神戸に世界最長の連続斜張橋ができる!?
大阪湾岸道路西伸部(六甲アイランド〜駒栄、延長14.5km)の建設が進んでいる。
西伸部は、慢性的な渋滞が続く神戸線のバイパス道路で、渋滞緩和のほか、災害発生時の代替路確保などの事業効果が見込まれている。計画は40年以上前からあったが、1995年に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の影響、巨額な建設費などがネックとなり、事業化が遅れていた。
2019年12月には、ルート上にある2つの橋梁形式について、それぞれ連続斜張橋(六甲アイランド〜ポートアイランド)、1本主塔斜張橋(ポートアイランド〜和田岬)を選定。完成すれば、2橋梁は、いずれも世界最大規模となる。ここに来て、ようやく西伸部の全体像が明確になったわけだ。
西伸部とはどのような事業なのか。完成によって、なにが変わるのか。世界最大規模の斜張橋建設にはどのような意義があるのか。取材してきた。
未開通区間20.9km中、14.5kmを事業化
大阪湾岸道路(4号、5号湾岸線)は、神戸淡路鳴門自動車道(垂水JCT)から関西国際空港(りんくうJCT)を結ぶ延長約80kmを指し、延長約59kmが開通している。大阪湾岸道路西伸部は、湾岸道路の未開通区間(六甲アイランド北〜垂水JCT)の延長20.9kmを指す。
この区間のうち、六甲アイランド北〜駒栄間延長14.5kmが今回事業着手した区間になる。西伸部は、31号神戸山手線と接続される。駒栄〜垂水JCTについては、都市計画はあるが、事業化については、現在白紙だ。
西伸部のルートは、5号湾岸線の終点である六甲アイランド北が起点。六甲アイランドを横断し、西端部の六甲アイランド西ランプ(仮称)から、灘浜航路、新港航路が通る海上をまたぎ、ポートアイランド東端部のポートアイランド東ランプ(仮称)に接続する。
ここから島を西南に進み、西端部のポートアイランド西ランプ(仮称)から、再び神戸西航路が通る海上をまたぎ、和田岬西防波堤付近に上陸。海岸沿いを進み、南駒栄JCT(仮称)を経由し、31号神戸山手線に接続する。
大阪湾岸西伸部の概要(阪神高速道路HPより)
全国ワーストの渋滞緩和、災害時の代替路確保など
西伸部の整備効果は、主に3点ある。
1つ目が、移動時間の短縮だ。神戸の海沿いを通る都市高速は今のところ神戸線だが、慢性的な交通渋滞が発生している。国土交通省の調査によれば、神戸線(西宮JCT〜第二名神接続部)の渋滞損失時間(1万人が1年間のうち損失する時間)は、下りが323.8時間、上りが245時間に上る。この数字は、上下線合わせて年間568.8万人が渋滞により、1時間ムダにしていることを意味する。
全国の都市高速の中で、ワーストのワンツーとなっている。西伸部が開通すれば、玉津IC〜神戸港の所要時間は45分から31分に、玉津ICから大阪駅の所要時間は96分から64分にそれぞれ短縮される(国土交通省調べ)。
2つ目が、代替路の確保だ。神戸線では、年間855件(2018年)の交通事故が発生しており。このうち392件で車線規制(一部通行止め含む)が実施されている。車線規制により、一般道に車両が集中し、渋滞が発生している。
神戸線の開通は1961年。建設から60年近くが経過しており、大規模更新の必要もある。西伸部は、神戸線の代替路として機能させることができる。代替路の確保により、神戸線の大規模改修も可能になるほか、災害発生時のリダンダンシー確保にもなる。
3つ目が、ポートアイランドに立地する企業や神戸空港などの経済活性化だ。現状では、ポートアイランドには都市高速は接続しておらず、大阪方面への移動には神戸市が管理するハーバーハイウェイ(有料)を経由し、阪神高速に乗り入れる必要がある。
ポートアイランドには2つの出入り口を設置予定で、阪神高速への直接乗り入れが可能になる。立地企業、ポートアイランドの先にある神戸空港利用者にとって、アクセス向上になる。
ポートアイランド周辺の現況(写真提供:阪神高速道路株式会社)
神戸線は、西日本の物流の大動脈であり、そのリダンダンシーを考えれば、西伸部は早期開通が必要な重要な路線だと言えるが、当初の計画から事業化まで40年以上の年月を要した。なぜもっと早く事業化できなかったのか、という素朴な疑問が湧く。
この点、「それはやはり事業費がネックになっていたからだ。神戸市は1995年の兵庫県南部地震で大きな被害を受け、震災復興には大きなお金と時間が必要だった。われわれとしても、早期に事業化したいのはヤマヤマだったが、『まずは復興』ということで、新線の事業費としての地元負担の合意ができなかった」(広瀬鉄夫・阪神高速道路㈱神戸建設部長)と振り返る。
できるだけ完成を前倒ししたい
西伸部は、全6車線の80km/h道路(第2種第1級)で、国土交通省近畿地方整備局(公共事業)と阪神高速(有料道路事業)による合併施行方式で行う。公共事業は道路と港湾に分かれる。全体事業費は約5000億円(公共分約2500億円、有料道路分約2500億円)。当初は、全線公共事業(国道)として事業化されたが、阪神高速と事業費を折半する合併施行方式に変更された。
2018年12月に工事着手しており、現在、駒栄ランプ付近のトンネル工事が進められている。完成時期は未定だが、広瀬部長は「事業認可上の期限は2032年3月だが、できるだけ前倒しして完成させたい」と話す。
大阪湾岸西伸部の起工式の様子(写真提供:阪神高速道路株式会社)
西伸部(今回事業着手した区間)の延長14.5kmのうち、海上ルートは約5.8km。六甲アイランド〜ポートアイランド間(新港・灘浜航路部)、ポートアイランド〜和田岬間(神戸西航路部)ともに、神戸港などに出入りする船舶にとって、重要な航路となっている。大型クルーズ船の通航のため、航路高(橋桁の海上からの高さ)は最高65.7mとなっている。
みなとまち神戸にふさわしいのは斜張橋
同社は2017年9月、学識経験者らで構成する技術検討員会(委員長:藤野陽三・横浜国立大学上席特別教授)を設置。最適な橋梁形式の選定、橋梁・構造計画に関する議論をスタートさせた。
議論に際し、「災害時の人流・物流ネットワーク機能の確保」、「『みなと神戸』にふさわしい景観の創出」、「維持管理しやすい構造」の3つの計画コンセプトを設定した。
新港・灘浜航路部は5形式(単独斜張橋、多径間連続斜張橋不等径間・等径間、多径間連続吊橋5径間・4径間)神戸西航路部は3形式(1主塔斜張橋2案、2主塔斜張橋)について、比較検討を重ねた。
連続吊橋は、連続斜張橋より経済性が劣り、アンカレイジの沈下リスクなどがあることから、選定から外された。不等径間の連続斜張橋は、側塔の張力変動が大きいほか、橋脚が多く、景観、維持管理面で劣ることから、外された。
同委は2018年12月、中間とりまとめを公表し、新港・灘浜航路部は連続斜張橋(等径間)と単独斜張橋の2案、神戸航路部は1本主塔斜張橋(主塔が和田岬側、ポートアイランド側)、2本主塔斜張橋の3案に絞り込み、さらに検討を続けた。
2019年12月、中間とりまとめⅡを公表。最適な橋梁形式として、新港・灘浜航路部に連続斜張橋(主塔4本)、西神戸航路部に1本主塔斜張橋(ポートアイランド側)を選定した。
連続斜張橋の選定理由として、3つの計画コンセプトに合致する特徴を有する上に、均等径間により桁の重量がバランスし、中央部の海上橋脚が不要になるほか、連続斜張橋として世界最大規模になることなどを上げた。主桁、主塔ともに鋼製とした。一方、単独斜張橋は、とう曲の不確定性に対するリスクがあることなどから、外れた。
1本主塔斜張橋(ポートアイランド側)の選定理由には、主塔へのとう曲の影響が小さく、景観性に優れるほか、最大支間長が480mと1本主塔の斜張橋として、こちらも世界最大規模になることなどを挙げた。主桁、主塔は鋼製。他の2案を外した理由には、とう曲の不確定性に対するリスクを挙げた。
長大橋として連続斜張橋を採用するのは国内初。世界的にも、スコットランドのフォース湾に架かる連続斜張橋「クイーンズフェリー・クロッシング」(2017年完成、橋長約2.7km、主塔3本)に並び、世界最大規模となる。
今回の橋梁形式選定を受け、広瀬部長は「連続斜張橋は、地震発生時に橋桁が外れるリスクが低く、中間橋脚が不要なため、維持管理コストも削減できる。景観的にも美しく、みなとまち神戸にふさわしい橋梁形式だ。ただ、世界最大規模ということもあり、非常に高いレベルの技術が求められる」と言う。
建設業界への新たな活力に期待
神戸には、1998年に完成した明石海峡大橋(橋長3.9km)がある。言わずと知れた世界最長の吊橋だ。その目と鼻の先に、新たに世界最長の連続斜張橋が架かれば、世界最長の吊橋と斜張橋を同時に眺められる国内有数のスポットになる可能性がある。
明石大橋以降、日本国内の長大橋プロジェクトが実質的に凍結状態だったことを考えると、今回の連続斜張橋は、数十年ぶりの長大橋プロジェクトになる。ただ、その完成までには、技術的にも幾多の困難を伴うことは想像に難くない。一都市高速の建設プロジェクトではなく、日本の建設技術を結集して取り組むべきプロジェクトだと言える。
このプロジェクトによって、日本の建設業界に新たな活力を吹き込むことを期待したい。