稿にコメントが寄せられれば、投稿者が丁寧に答えることを徹底している。

土木に対する世間の関心の薄さの原因には、「一般の人達とのコミュニケーション不足がある」と考えているからだ。


「土木技術者=コワいおっちゃん」ではない

土木写真部がこれまでに投稿した写真は2,300枚以上。大分県の「音無井路十二号分水」の投稿は、5万人以上の閲覧があった。

Facebookページへの「いいね!」は7,400を超えており、かなりの注目を集めるまで育っている。Facebookの投稿がきっかけで、テレビ局の取材を受けたこともある。

今のところ、土木写真部としてはFacebook以外のSNSは活用していないが、各部員がTwitterやInstagramなどを個人で活用している。テレビ取材を受けるなど、「土木写真部の活動は、世間にジワジワ浸透してきている」と言う。

撮影対象はすべての土木構造物だが、土木写真部の投稿写真は結果的に橋梁が多くなっている。各人が撮りたいものを撮るのが基本だが、「砂防ダムなど他の土木構造物も紹介していきたい」という思いもある。

岡部さんの作品「東九州自動車道赤岩川橋」

土木写真部では、WEBだけでなく、リアルな場所で写真展も開いている。それには、土木構造物の写真を通じて、土木技術者のことをもっと知ってもらいたいという目的がある。

そのため、写真展では撮影者である土木技術者のプロフィールも展示するほか、土木技術者が展示写真を解説するギャラリートークも行っている。

そこには来場者と土木技術者との接点をつくりたいという思いのほかに、「世間の人は、『土木技術者=コワいおっちゃん』というイメージを持っている。そうじゃないイメージを伝えたい」という狙いもある。

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建設業のありのままの魅力を発信すれば、人は来る

岡部さんは、宮崎大学で土木を学んだ後、1992年に宮崎県庁入り。「計画から設計、施工、土木工事のすべてのプロセスに携わることができる」ことに魅力を感じ、公務員を選んだ。

最初の配属先はダム建設事務所だった。土木技術者として、出先の土木事務所で道路や砂防ダムなどのものづくりを経験した。

現在は「美しい宮崎づくり推進室」という部署で景観行政に従事している。

知事の政策提案による新たな景観条例づくりと、条例に基づく施策展開、市町村との連絡調整、景観づくりに取り組む様々な団体の活動支援などが岡部さんの主な仕事。

20数年間にわたり県庁で土木の仕事を経験してみて、「県庁はスケールの大きな仕事もできるし、住民とも密接に関わることもできる。すごく自分に合っている仕事だ」と振り返る。

「県民の皆様が愛着や誇りを持って住み続けられるような魅力ある地域をつくっていきたい」と力を込める。

美しい宮崎づくり推進室メンバーとともに(左端が岡部さん)

岡部さんには「いずれまた、現場に近いところで仕事をしてみたい」という思いもある。公務員としてのキャリア形成を考えれば、今後担当者として現場に入る機会はまずないだろうが、「組織として、地域にとって満足度の高い構造物をいち早くつくる」というところに仕事のやりがいを見出している。

写真を始めたのは、「40歳から伸びる人、40歳で止まる人」(川北義則著)を読んだのがきっかけ。本には「より充実した定年後を過ごすには、40代のうちから仕事以外で人との関わりを持つべき」というようなことが書いてあった。

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それを読んで「自分も何か趣味を持たなきゃ」と、40歳を過ぎてから写真を始めた。

土木写真部の活動の背景には、「過疎化が進む地方の集落と同様に、建設業も担い手不足で高齢化が進んでいる。建設業のありのままの姿を情報発信すれば、地域固有の魅力を発信し、多くの人々を引き付けている集落のように、建設業にも人が来るんじゃないか」という思いがある。

土木写真部の今後の活動方針としては、「Facebook以外の多様な媒体を使った情報発信をしていきたい」。国土交通省九州地方整備局など「いろいろな団体とコラボしたい」という考えもある。

岡部さんは「土木に関する情報発信をする人の輪が広がれば」と力を込め、今日もシャッターを切る。

■Facebookページ「土木写真部

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