静岡県庁のドボジョ「ヒロやん」と「静岡どぼくらぶ」とは?
静岡県に「静岡どぼくらぶ」なる土木の集まりがある。
2017年4月にスタートした静岡県交通基盤部を中心とする産官学連携のプラットフォームで、ロゴマークやオリジナルソングを制作し、テレビやSNSなどを通じて、土木の魅力などをアピールする活動を行っている。
入部手続きがあるわけではなく、「土木を応援したい」という思いがあれば、誰でも参加できるゆるやかなコミュニティだ。
運営を担当するのは、静岡県交通基盤部の山田紘子さん(通称・ヒロやん)。てっきり事務職かと思いきや、れっきとしたドボジョだ。
どぼくらぶとは何なのか。活動を通じて土木の魅力は伝わっているのか。ヒロやんのドボジョとしての生き様と併せ、話を聞いてきた。
「静岡どぼくらぶ」の運営を担当する静岡県交通基盤部建設政策課の面々
センター試験当日に、父からシールド機械の刃を渡される
――土木の世界に入ったきっかけは?
ヒロやん 完全に父親の影響です。父は静岡市役所で土木の技術者をしていました。私が小さいころ、父の職場である下水処理場に連れて行ってもらったことがあります。大学のセンター試験当日に、父から「これはなんでも貫くんだ」などという意味不明な言葉とともに、シールド機械の刃を渡されたこともあります(笑)。
生活の中で、なにかと土木が身近にあったので、その流れで土木に入っていったという感じですね。でも、大学は農学部を選んだんですけど(笑)。
――農学部では何を勉強?
ヒロやん 地元の静岡大学の環境森林科学科という林業系の学科で、研究室は森林防災工学でした。木の根っこを調査したり、土石流の流動形態などを研究していました。高校生のときに「森ってスゴイな」という思いがあって、選んだ感じです。
私は3人姉妹の末っ子で、お姉ちゃん2人が県外の大学に進学していたので、親から「毎月お小遣い上げるから、地元に残って」とお願いされたことも1つの要因です(笑)。
大学では、砂防堰堤の設計とか、土木の勉強もしたのですが、メインではありませんでした。ただ、漠然とですが、将来は土木の仕事に就こうと思っていました。
――とりあえず公務員みたいな?
ヒロやん そうですね。地元で就職したいと思っていたので。最初は父と同じ静岡市役所を受けようと思ったのですが、その当時は土木学科出身でないと土木職は受けられなかったので、あきらめました。静岡県庁は、出身学科を問わず、土木職の採用試験に受かればOKでした。それで静岡県庁に入りました。
――土木職にこだわりがあったんですね。
ヒロやん そうですね。県庁には農業職、農業土木職、林業職があるので、普通の農学部出身者であれば、その辺を選ぶと思います。でも土木職にしました。
――それはなぜ?
ヒロやん 研究室の先生から「山田さんは、山の中の仕事よりは、まちづくりとか人と接する仕事の方が向いているよ。やっぱり土木なんじゃないの?」とアドバイスされたからです。それで気づきました。
転機となった「河津桜まつり」
――県庁ではどのようなお仕事を?
ヒロやん 最初は、静岡土木事務所に配属になり、現場を2年やりました。砂防堰堤をつくったり、急傾斜地の擁壁をつくったり、河川護岸の整備や災害復旧とか。自分で設計書をつくって、現場監督もやっていました。最初の配属先で、元々自分がやりたいと思っていた仕事ができました。
その後、県庁の道路整備課で交通安全対策の仕事を担当しました。そして、下田土木事務所に異動になって、河川、砂防、津波対策を担当しました。初めての一人暮らしで、下田に行ったのも初めてでした。河川の整備計画をつくったり、住民との対話で津波対策の検討する地区協議会などを行ったりしていました。
1年前に現在の建設政策課に来ました。今は「静岡どぼくらぶ」を担当しています。
――印象に残っているのは?
ヒロやん 下田ですね。「河津桜まつり」というのがあるんですが、河津川の堤防に年間100万人くらい観光客が来る早咲きの桜並木があって、堤防的にはリスクがあったんです。将来の川の計画を考えるときに、桜並木検討会を立ち上げて、桜を含めたまちづくりを考えることになりました。
住民の方々とワークショップなどをしながら整備していったのが、印象に残っています。いろいろな人と知り合いにもなれました。自分の仕事上の転機になったと感じています。
――転機?
ヒロやん 河川整備計画なので、最初は降雨確率などを調べていたのですが、最終的には木の根の根系の調査などを行ったり、樹木医さんと打ち合わせをしたりしました。大学のときの勉強がスゴく役に立ちました。
土木技術というよりは、住民との対話とかがメインでしたが、調整とかとりまとめとかいろいろなことをやったことで、「土木の仕事って、幅広いんだな」ということを実感しました。
JOYSOUNDで歌えるオリジナルソングを制作
――「静岡どぼくらぶ」は途中から?
ヒロやん そうですね。前任者が立ち上げたプロジェクトで、その人から引き継ぎました。どぼくらぶを発展させていくのが私の使命という感じです。展開内容として5つの柱がありますが、これは私が担当になってから考えたもので、ぶっちゃけあとづけです(笑)。
どぼくらぶには、「官民の壁を打ち破り、土木が地域の未来をつくる」というサブタイトルがあります。私たちが2年前にどぼくらぶを始めたもともとの理由は、建設業の担い手不足でした。それを解消していくために掲げた目標が、社会インフラの意義を周知しようということと、土木仕事のイメージ改善しようということでした。
行政だけでなく、民間企業などみんなを巻き込んでいこうということで、シンボルマークとしてのロゴをつくり、広め、共有する場としました。情報発信のプラットフォームとして位置づけています。運営は、基本的に交通基盤部の予算で賄っています。
どぼくらぶのオリジナルソングもつくっています。
どぼくらぶソング篇 / Youtube(静岡どぼくらぶ)
地元のコンサルさんがこの歌を使った企業PR動画を制作し、地元の放送局でTVCMとして流れました。その後、地元の業界団体さんなどが歌を使った動画を制作し、PRしていただいていますし、JOYSOUNDさんとコラボし、全国のJOYSOUNDのカラオケ店で歌えるようになっています。ラップ調にアレンジして、歌う動画もアップしています。
ロゴマークは、名刺に入れていただいています。シールやマグネットのロゴとかもつくっていて、ヘルメットにつけたり、重機につけたりとかして、PRしていただいています。
静岡どぼくらぶの各種グッズ。黄色いロゴは、なぜかビールジョッキに見える。
ただ、そもそもの目的である担い手確保について、今のところ目に見えて効果が上がっているわけではありません。1年や2年PRして担い手が増えるわけはないので、10年とかそれぐらいの長い話になると思っています。
今後とも、ICTの導入・普及や働き方改革などを含め、どぼくらぶを通じて、戦略的なPRを進めていきたいと考えています。
どぼくらぶのロゴを付けたら、みんな友達
――どぼくらぶには、メンバーシップみたいなのはあるんですか?
ヒロやん どなたでも参加できるので、とくにはないです。「会員数を教えてください」とよく聞かれるのですが、「把握していません」とお答えしています(笑)。どぼくらぶのロゴを付けてもらった人は、みなさんお友達です。
最近では、大阪府や山梨県、ツタワルドボク学会さんなどからお声がかかるようになっており、相談を受けたり、講演に行ったりしています。そういう方々もお友達です。県外の方々との連携による相乗効果の向上は、今力を入れているところです。
――土木広報の集まりって、仲間内だけで盛り上がりがちですが。
ヒロやん そうですね(苦笑)。ただ、名刺にどぼくらぶのロゴが入っていたりすると、お互いの距離が一気に近くなる感じはあります。
仲間内の話になりますが(笑)、コミュニケーションツールとして、良いなと感じることはあります。県庁の見学会のときに、参加した男の子が帽子に土木ラブのバッジをつけていたのを見たことがあって、そのときは「えっ♡!」と思って、嬉しくて泣きそうになりました(笑)。
どぼくらぶを通じて、ちょっとずつですけど、いろいろ良いことが増えている感じはあります。
――一般向けの活動は?
ヒロやん 県内の小学校、中学校、高校、大学で「どぼくらぶ講座」というのをやっています。こちらで交通費、保険料を負担して、現場見学会なんかもやっています。
――一般にどれだけ訴求しているか、把握しづらい面があるのでは?
ヒロやん そうなんですよねえ。広報の効果をはかるという意味では、メディアに何回掲載されたとか、賞を取ったということでカウントすれば結構簡単なんですが、一般の方々がどう思っているかを把握するのは難しいところがあります。
どぼくらぶの動画を見ていただいた方々を対象に、県でアンケートをとったりとか、県のイベント会場でアンケートをとったりして、情報収集するようにはしています。
私の経験で言えば、出前講座で小学校に行って、土木の説明する前に「土木のこと知ってる?」と質問すると、誰も手を挙げないんです。たまに手を挙げる子がいても、お父さんが土木の関係の仕事している子だったりするんです。
ただ、パワポを使って説明をしたり、ドローンを飛ばしたりすると、多くの子どもたちは「土木って大事だ」とちゃんと認識してくれるようになります。中には「ダムを見てみたい」という子もいて、親子インフラツーリズムを紹介したこともあります。
インフラツーリズムについては、今のところ自前でやっていますが、旅行会社さんなどとコラボできれば良いなと思っています。
職場での相談は最終手段。 仕事の悩みは父親に
――当然ながら、いずれ異動があるんですよね?
ヒロやん そうです。私がどぼくらぶを担当することになったのは、前任者が私を指名したからだそうです。「次は山田にやってもらいたい」と。
私が下田にいるとき、みんなでポロシャツをつくったり、全庁掲示板(県職員全員が見れる)に事務所の活動を投稿しまくったり、どぼくらぶの歌をラップで歌ったり、みんなでワイワイやっていたんです。どうやらそれが目にとまったらしいんですよ。
私もいずれ誰かに託すときが来ると思うんですけど、今は「どの子が良いかな〜」と一人考えているところです(笑)。書類的な引き継ぎでじゃなくて、自分の想いや期待も含め、しっかり引き継いでいきたいと思っています。
――公務員技術者としてのキャリアアップをどう考えていますか?
ヒロやん 実は、今年に入ってから「異動したいな」と思ったことがあるんです。いろいろツライことがあって、弱虫になったときがありました。でもそれはただの「逃げ」だったので、「これはマズイ」と思って、もう一回仕事に向き合うことにしたんですけど。
そのとき「これからどうしたい」ということをまずは考えたんですが、全然思いつかなかったんです。周りからは「道路やれば良いよ」とか言われるんですけど、私自身は「今もまだ探している」というのが正直なところです。県庁に入ったころにはあったいろんな思いが、今はちょっと行方不明になっちゃってます(泣笑)。
「え、そこまで言っていいの?」とコチラが心配になるほど率直な話しぶりが小気味良いヒロやん。
――女性の先輩とかに相談したりは?
ヒロやん 相談することはありますけど、ふだんは近くにいないので、多くはないです。職場での相談は最終手段という感じです。ずっと相談しているのは父親です(笑)。
女子はお父さんを毛嫌いするパターンは多いと思うんですけど、私の場合は、家族の中でお父さんが一番ウマが合うんです。お父さんに「こんな書類つくってなんになるのかなあ」と話しすると、たまたま父も同じ仕事をやっていたなんてこともありました。
そういうやりとりをしているうちに、明日もヤル気になることは少なくないです。だから、未だに父から離れられないんです(笑)。
――下田での一人暮らしはさびしくなかったですか?
ヒロやん 最初の1年はさびしくて、毎週実家に帰っていました。2年目は、職員住宅で同僚みんなと一緒にご飯食べたり、飲み会やったり、遊びに行ったりするようになって、実家に帰らなくなりましたけど。逆に、家族から「帰って来い」と電話が来るようになりました(笑)。
――今後やりたい仕事はありますか?
ヒロやん 現場をやりたいですね。公務員土木技術者としてレベルアップしたいです。「土木は経験工学だ」と教えられましたし。例えば、設計書をチェックするにしても、現場を知らないと何時間もかかってしまうこともあるので。
また、管内の市町の職員さんの助けになりたいですね。その自治体が魅力的なまちになってほしいし、それを自分でも情報発信したいという思いがあるからです。
だから、市町の相談にのれるようなチカラを身につけたいですね。管内のすべての人が「みんな幸せになると良いな」という気持ちがありますね。これは下田土木事務所の時から感じていることです。
やった感出したいだけなら、やめちまえ!
――女性として土木の世界で働くことをどう思いますか?
ヒロやん 女性ということで、やたら祭り上げられると思うことはありますね。例えば、「けんせつ小町女子会」という集まりがあったとき、とりあえず参加したりとか。あまり話は盛り上がりませんでした。まあ、オジサンの考えることなので(笑)。ただ、それじゃダメなので、やたら盛り上げ役に徹しました(笑)。
あと、どういうわけか2月14日(バレンタインデー)に設定した現場見学会のまとめ役をやるとか。「あ〜」と思いながらやったこともあります。周りは土木女子のためにやっているんだと思うんですけど、「あ、なんか祭り上げられている」と思って、ハッとわれにかえることもありますね。
――とりあえず女性技術者に集まってもらって、いろいろ意見を出してもらって、「ハイ終わり」みたいな?
ヒロやん そうです。「女性の意見をまとめてくれ」と言われたので、メモをとって渡したんですけど、その後、なんにもやらないわけです。
「この会、なんだったんだ!」
「わざわざ遠くから来た人もいるのに、フィードバックないんかい!」
「ただ、意見聞いて、やった感出すだけだったら、やめちまえ!」
と思いました。
――(笑)。
ヒロやん そもそも、単純に「女子会をつくれば、女子が群れる」かというと、少なくとも、私にはそういう考えはあまりないので。
――職場ではどうですか?
ヒロやん だいたいどこの職場でも女性技術者は1人なので、チヤホヤされます(笑)。「初めまして」と挨拶すると、「お、ヒロやん、よろしくね」みたいな。
――ヒロやん?
ヒロやん 社会人1年目の配属早々、アダ名がついてたんです(笑)。女性1人だと、良くも悪くも目立つと感じています。自分の知らないところで、ウワサがひとり歩きしてるんだろうなと感じることもありました。
――ずっと働いていたら、やはり気持ちの浮き沈みはありますよね。
ヒロやん 相当ありますね。私は、喜怒哀楽がすぐ顔に出ちゃうんです。不機嫌なときは終始無言ですし、上司に時々悪態ついちゃうんですよ。
すると、上司は「山田さ〜ん、なんでそんなこと言うの〜」と悲しそうにすがってくるんです。それで私も「まずい!」と思いとどまるんですけどね(笑)。周りからは「わかりやすい」と言われています。
――ストレス解消法とかあります?
ヒロやん 休みはとにかく外で遊んでます。朝から晩まで。基本的に家にはいません。だから、あまり休んでないですね。あとはひたすらTVですね。
――では、最後に静岡どぼくらぶのアピールを。
ヒロやん 「土木のCLUB(仲間)」が「土木をLOVE(好き)」になる! がコンセプトの”静岡どぼくらぶ”は、これからもあの手この手で建設産業を盛り上げていきます。
是非、興味のある方は、YouTube静岡どぼくらぶチャンネルで動画の再生回数を1回増やしてから、ご連絡ください(笑)。