日野伸一・大分高専校長

「発注者にこそ足を運んでほしい」 日野・大分高専校長が賭ける九州建設技術フォーラムへの思いとは?

技術の力で、防災・減災・国土強靭化

九州建設技術フォーラム2019(主催:九州建設技術フォーラム実行委員会)が11月8~9日、福岡国際会議場で開催される。

テーマは「技術の力で防災・減災、そして国土強靭化」。当日には、河田惠昭・関西大学特別任命教授の基調講演をはじめ、防災関係など115の技術展示、大学生などを対象にしたリクルーティングプレゼンテーションなどが行われる。9日にはインフラメンテナンス国民会議 九州フォーラムのイベントも開催される。

「民間会社がいくら技術を開発しても、それを使うのは発注者。発注者の方々にこそ、会場に足を運んでほしい」と語る、大分高専校長で実行委員長の日野伸一氏にフォーラムの見どころなどについて話を聞いてきた。


担い手確保を含めた多面的なフォーラム

――九州建設技術フォーラムとはどういうものですか?

日野 建設技術は日進月歩です。建設技術に関する情報を共有することによって、開発、実用化を促進し、品質や環境の改善、コスト縮減など、さまざまな建設環境の改善に貢献することを目的としています。ブースやパネル展示、プレゼンなどを通して、技術交流する場を提供するものです。

昔はフェアというカタチで開催していましたが、今のフォーラムになったのは2004年からで、今年で16回目の開催になります。他の地域でも類似のイベントがありますが、技術プレゼンを行っているのは、このフォーラムだけですはないでしょうか。

われわれのフォーラム独自の取り組みとしては、数年前から、高校生や大学生などを対象に「建設分野の仕事」に関する情報提供を行うリクルーティングプレゼンテーションを行っています。

毎年多くの学生が参加しており、今年も400名が参加予定です。担い手確保を含めた多面的なフォーラムとなっています。

――リクルーティングプレゼンテーションではどのようなお話を?

日野 特定の民間企業としてではなく、業種ごとの業界団体として行っています。業務内容をはじめ、ふだんの生活などにも踏み込んだ部分についても説明しています。

プレゼンを行うのは学生に近い年齢の若い方々なので、学生との距離が近く、積極的に参加してもらっていると感じています。100名ぐらいの会場で、立ち見も出ています。

――今回のフォーラムの見どころは?

日野 今回のフォーラムのテーマは「技術の力で、防災・減災、そして国土強靭化へ」です。昨年のテーマは「インフラメンテナンス」でした。基調講演には、河田惠昭・関西大学特別任命教授をお招きします。

河田先生は、日本の防災分野研究の第一人者で、ハード、ソフト両面の全体システムの重要性を訴えてこられた方です。今回の講演でも、そういった観点からお話しいただくことになっています。

私としては、自治体など発注者の方々にこそ、会場に足を運んでほしいという思いがあります。民間会社がいくら技術を開発しても、それを使うのは発注者です。今どういう技術があるのか、自治体の職員の方々に知ってもらいたいです。

自治体職員の中には、技術系出身ではないため現場を知らず、民間に仕事を丸投げする人もいます。また、技術・材料・工法など、常に建設技術開発の動向を把握していなければ、適切な発注者業務を遂行することも難しいと思います。来場すれば、いろいろな技術情報を一度に収集することができます。

ハード対策あってのソフト対策

――ここ数年、九州では毎年のように災害が起きていますね。

日野 地震は、九州に限らず、全国のどこで起こっても不思議ではありません。加えて、九州は台風の通り道ですし、火山噴火もあります。九州には、多くの自然災害のリスクがあります。防災減災の備えをする上で、これで終わりということはありません。

災害の備えについて、世間的には「ハード対策だけではなくソフト対策も」と言われますが、私個人としては、最近つくづく「ハード対策あってのソフト対策」だと感じています。

ここ数年、風水害の規模が昔に比べ大きくなっています。既存の構造物は、過去のデータをもとに設計されていますが、それが参考にならないぐらい最近の災害外力の規模が巨大化しているわけです。

われわれ土木技術者は、この巨大災害に対して最大限努力していかなければなりません。フォーラムでは、災害の備えに関する意識の共有を図りたいと思っています。

――展示の方はいかがですか?

日野 今回は全115ブースのうち、防災関係の展示が35を占めます。例年に比べ、防災関係の展示が多くなっています。九州各県、政令市のパネル展示もあります。展示会場には、NETISなどに関する国の技術支援窓口も設置されます。


高専の求人倍率は28倍

――建設業の担い手不足が深刻化していますね。

日野 「最近は人が少なくなって厳しい」という話は私もよく聞きます。フォーラムは高校生以上が対象ですが、私が関わっている「インフラメンテナンス国民会議 九州フォーラム」という別組織の方で、それ以下の子どもを対象にしたイベントを開催予定です。

この国民会議では、市民への啓発、広報も行っていて、福岡都市高速などの現場をお借りして、11月10日(日)に親子を対象にしたイベントを行う予定です。このイベントでは、現場見学だけでなく、現場の技術者に対して子どもたちが取材し、発表してもらうことにしています。子どもたちにも建設の大切さを正しく理解してもらわなければなりません。

若い人が建設業界に入ってこないのは大きな問題です。私は2年前から大分高専にいます。手前味噌になりますが、高専生は非常にまじめで優秀です。卒業生の6割が就職していますが、即戦力として、民間企業などからの評価は高いです。

ただ、6割のうち地元就職は2割で、残りは県外就職です。今は大企業を含め引く手あまたで、大分高専の求人倍率は28倍、学生1人当たり28社の求人があります。大手企業にも十分な人材供給できないほどなので、地場の企業にとっては非常に厳しい状況になっていますね。

「今やらねばならないこと」を考える機会にしてほしい

――最後に来場者に向けたコメントを。

日野 本フォーラムは、毎年、その時どきの建設技術に関するタイムリーな話題をテーマに、九州中の行政、企業、学協会など、産官学の関係機関が協力して企画実施しています。

今年のテーマは、過去にも数度取り上げた「防災・減災・国土強靭化」がテーマです。毎年のように頻発、激甚化する自然災害に対して、私たちがそれぞれの立場で、今やらねばならないことは何か? を考える良い機会です。

また、本フォーラムの2日目の午後には、同会場にて「インフラメンテナンス国民会議九州フォーラム 第3回ピッチイベント ~ニーズとシーズ、マッチングの萌芽~ 」も同時開催されます。九州における公共インフラの維持管理に関する自治体支援、技術開発促進に向けた情報交換の場を提供します。

いずれも、土木関係者だけでなく、一般の市民の方々、次代を担う若い学生の皆さんのご参加も歓迎します。是非、ご来場いただければ幸いです。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「フルハーネス義務化」を勘違いしてる人が多すぎる!現役講師からの警告
「公共事業費の削減は、新たな公共事業を生む?」土木施工管理技士のリアルな現場体験談
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
「建設ディレクター」という新しい職種が、建設業界を変える?
「建設業はインフラそのもの」地域建設業を救う、国交省関東地方整備局の“素晴らしき挑戦”
「復興のために」とか、口先だけの人は不要!【除染現場の最前線から】
基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
  • 施工の神様
  • インタビュー
  • 「発注者にこそ足を運んでほしい」 日野・大分高専校長が賭ける九州建設技術フォーラムへの思いとは?
モバイルバージョンを終了