予算2,000億円規模の東京・江戸川区「学校改築プロジェクト」
東京・江戸川区は現在、老朽化した小中学校の校舎を20年間かけて改築する「学校改築プロジェクト」を推進している。予算規模は約2,000億円。
同プロジェクトは、区内の経済活性化・雇用促進などを目的とした「社会的要請型 総合評価一般競争入札」方式を導入している。
さらに江戸川区は今回、葛西小学校・中学校施設一体型の学校を建設するにあたり、40歳未満の若手技術者育成や女性活躍推進の取り組みなどを評価項目に追加した。国や東京都は率先して取り組んでいるが、23区内での取り組みとしては稀なケースだ。
この取り組みについて、江戸川区総務部用地経理課契約係長の本吉国秋氏に話を聞いた。
異例の「社会的要請型 総合評価一般競争入札」方式
――まず「社会的要請型 総合評価一般競争入札」方式を推進している理由について教えて下さい。
本吉 この総合評価のスタイルは全国でも珍しいケースです。通常の総合評価では、技術点・品質保証点・実績点などを考慮しますが、さらに私ども江戸川区では、区内経済の活性化、地域貢献、社会貢献、建設技能労働者の雇用、福利厚生促進などにも力点を置きました。
学校の改築事業は総額約2,000億円のプロジェクトですから、通常の総合評価方式であれば区内のゼネコンでは、区外の大手ゼネコンには太刀打ちできないだろうという見方もありました。そこで、学校改築プロジェクトを推進するにあたり、区内の企業も区外の大手ゼネコンと競争できるような制度設計を設けた次第です。
学校改築の総合評価では、「価格評価点」が50点、「社会的要請点」が50点の合計点で落札者を決めます。この「社会的要請点」は、「地域社会への貢献、地域環境への配慮」「地域経済の活性化」「品質保証」「点検」などから構成しています。
ただし、その後、東日本大震災の発生や東京オリンピック・パラリンピックの開催決定により、思いもよらない労務単価の高騰や資材の高騰など経済情勢の変化が起こり、入札を取り巻く状況は厳しくなっています。そこで区内に限らず、区外ゼネコンの入札参加を促進する見直しを図ってきました。
当初の学校改築工事は、確かに区内ゼネコンが中心でしたが、最近の工事では、区外ゼネコンが区内ゼネコンとJVを組んで工事を進めるケースが増えました。この場合、JVのスポンサー企業は、区外ゼネコンではあっても2番手・3番手の構成ゼネコンは区内のゼネコンが担当しています。小松川第二中学校ではこのケースです。
私ども江戸川区としては、区外ゼネコンの技術や品質、管理能力等のノウハウを区内ゼネコンが積極的に吸収し、何年たつか分かりませんが、最終的には区内ゼネコンが学校改築工事を施工出来るようになれば良いと考えています。そもそもJV方式の本来の趣旨はそういうものですからね。
雇用に役立つ「社会的要請型 総合評価一般競争入札」方式
――本来の趣旨である区内経済の活性化についてはいかがですか?
本吉 そのあたりは残念ながらはっきりと見えてきません。ただし、受注されたゼネコンから下請け区内採用率について提案していただいておりますから、その率が下がれば当然、ペナルティーの対象になります。
今までペナルティーを課した例はありませんから、区内の専門工事会社への採用率は高いです。区内に限定した採用ですから、ゼネコンは苦労されていると思いますが、区内の雇用には役立っていると思います。
若手技術者育成、女性活躍も評価対象
――そして今回、葛西小中施設一体型の学校を改築するにあたり、若手技術者の育成や女性活躍も評価の対象になりました。これは23区内では極めて稀なケースですが、この点について区としてはどうお考えですか?
本吉 この葛西小中一貫型の公告は1月10日に行ない、23日まで受付しました。2月24日に開札し、落札候補者は4月末から5月初旬に決定し、議会案件ですので通常議会は6月ですから、議会の議決を得て6月下旬もしくは7月初め頃に本契約を結ぶことになると思います。
総合評価方式ですから「価格評価点」だけで落札者を決定するのではなく、事前に各ゼネコンから「社会的要請点」の内容の提案がありますので、外部5名の委員から構成する「公共調達審査委員会」の方々の意見も聞きます。その委員の方々がどう判断するかもポイントになります。
特に、若手技術者や女性活躍についですが、過去3年間の新規雇用や3ヶ月以上の継続雇用などの申請が必要で、女性が働きやすい環境として、トイレや更衣室の設置などの実績も評価する等の目的として、「労働者への能力開発・福利厚生支援等」の項目を設置しました。
ただし、実は「社会的要請点」50点の中でもこの評価点は1点でそれほど高くはありません。点数は高くありませんが、本区レベルでの地方公共団体としては稀なケースであると考えています。「公共調達審査委員会」には、男女共同参画社会に造詣の深い委員もいらっしゃいましたので、この評価項目を導入したという経緯があります。
今後の学校改築事業でも取り入れる方針
――評価項目に入れた背景について教えて下さい。
本吉 国が若手技術者育成や女性活躍をうたっており、東京都もモデル工事を実施していますので、区もその動きに合わせた形になったということです。区が用意した総合評価方式の評価項目にふさわしいと考えています。
「社会的要請点」の評価項目は、社会的要請をもとに追加することもあります。今回の新たな評価項目は特に問題がなければ、次の学校改築事業の評価項目に引き継がれると思います。
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