未来と希望を示唆する”トンネル貫通”の瞬間
世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。このコロナ禍で、日本の建設業も大きなダメージを受けている。
緊急事態宣言によって、何社もの大手ゼネコンが工事を中断。GW明けに多くの現場は再開されたが、現在も一部地域では中断が続いている。
工事現場の継続の是非や雇用、補償など、さまざまな問題が不透明な状況で、現場でも不安が募っているという。
そんな4月17日、Instagramに5枚の写真が投稿された。薄暗いトンネルの奥、重機が壁に穴を開け、外から光が差し込んでいる場面だ。
写真には「力を合わせて前進しよう。その先には必ず未来が拓ける」「辛抱して前進した先に、必ず光が現れる。抜けない闇はない」といったコメントが添えられている。
「希望のトンネル貫通シリーズ」と名付けられたこれらの写真は、その日から毎日欠かさず、アップされ続けている。
トンネル業界屈指のアイディアマン
この試みを始めたのは、日本トンネル専門工事業協会・組織広報委員会の森崎英五朗さん。コロナ禍で苦しむ人々に「トンネル貫通の写真を載せたら、希望を感じてもらえるのでは」と思いついた。
トンネル工事業者などに声をかけると、50枚以上の写真が集まった。
掲載する写真は、できるだけ光が差し込んでいるものを選んでいるという。シリーズ開始当初は100人ほどだったフォロワーは、現在400人ほどに。
シェアなどでじわじわ広がっており、「時々コメントなどもついて、色んな人が喜んでくれている」と、森崎さんは嬉しそうに語る。
日本トンネル専門工事業協会は、トンネル工事の専門会社などで構成された組織。人手不足のトンネル工事業界のイメージアップのため、森崎さんが昨年、組織広報委員に任命された。
森崎さんはスマホアプリ「重機でGO」を企画するなど、以前から新たな発想で業界の広報活動を行っていたという。
「トンネル工事あるある」がアニメに
同協会では、昨年度から森崎さんを中心に、工事関係者にはお馴染みの「トンネルあるある」や、意外な「トンネル豆知識」を紹介するアニメ「知ってる?トンネル」を制作。4月中旬より協会のYouTubeチャンネルで配信している。
アニメには、「トンネル建設前には、入口を鳥居に見立てて化粧木を置き、神主が安全祈願する」「火薬庫には交代で専属の火薬番がいる」「トンネルは地図に半永久的に残るので、仕事に誇りが持てる」など、25のネタが盛り込まれている。ドリルジャンボやシールドマシンなど、トンネル工事専用の重機の紹介もある。
知ってる?トンネル総集篇【全25本】 / YouTube(日本トンネル専門工事業協会)
実際のアニメ制作を担ったのは、『ピアノの森』などで有名なアニメ制作会社「ガイナ」。同社社長が森崎さんの高校の同級生だった縁で依頼したという。
初めは「トンネルができるまで」の動画を作る構想だったが、「そんなのもうYouTubeにたくさんある」と指摘され、まずは「トンネル工事の存在に興味を持ってもらう」ための動画を作ることに。
各社の若いアニメ好き社員を3人集め、アニメスタジオで5~6回、意見を出し合いながら「あるある」を考えたということだ。
危険なトンネル工事現場で働くということ
そもそも、トンネル工事の仕事は、業界外にはあまり知られていない。
「まず、発注者から受注したゼネコンが、トンネル専門工事業者に工事を依頼し、その業者が施工を担当します。地元以外から職人が来られるように、仮の宿舎を建て、賄いを作る料理人を雇い、そこで数十人が共同生活をしながら工事を進めます。
職人は工事ごとに契約していて、終わったら別の現場に行くようなスタイルです。専門的で特殊な技術を必要とし、危険を伴う仕事なので、そのぶん報酬も高いです。
トンネルは短くても、準備から完成まで1年はかかります。長いと5~6年かかることも。その間はずっと宿舎暮らしなので、単身赴任で何年も家族と離れて、ということも当たり前の世界です」
作業中の職人たち / 山崎エリナ 『トンネル誕生』より
トンネル工事の手順は、大きくは準備、掘削、コンクリート打設の三段階に分けられる。
「まず準備として、周辺に工事するための場所や仮設備設置用の土地を作り、工事用道路の整備などを行います。その後は、専用の重機などを使って掘り進めます。掘るときは1班5~6人が機械を操作して掘り、出た土をダンプやベルトコンベアなどで運びます。中には手作業もあります。
掘った後ろから、専用の移動式型枠を使って仕上げのコンクリートを打っていきます。一つのサイクルが決まっているので、基本そのサイクルを回しながら、約1mずつ掘り進めていきます」
現在は以前よりかなり減ったものの、トンネル工事は事故が起きると死亡災害などに至ることもある、危険な仕事だ。
「掘った山がそのまま目の前にあるわけですから、リスクは高いです。狭く、暗く、騒音や粉塵がすごいなか、大きな重機が動いているので、接触する危険性も高い。経験を積まないとできない仕事です。作業時は、落盤に備えて作業着の上からプロテクターを背負い、ファン付きの粉塵マスクをしています」
トンネル屋ならではの「貫通の儀式」
そんな森崎さんがトンネル工事をしていて一番嬉しいのは、やはり貫通した時だという。
「道路が開通するときはトンネル屋はすでにいないので、一番象徴的なシーンになります。トンネル工事は規模やリスクが大きく、苦労も多いため、貫通したときは言葉にならないほどの感動があります。
貫通の儀式には、発注した役所の人、元請け会社、現場関係者など、大勢が立ち会います。関係者にとっては念願の瞬間なので、たくさん来るんですね。山の神様を掘るので、貫通したところを塩・米・お酒でお清めします。これはどこのトンネルでもやっている、トンネル屋の儀式です」
来月には、トンネル現場を撮影した写真集『トンネル誕生』(グッドブックス)が出版されるという。「山崎エリナさんという、ルーブル美術館でも展示するようなすごい写真家に、とてもいい写真を撮ってもらいました。それを見ると、もっとトンネル工事の魅力を感じてもらえると思います」
工事開始前の神主による安全祈願 / 山崎エリナ 『トンネル誕生』より
山が多い日本では、トンネルは非常に重要な交通インフラだ。トンネルが開通することで道路ができ、山に阻まれていた遠い場所にも行けるようになった。日本では年間およそ100本もの道路トンネルが掘られている。
コロナ禍で、感染リスクを負って外で働くトラックドライバーや配達員に、感謝の声が集まっている。しかし、平時から命を懸けてインフラを作ってくれている人々がいることも、心にとめておきたい。