相性が悪すぎる「建設業界と新人教育制度」
社歴を積んだ人には、避けては通れないタスクがあります。「新人教育」です。
毎年、4月になると新卒が入社します。また、建設業界だと中途採用の割合も高いので、自分より年長の新人を育成することもあります。
ただ、「建設業界」と「新人教育制度」は、驚くほど相性が悪いんです。
そもそも建設業界には、手取り足取り教える文化なんてありませんでした。なぜなら、建設業界の新人教育は大工の徒弟制度が前身にあるからです。
おそらく、多くの方が懇切丁寧になど教えてもらえずに、先輩の姿から「見て盗め」という環境だったはずです。
先輩から無視されたり、怒鳴られながらも、自分のチカラで試行錯誤してきた方も多いのではないでしょうか。
すると、教育係に任命されても、「何をどうやって教えたらいいのかわからない」という問題が発生します。教えてもらう機会がなかったから当然です。
しかし、今の時代はそれではいけません。人口も減り、技術者の総数も減っているので、組織は新人を「元が取れる」人材、つまり「短期間」で「組織に利益をもたらす人材」に教育する必要に迫られてきます。
もし新卒の心が折れてすぐに退職しようものなら、人事部に叱責を喰らいます。中途社員が即戦力にならなければ、「指導力不足」「監督不足」と上司に叱りつけられます。
これでは、新人の教育係なんて面倒クサくてて良いことなんかないと思うかもしれません。
新人教育は建設業界の未来を担う仕事
今まで教えてもらった事が無いのに、人にモノを教えることはとても難しいことです。
しかし、人を教えることは、人を知り、自分を知ることのできるかけがえのない経験です。
また、建設業界の人手不足は紛れもない事実です。現場の一線にいる私たちが技術を継承していかないと、日本の建設業界の未来はありません。
新人の教育係とは、「日本の建設業界の未来を担っている」という矜持を持つに足る役目なんです。
私も今の勤め先に新卒で入社して7年ほどたちますが、これまで多くの新卒や中途社員の教育係をしてきました。
入社した当時は徒弟制の空気の中で過ごしてきましたが、会社も人材教育に注力し始め、今では指導状況の報告から資格試験のための学習時間の報告までするようになりました。また、外部の講師を呼んだ指導力強化の研修も受けました。
今回は、今まで教えてもらった事が無いのに人に教えないといけない、そんな「せんせいのたまご」になる方に向けて、どのように新人に接し、教育していくべきかを私の経験からお話したいと思います。
建設業界の新卒は年齢も経歴もバラバラ
建設業界に入ってくる新卒はさまざまです。建築学科の大学院まで出ている人から、工業専門学校を卒業してすぐに入社する人もいます。
最近では「第二新卒」の枠で、社会人として3年目、4年目くらいの人も「新卒」として入社することがあります。同じ新卒でも、年齢は10近く離れているケースもあります。
いずれにせよ、建設業界に意気揚々と入ってきた新卒たちは、素直に貪欲に仕事を覚えようとする人が多いです。
そういう人たちは、こちらが手をかけなくても、自主的にわからない事を聞いてきて、吸収していきます。そして、積極的に失敗してくれます。失敗も一つの勉強となり、ステップアップのきっかけとしてくれます。
もし忙しくて、質問にすぐに答えることができなくても、へこたれずに待ってくれます。
このような「素直」な新卒たちは、総じて仕事に対して強い興味や関心があります。そのため、こちらからその興味や関心に対して積極的にアプローチをかけ、尊重していくと、彼らはグングン成長していきます。
こうした素直な新卒たちへの教育は、教える側としても楽しいものとなるでしょう。
しかし、新卒は素直な人ばかりではありません。
中には、どうもひねくれていたり、学生時代に学んできたことやキャリアのようなものにプライドを持っている、「意識高い系新卒」も多いんです。
すぐにマウントを取りたがる意識高い系新卒
意識高い系新卒は、こちらが何か説明したり、指示する度に反論してきたり、自分の主張を繰り返します。
そして、(半分知ったかぶりですが)自分の知ってることを話したがります。「これって実はこうですよね?」といったように何かしら意見をしてくることも多いです。
彼らはマウントを取りたいというか、自分が優位な立場に立ちたいという意識が強く、こういった態度を取るのでしょう。かくいう私もそうでした。
教えている側からすると、こうした言動や態度に「イラっと」くることがあるかもしれません。
しかし、このままの状態では、彼らも成長せずに年だけを重ねていってしまいます。それに、周囲から煙たがられ、いずれは孤立してしまう恐れもあります。
こうした意識高い系新卒は、どのように育てていけばいいのでしょうか?
無知を自覚させ、プライドをへし折れ
意識高い系新卒には、とにかく自分の無知さを自覚させ、一度プライドをへし折ることが必要です。
つまり、相手は詳しく物事を知っている前提で指示をしていくのです。
例として、私が高層マンションのプランを作成している時に実際にあった、意識高い系新卒とのやりとりを再現します。
私 高層になるから採光の規制は気をつけてね。
新卒 まあ、そうですよね(採光の規制くらい知ってるよ、全く…)。ですけど、
私 あっ、今回商業地域だから4m距離とれば係数1で計算できるよね?わかる?
新卒 え…、ええそうですね(なんだっけ?)。
私 あと最上階の庇をガラス庇みたいに透過性がある構造にすれば、計算する高さを1層分緩和できるよね?そこも使えたら上手く使ってね?大丈夫?
新卒 (何だそれ?ガラス庇?)ああ…そ、そうでしたね。
私 けど緩和を認める行政は様々だから必ず役所に確認してね?わかった?
新卒 ??? ああ、はい。
このように、反論する隙を与えずに確認事項をとにかく伝えていきます。
言い返そうとしてきた時を見計らって、確認事項を小出しで応酬していくことが重要です。
なぜなら、一度に全部説明すると、知っている一部の箇所を切り取り「俺はこの内容は全て把握している」という態度を取るようになるからです。
だからこそ、一つ一つ丁寧に説明していくことが大事です。そうすることで、自分の悔しさも重なり、意欲的に覚えるようになります。
ちょっと過激な方法ではあります。一歩間違えたら、そのままやめてしまうかもしれませんが、一番手っ取り早い方法です。
「建設業はしんどい」という事実を隠してはいけない
少し厳しい教育方法をお話ししましたが、新しく建設業界に足を踏み入れた人は仕事のことは何も知らないし、こちらとしてもその期待をしてはいけません。
知らないことは恥ずかしくないということを、早い段階から彼らに自覚してもらうことが大切なんです。
そしてもう一つ、建設業界における新人教育には重要なポイントがあります。それは、建設業は「簡単な仕事」と思ってもらわないようにすることです。
「若い頃の苦労は買ってでもしろ」とか、そういうことを言うつもりはありません。
しかし、建設業は責任と覚悟を伴う仕事です。それは「しんどい」ことです。だけど、それに値する規模の仕事をやっている、これは強く伝えていかなければなりません。
よく、コンサルタントや起業家、投資家たちが「今億単位のプロジェクトやってるから」とドヤ顔しているのを見ますが、建設業界で仕事する人はみんな億単位の仕事をしてます。大変でも、とても誇れる仕事なんです。
こうしたことが少しでも新人たちに伝わり、建設業界に一人でも人材が残ってくれることを祈っています。