千葉昭・四国新幹線整備促進期成会会長(写真提供:四国新幹線整備促進期成会)

期成会トップに聞く。”四国新幹線”実現へどう動くか

「オール四国」で新幹線整備に挑む

四国経済連合会(四経連)と四国4県(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)は2017年、「四国新幹線整備促進期成会」を設立。以来、四国新幹線実現に向け、「オール四国」のスローガンのもと、国への要望活動、四国各地でのシンポジウム開催などの活動を展開している。

新幹線は、地元要望があっても必ずしも実現するとは限らないが、地元要望がなければ絶対に実現することはないと言われる。期成会のような組織は「地元の声づくり」のために不可欠な存在だ。

ただ、実際に新幹線を整備するには、事業費の確保、沿線自治体の合意形成、住民の後押しなど大きなハードルが立ちはだかる。とりわけ、緊縮財政路線を突き進む現政権下において、兆円単位に上る事業費をどう確保するかは、極めて難しいチャレンジになる。

四国新幹線は本当に実現するのか。実現に向け、どのような取り組みが必要になっているのか。期成会の会長である千葉昭さんに取材してきた。

「新幹線によって地域がどう変わるか」が大切

――四国新幹線整備に関するこれまでの取り組みについて教えてください。

千葉会長 われわれの活動が本格化したのは、平成26年4月、四経連および四国4県、JR四国が中心となって実施した「四国の新幹線の整備効果等についての基礎調査」が公表されてからです。

私は、この調査の1年後の平成27年6月に四経連会長に就任しましたが、その調査内容を聞くまでは「基本計画における紀淡・豊予両海峡を渡る壮大かつ莫大な資金を要する計画は、国家財政が厳しい中で、できるはずがない」と考えていました。

しかし、この計画が、岡山から瀬戸大橋を渡り、四国の4県都を結ぶ新幹線を整備するというもので、「B/C(費用対効果)が1を超える」との説明を聞き、これであれば「可能性は十分ある」と考え方を変え、四経連会長就任後は四経連の活動の中心に据えて取り組んできました。

こうした中、四国の思いを一つにまとめ、四国の総意として「オール四国」で訴えかけてゆくことが何より重要であると考え、2017年(平成29年)7月、官民46団体で構成する「四国新幹線整備促進期成会」を設立し、私が会長に就任しました。

公募した四国新幹線PR活動のためのロゴマーク

今日までの間、東京での3度の決起大会や再三にわたる国への要望活動、四国各地でのシンポジウムによる機運醸成、四国新幹線の起点となる岡山県への協力要請などに取り組んできました。

新幹線が実現したからといって、それだけで四国の活性化が図れるわけではありません。北陸などの成功例を見れば、新幹線開業まで様々な努力がなされていることがわかります。「新幹線を使って地域をどう変えていくか」ということを地域の皆さんが真剣に考えることが、四国新幹線を実現するためにはとても大切だと考えています。

こうした問題認識から一昨年6月には四国の4地銀のシンクタンクとの協働により、「新幹線を活かした四国の地域づくりビジョン調査」を取りまとめ、四国新幹線によって期待される波及効果や、地域づくりの基本戦略を提案してきました。今後は新幹線をいかに地域づくりに活かしていくのか、各地域で創意工夫を今から始めていかなければならないと考えているところです。

第一ステップが「瀬戸大橋ルート」、第二ステップで「紀淡海峡ルート」

――徳島県は「紀淡海峡ルート」を要望していますが、「オール四国」体制は盤石でしょうか?

千葉会長 徳島は、地理的にも歴史的にも関西地域と深いつながりがあります。現在、大鳴門橋、明石海峡大橋により、阪神地域までは車でわずか1~2時間程度でアクセスできますから、徳島の方たちにとっては、3時間も4時間もかかる四国の街より、関西がより身近なんです。

徳島の方たちが、「四国新幹線をつくるなら、是非とも紀淡海峡をわたる基本計画路線でやってもらいたい」、「岡山ルートでは徳島には何のメリットもない」とおっしゃるのは、理解できないわけではありませんし、期成会として否定するつもりもありません。

むしろ、長期的・国家的な観点に立てば、基本計画の「大阪~徳島~松山~大分」というルートは、インバウンドの四国への呼び込みやリダンダンシーの確保など大きな効果が期待できます。

しかし、いかんせん海峡部の工事費は巨額になります。明石海峡大橋は道路専用橋ですし、大鳴門橋は鉄道部分の空間はあっても、それに耐えられる構造にするには大工事が必要です。このため、費用対効果は大きく劣り、国の理解を得るのは極めて難しい。また、関西の関係自治体から地元負担の理解を得るのも同様に困難でしょう。

期成会としては、まず第一ステップとして瀬戸大橋ルートを実現させ、そのあと、国としての必要性が認められた段階で第二ステップとして海峡部に進めればと考えています。

――新幹線実現には岡山県の理解も不可欠です。

千葉会長 確かに、四国新幹線は岡山を起点となる岡山県の皆様のご理解をいただくことは、大きな課題です。

一昨年7月初めに4県知事や四国の国会議員とともに伊原木知事を訪問した際、伊原木知事から「法定調査の実施については協力していきましょう」というお話をいただきましたが、一方で、岡山にとってどのような効果があるのか、費用負担や並行在来線となる瀬戸大橋線の存続に対する懸念などが示されました。

中長期的な観点に立てば、四国新幹線は岡山の発展にとって大きな効果をもたらすと考えており、様々な機会をとらえて、理解をいただくよう努力していきたいと考えています。

新幹線は”あって当たり前”の交通インフラ

――そもそも、なぜ四国新幹線が必要なのでしょうか?

千葉会長 全国で新幹線の整備が進む中、もはや新幹線は決して特別なものでなく、高速道路のようにあって当たり前の基礎的な交通インフラとなってきています。こうした状況のなか、四国は全国で唯一、新幹線の具体的な整備計画がない地域として残されました。

2037年にはリニア中央新幹線が大阪まで開通する時代になります。日本は「リニアのある地域」「新幹線のある地域」「リニアも新幹線もない地域」と交通格差がさらに広がります。このままでは四国は、交通利便性の点で他地域に大きく劣後することになり、四国創生に向けての地域づくりを進めるあらゆる活動にとって、大きなハンデとなります。

とくに、人口減少対策が大きな課題である四国では、他地域にも増して、交流人口の拡大、企業のビジネス環境の向上、若者の定着、四国への移住促進などが重要ですが、そうした活動の基盤として、全国の新幹線ネットワークと結ぶ四国への新幹線導入が不可欠であると考えています。

また、新幹線は災害に強いインフラであることが東日本大震災や西日本豪雨災害で証明されています。南海トラフ地震の発生が懸念される四国にとっては、災害に強い地域づくりの観点からも、是非とも早期の新幹線の整備が必要です。

四国は、鉄道沿線に10万人規模の都市が連なり、新幹線の特性を活かしやすい地域であり、沿線の人口集積は北陸や東北・北海道に劣っていません。「なぜ四国には、新幹線が必要なのか」との問いには、むしろ「なぜ四国には新幹線がないのか」と言いたいくらいです。

四国新幹線のルートイメージ図と北陸新幹線、北海道新幹線とのデータ比較(期成会HPより)

さらに言うと、四国での新幹線の実現は、単に四国のためだけでなく、西日本の活性化に大きく寄与すると考えています。2037年にリニア新幹線、北陸新幹線が新大阪でつながり、新大阪駅は「地方創生回廊中央駅」へと生まれ変わります。

大阪を中心に、北陸、中国、九州そして四国が繋がれば、西日本の広域経済圏、文化圏は首都圏と匹敵するものになり、東京一極集中の是正、国土全体の一段の有効活用にも大きく寄与するものと考えています。

新幹線をJR四国の経営の新たな柱に

――JR四国は厳しい経営が続いています。

千葉会長 JR四国は、人口減少や高速道路の着実な延伸といった環境下で、経営安定基金運用益の大幅減少という国鉄スキームなどの機能不全により、経営自立が見通せないでいます。

令和2年度末には、国による支援策が期限切れを迎える中、小手先の経営改善策や支援策の継続だけでは、JR四国の経営自立はいつまでたっても実現できません。新幹線の整備を「JR四国の抜本的経営自立策」の柱として位置づけることが重要です。

四国4県や経済界などが一堂に会した「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会Ⅱ」には、私も委員の一人として参加していますが、昨年10月の中間整理において、新幹線を四国が目指すべき「公共交通ネットワークの骨格」と位置付けたところです。新幹線なしに、四国の公共交通を守ることが極めて難しいことは、この懇談会で公表されたJR四国の路線別の営業係数(瀬戸大橋線以外は全て赤字)が物語っています。

最近「MaaS」という概念がもてはやされていますが、公共交通ネットワークなしにMaasは意味をなしません。単にJR四国の経営存続の問題ではなく、四国の公共交通を維持する意味からも新幹線は不可欠であると考えています。

「財政均衡の外側で考える」のもアイデアの一つ

――新幹線整備の最大のネックは財源だと思いますが。

千葉会長 国の財政状況が厳しい中にあって、財源確保は大きな課題だと承知しています。新幹線整備にあたっては、国が2/3を負担することとなっていますが、現在の国の新幹線建設予算(約800億円)は公共事業費6兆円の1%程度、道路予算の1/20であり、このままでは何年先になるかわかりません。また、地方負担の重さが整備を阻害する問題となって顕在化しつつあります。

新幹線建設予算の増額については、他地域の経済団体とも協力して、新幹線予算全体の増額を強く要望していますが、「思い切った発想の転換が必要ではないか?」と考えています。

西田昌司・参議院議員は「建設国債30兆円を発行して、基本計画路線をすべて国費で整備せよ」、「新型コロナウイルス終息後の強力な経済対策にもなる」と提唱しておられますが、長期間にわたって便益を発生するインフラ整備を「財政均衡の外側で考える」というのは一つのアイデアだと思います。

また、限られた予算の中で早期事業化を図る手段としては、単線整備による大幅なコストダウンも有力と考えられます。需要に見合った輸送力を確保できれば、現実的な選択であり、国による調査も行われているところです。

政治を動かすのは「地元の声」

――機運の醸成については、いかがですか?

千葉会長 新幹線は、まさに政治問題と言えますが、政治を動かすのは「地元の声」です。当期成会では、毎年四国各地で大規模なシンポジウムの開催や啓発ポスターやバッジの製作、絵画コンクールの開催など子供たちを対象としたイベントの開催など行ってきましたが、地元の盛り上がりが期待するほど高まっていないのは事実であり、大きな課題です。

このため、いくつかのアンケートを実施したところ、基本的な認識において多くの方たちが誤解している点があることがわかりました。

例えば、

  • 赤字のJR四国に新幹線が作れるはずがない(新幹線はJRがつくるもの)。
  • 新幹線よりも社会福祉や教育を充実させてもらいたい。
  • 新幹線よりも在来線の複線化や電化をしてもらいたい。
  • 高速道路があれば新幹線はいらない。

といった誤解や思い込みが根強く存在することが確認されました。

こういった、誤解や思い込みに対しては、対話の場を増やしていくしかありません。新型コロナウイルスの感染拡大のなかでは難しいですが、終息すれば、大規模なシンポジウムと並行して中・小規模の集まりに対して、積極的な情報発信を続けていく必要を感じています。

また、経済界や行政から既存メディアを通じてのアクセスが難しい若年層に対しては、今年度SNSを通じた情報発信と意見交換を行う計画をしています。SNSであれば、新型コロナウイルスの感染拡大といった状況下でも理解促進活動を継続できるものと期待しています。

――事業啓発のため、絵画コンクールを実施されていますね。

千葉会長 四国新幹線は「未来への投資」です。実現した四国新幹線を使うのは私たち高齢者ではなく、今の子供たちになるでしょう。その子供たちに私たちの活動を知ってもらうために、絵画コンクールを開催しています。このアイデアは山本有二衆議院議員のご発案によるものなんですよ。JR四国も苦しい経営状況の下で精いっぱい協力してくれています。

新型コロナウイルスの感染拡大で、広報活動が十分行えなかったこともあり、どれだけ応募してくれるか不安だったのですが、3月末の締め切りにはたくさんの作品が届き、ほっとしています。これから審査を行い、できれば夏休みに西条市の「十河信二記念館」で表彰式を行いたいと思っています。

整備計画格上げに向けた法定調査を要望中

――今後の要望活動などの方針は?

千葉会長 現在、四国を含め基本計画路線全体に対して動きが出ています。政府は、東京や大阪を拠点に新幹線などで各地を結び一体的経済圏を構築する「地方創生回廊」構想を打ち出しています。こうしたことを背景に、国土交通省では、平成29年度から今年度まで「これからの幹線鉄道のあり方について」毎年約3億円の調査費を投じています。

このなかでは瀬戸大橋など既存インフラの活用や単線新幹線の可能性など、四国新幹線にも適用可能な事項について具体的な調査が行われており、期成会では、これを整備計画格上げに向けた法定調査に進展させるよう政府に要望しているところです。今年の3月26日には、自由民主党四国ブロック両院議員会四国新幹線PT(座長:山本有二衆院議員)と連名で決議を行い、自民党の稲田朋美幹事長代行に要望活動を実施したところです。

国土交通省幹部に要望書を手渡す千葉会長(右から4人目、写真提供:四国新幹線整備促進期成会)

期成会の立ち上げ直後は、政府与党に要望活動を行っても関心を持ってくれませんでしたが、新幹線を取り巻く環境変化や我々の活動によって、今では四国新幹線の中央での認知度は格段に向上しており、多くの方が基本計画路線の中で「四国が最も熱心」との評価を得ています。「次は四国の番だ」と強く感じています。

昨年8月の東京大会では、期成会の中長期目標として「リニア中央新幹線が大阪まで開通する2037年を四国新幹線開業の一つのターゲットにする」を採択しました。2021年度に法定調査に取り掛かってもらえれば、2037年の一部開業は決して非現実的な目標ではありません。

今後も2021年度の法定調査の実施を中心に、要望活動を強化させていきたいと考えています。

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