開設したエクステリア施工技術研修所「DO SPACE上尾」

開設したエクステリア施工技術研修所「DO SPACE上尾」

YKK APのエクステリア施工技術研修所を見学してみた

エクステリア業界の課題解決に挑むYKK AP

大手建材メーカーのYKK AP株式会社は、エクステリア施工技能者の育成・レベルアップ、施工技能の伝承や施工品質の向上や省施工に向けた実用的な施工技術の開発などを目的に、埼玉県・上尾市にエクステリア施工技術研修所「DO SPACE 上尾」を開設、2020年4月から本格運用を開始した。

エクステリア業界では、施工技能者不足と高齢化、多様な商品や納まりへの対応、施工品質要求も高まっている。今後、エクステリア商品の販売を強化するためには、商品の施工に携わる職人の技術育成につとめるとともに、職人のワザや知恵などを結集した施工しやすいノウハウや、施工技術の開発・研究が求められている。

今回は、人材育成、職人ワザの伝承、施工技術開発の3つのアプローチからエクステリア業界の課題解決に挑む「DO SPACE 上尾」を見学してきた。

エクステリアで住宅の資産価値は上がる

家の外側の空間であるエクステリアは、家の顔の部分といえる。

YKK APにおけるエクステリア事業の主力商品には、バルコニーまわり、カーポート、門扉・フェンス、テラスまわりや外装材などがある。YKK APでは、これらの商品をただ取り付けるだけではなく、「建物と外構のトータルコーディネイト」を施すことで、住宅の資産価値を向上させている。

例えば、住宅部位を建築物の正面から見た外観、建物の快適性、庭空間の3つのカテゴリーにわけて部位ごとに商品力・提案力を強化。外観では、外構を建築物の一部として、ランク別に高付加価値商品、快適性では、光、熱、風、水の4つの自然を活用し、住まいの工夫を、庭空間ではニーズに合わせたランク別に心地よい価値をそれぞれ提案している。

また、新築で住宅を建築した後、10年目を迎えればリフォーム、20年後にライフスタイルが変化すればリノベーションを施すことになるかもしれない。YKK APには、すべての人生のステージでエクステリアを提案し、今後の需要を創造していくねらいもある。

ただし、エクステリア業界では、庭まわりやアプローチなどのガーデンエクステリア市場、窓まわり、バルコニーなどのウォールエクステリア市場の伸長が期待される中において、エクステリアを施工する職人の高齢化と不足という二重打撃が業界を襲っていることが悩ましい。

こうした背景から、これまでメーカーとして商品開発に注力してきたYKK APは、施工による品質担保にもシフトした。これは同社のエクステリア事業の戦略を次のステップに進めたと言える。2024年度にエクステリア事業の売上高で2018年度比70%増を目指すYKK APにとっては、施工力の向上は欠かせない事項でもある。

実物大の躯体を活用した実技研修

そこで開設されたのが、「DO SPACE上尾」だ。

ここでは、単に商品の組み立てや取り付け方法を学ぶだけではなく、実物大の躯体や研修体を活用した実技研修により、商品の長さや重量を感じつつ、現場調査や墨出し、基礎用の穴あけや柱の立て方、調整などエクステリア工事の基本を学べる施設となっている。

実技研修場全景

障害物など、実際の施工現場を再現した環境で実技研修することで、より実践的な施工技術が習得できる点も大きなメリットだ。

また、座学コーナーもあり、施工の知識や技術、現場で必要なマナー、安全知識、関連法規などの研修も行っている。

座学研修

職人ワザを”見える化”し、”伝承”する

施設を見学したのち、エクステリア施工技術研修所の三輪哲也所長と金田義久エクステリア技術力強化チームリーダーに話を聞いた。

――研修所では、具体的にどのように研修を進めていく?

三輪 「カリキュラムを開発」→「施工効率・品質をあげるため、職人ワザの見える化と研究開発を進化させる」→「カリキュラムを充実する」というPDCAサイクルを効率的に回すことを考えています。

職人ワザは、従来は見えないものでしたが、これからの時代は可視化して伝えていくことが重要です。これまで親方から子方へと伝承されてきたものが、現在は崩壊しつつあります。これは、エクステリア業界でも同様です。

そうなると、職人ワザをみなで持ち寄り共有していくことが望ましい形となります。そこで弊社から全国約600社1,000名からなる施工協力会にアプローチし、研修を通して職人ワザを見える化し、広めていきたいと考えております。

三輪哲也氏

――どれくらいの方が受講される?

三輪 受講者は施工協力会の施工技術の向上および安定と、弊社の商品を扱っていない流通店様、エクステリア工事店様が受講することによるエクステリア施工の担い手の拡大という2本柱で受講者を募っております。

具体的には、4月入社との新卒者向け研修ではなく、ある程度エクステリアの知識があり、窓、サッシの組み立てや電動工具の経験者をターゲットにしています。

必ずしも、YKK APの施工協力会に入会されている方に限ってはいません。例えば、商品のお取引先で施工を行っている方でも受講は可能です。

――講師はどなたが担当する?

金田 講師は、弊社で生産技術部門を担当し、施工部門に精通している社員が担当します。これまでも、移動型研修にて各地で施工協力会向けに講師を行ってきた社員もいるので、研修所で引き続き講師を担当します。

金田義久氏

――これまでのYKK APの研修と異なる点は?

金田 これまではYKK APの商品の組み立て方法を説明してきました。これに加えて、基礎の底面の納め方、柱を立てた後のレベル出しなど、実現場に近い研修となっています。

「リウッドデッキ200」実技研修


商品開発では施工の簡易化を視野に

――メーカーとしては、今後の技術開発のシーズのようなものは生まれている?

三輪 商品開発の時点から省施工を視野に入れ、様々な商品開発を進めております。

たとえば、今春発売した次世代カーポート 「エフルージュ FIRST」シリーズは、シーリングレス化を推進し、部品にはあらかじめ止水剤が塗布されています。そのため、枠にそのまま取り付けるだけで止水が可能となり、施工が簡易化しています。

施設の立ち上げの際に施工協力会の職人たちと話す機会があったのですが、メーカーで想定している施工と現場での施工に差があるということが分かりました。より実用的な商品開発のため、研修を通して職人たちからのヒアリングも進めていく予定です。

――エクステリア施工の課題は?

金田 技術・技能の進化は、個々の職人世界の中で行われてきましたが、それではその周辺や後進にまで蓄積されません。だからこそ、私たちメーカーが施工技術を蓄積し、後世に伝えていくことが重要で、ひいてはエクステリア施工の担い手が増えてくれることが最も望ましいことだと考えております。

また、YKK APでは「建物と外構のトータルコーディネイト まるごとデザイン」をテーマとしておりますが、戸建て住宅+高い意匠性のエクステリアが実現すれば、工務店様やビルダー様の事業の幅も広がるのでは、と考えております。

――エクステリアまで手掛けれられれば、住宅業界全体の提案力が増す。

三輪 これからは工務店様やビルダー様が、建物とエクステリアを一体で提案していくことが重要となってきます。

そのためには、施工力で品質を確保することが最も重要になります。例えば、外構・エクステリアを施工している方が、ウォール商品のテラスも施工したいということであれば、研修所で研修を受ければ、仕事の幅が次々と広がっていきます。

弊社にはデザインセンターがあり、商品のトータルコーディネイトも行っているため、工務店様やビルダー様による提案のお手伝いもできればと考えております。

「DO SPACE上尾」施設概要

施設名:エクステリア施工技術研修所「DO SPACE上尾」
所在地:埼玉県上尾市中妻4丁目1-8
敷地面積:1,539m2(465坪)
延床面積:729m2(221坪) 1階実技研修場 472m2(143坪)、2階講習室・事務所 257m2(78坪)
主な実技研修商品:
ガーデンエクステリア=カーポート/門扉/フェンス/ゲート/門柱/デッキ
ウォールエクステリア=ハンドレール/テラス屋根・囲い/バルコニー/窓まわり
建屋構造:鉄骨造地上2階建
開設日:2020年1月24日(既存建屋の改修)
利用方法:YKK AP担当営業を通じた予約制(土日祝休館)

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現場の最後に行う外構工事だが、「外構図」チェックは最初にすべき?
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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