真鍋 英規さん(株式会社CORE技術研究所 代表取締役社長)

「コンクリート技術の”核”になりたい」 PC維持管理の専門コンサルが成功した理由とは?

PC・RCの維持管理というニッチな分野で成功した理由

株式会社CORE技術研究所(本社:大阪市北区)は、もともとPC構造物建設専業者の技術者であった真鍋英規・代表取締役社長が2013年に起業した会社だ。

PC構造物の調査・診断、新設設計、補修・補強設計、数値解析のほか、補修材料の販売、ソフト開発などを手掛ける。

真鍋社長は「日本の社会基盤構造物はこれから老朽化が加速する。とくにPC・RC構造物に対する維持管理、保全手段の未成熟や、本分野に精通する技術者や専門コンサルタントの絶対数の不足を痛感。そこで、この分野を専門とするコンサルタント会社を設立し社会に貢献したいという思いで起業に至った」と振り返る。

この読みはズバリ当たり、会社設立以降、7期連続で黒字を達成。社員数は、当初の10名から70数名に増えた。近年では、自己治癒補修材の販売や海外展開など経営多角化も進めている。

PC・RC構造物の維持管理というニッチな分野で、同社はなぜ成功することができたのか。同社の強みは何か。起業の経緯を含め、真鍋社長に話を聞いてきた。


本質的な議論ができず「精神的に疲弊」

――もともとは、どのような仕事を?

真鍋社長 PC構造物建設専業者には23年ほど在籍しました。最初の配属先は技術部設計課で、最初の10年ぐらいは、自分で設計をした後、現場に出て施工もやるということを繰り返していました。

その後はずっと設計にいました。まだまだ新設の仕事が多い時期で、休みがとれないほど忙しかったです。

昔は営業設計という仕事があって、本来設計すべき業者に代わり、専業者が上部工の詳細設計を担っていた時代が長く続いていました。しかし今から約10数年前には、受注コンプライアンス上の問題から営業設計がなくなりました。

ちょうど公共投資が減り始め、入札競争が厳しさを増し始めたころで、会社は設計人員の削減などのリストラを始めました。人も仕事もどんどん減り続けていったわけです。

そんな中、PC専業者はこれからは維持管理に力を入れようとし始めましたが、なかなかお金が合わないということで苦労していました。

私自身、PC橋梁の補修・補強の件で、役所などの道路管理者に協力を要請されたことが多々ありました。しかし、いちPC専業者の技術者の立場では様々な柵があり、本質的な議論ができませんでした。

非常にもどかしさを痛感するとともに、「精神的に疲弊した」のを覚えています。

――なぜ自分で会社を立ち上げようと思ったのですか?

真鍋社長 PC橋梁などの設計ができ維持管理に精通する技術者は、全国的に数が少ない。その理由はよくわかりませんが、PC工学を教えていない大学があること、PC専業者における設計技術者の位置づけ、また営業設計を行っていた時代の弊害により、コンサルタントの中にPCの本質のわかる人員が多くないこと、などが考えられます。

そういう状況を見ているうちに、「PCの維持管理を専門とするコンサルタント会社がつくれそうだ」と考えるようになったわけです。

それで会社を辞めることにしたわけですが、ちょうどその頃は建設業界の景気が非常に悪かったので、新たに会社をつくるにはタイミングが良くありませんでした。

そこで、コンクリート構造物の点検・調査の実務行うコンサルタント会社に転職することとし、今までにない視点で学ぶ決意をしました。

私のほか、同じPC設計セクションでやってきた2人の技術者と一緒に入社しました。入社後、3人で構造設計部を立ち上げ、調査・診断の仕事を覚えていきました。

あと、中小企業の経営ノウハウも学ぶことができました。5年間ほど勤めた後、満を持して自分の会社をつくることにしたわけです。


“柵がない第三者” として中立的なコンサルができる

――満を持して、起業されたと。

真鍋社長 そうですね。2013年7月に株式会社CORE技術研究所を設立しました。

最初は10名で始めました。会社名の「CORE」には、「土木技術、コンクリート技術の核になりたい」という意味を込めました。技術研究所の部分は前の会社から拝借しました(笑)。

幸い、会社設立初年度から、ある程度の仕事をいただくことができました。受注先には、高速道路会社、コンサルタント、ゼネコン、PC専業者などのほか、鉄道事業会社である東京メトロ、大阪市交通局(現・大阪メトロ)、最近では名古屋市交通局などがあります。地下鉄の仕事では、PCグラウト充填調査や地下構造物の点検などを行っています。

ウチの強みは、点検・調査だけではなく、診断、新設設計、補修・補強設計、および数値解析もできるところです。これらをすべて”一社ワンストップ”でできる会社は、そうはないと思っています。

日本の橋梁種別の約40%はPC構造であり、本来耐久性に優れているはずですが、早期に特有の劣化が生じる事例が多々あり、維持管理は大きな課題となっています。

最近では、とくにポステンPC構造物のグラウト充填不足に伴うPC鋼材の腐食や破断が顕在化しており、構造物の耐荷力はもとより周辺の安全対策が急務となっています。

弊社では、非破壊検査技術を用いたPCグラウト充填度調査と、その劣化に対する補修・補強設計に関する独特な技術を有していることから、各方面からの需要が急伸しています。

PC橋梁の調査および補修・補強設計は、それをつくったPC専業者が責任を持って携わる場合が多いです。しかし、それらのPC専業者ではなく、「柵がない第三者」として中立的な立場でコンサルティングできるのが、ウチの強みであり、私の狙いでした。

その狙いはズバリ当たって、建設コンサルタントをはじめ、PC専業者からも仕事の依頼が来るようになりました。もし、一PC専業者所属の人間だったら、こんな仕事は絶対できなかっただろうと思います。


SE雇用し、システム・ソフト開発を内製化

――開発室もお持ちですね。

真鍋社長 ええ。維持管理の仕事をする上で、業務の効率化、生産性のアップは求められると考えています。人間には個人差がありますが、その違いはわずかです。

では、なにで効率化を図るかとなると、AIやコンピュータのチカラに頼らざるを得ないと考えています。ただ、これらを外注すると、莫大なお金がかかります。

そこで、自前でSEを雇い、プログラムなどの開発を内製化することにしました。必要な部分に対して少しでも効率化を進めるほうが、コスト的には圧倒的に有利だと考え、開発室を設置したわけです。

社内システムの構築や調査解析プログラム開発も担当してもらっています。土木技術者にはない、SEならではの新たな視点にも期待しているところです。

――社員もかなり増やしていますね。

真鍋社長 建設コンサルタント経営の基本は、パーヘッド。つまり「技術者数=売上」です。

スーパーマンみたいな社員がいても2倍の仕事はできません。会社として売上を上げるためには、それなりの質の技術者を雇っていかなければいけません。

幸い、私なりにそれなりの人脈がありましたので、それを使って人を雇うことができてきました。まず人を雇って、その分新たに仕事をとってくる感じで、人を増やしてきました。

現在は、アルバイトおよび派遣社員を含めると70数名ほどいます。今後も、毎年5名程度の採用を続けていきたいと考えています。そのためには、毎年最低1億円程度の売上げアップが必要になります。


「患者さん」が増えるのはこれから

――売上はどんな感じですか?

真鍋社長 今期の売上は14億円が目標ですが、ほぼ達成できると考えています。

おかげさまで、会社設立以来、7期連続黒字できています。成長過程にある間に、新たな事業を立てていきたいと考えています。

その一つが、東京大学生産技術研究所が開発した自己治癒補修材の販売です。ウチが総代理店になっています。韓国には、狭隘な場所でも基礎杭が打てる「SAP工法」という技術があるのですが、この技術の日本普及も進めたいと考えています。

そして、もう一つが海外展開です。すでに、韓国とベトナムに現地法人を設立しています。東アジアのインフラも日本と同様に順次老朽化していきますので、そういった海外の維持管理の仕事もとっていきたいと考えています。

PCの維持管理の仕事はまだ出始めたばかりなので、「患者さん」が増えてくるのはこれからです。ウチのような会社が今後も必要とされるのは間違いないと考えています。

類似する会社も増えてくるだろうと思っているのですが、今のところあまり話を聞きません。いまだに「調査、設計、試験は別々」という会社ばかりです。ウチのような会社が出てくることを期待しています。

――「100年コンクリート」というワードを使う会社もありますが。

真鍋社長 高強度なコンクリートの開発は有意義だと思いますが、コンクリートはどうしても経年劣化します。寿命が伸びたとしても、維持管理メンテナンスは必要になってきます。

先の東京オリンピックや大阪万博のために、整備された高速道路を代表とする社会基盤構造物は、短い工期で大量に建設されたものです。

当時としては最善を尽くしていたと思いますが、施工技術の限界、材料自体の問題点、設計・施工マネージメントの未成熟さがあったことも事実です。それゆえ、本来コンクリートが有している耐久性を発揮できてはいません。

今の時代でも同様であり、国家などのイベントのために急速施工を余儀なくされる場合も多々あります。後の世に問題点が露呈する可能性を秘めていると思います。

技術の発展にゴールはありません。広く技術の見識を持ち、社会貢献となるより良いものを生み出す努力を一生続ける強固な意志が必要です。

技術は日進月歩で変革しており、常に自身の技術を研鑽する努力を怠ってはならないと痛感しています。

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