リノベーションで街を再生。トキワ荘通りにブックカフェをオープン

リノベーションで街を再生。トキワ荘通りにブックカフェをオープン

空き家解決の新たな選択肢。不動産事業の新イノベーション「アキサポ」とは?

大相続時代=大空き家時代が始まる

少子高齢化、人口減少が続く日本は超高齢化社会に突入した。これから団塊世代の多くが2025年に後期高齢者となることから、大相続・事業承継時代を迎えることになる。

しかし、団塊世代の下の世代では核家族化が進み、相続はしたものの、放置され空き家になっている実情がある。つまり大相続時代は、大空き家時代の到来を意味する。

そんななか、空き家をリノベーションし、第三のスペースとして再生する試みを展開しているのが株式会社ジェクトワン(東京都渋谷区)だ。

空き家の所有者から空き家を借り受け、リノベーション後に賃貸物件として貸し出す独自サービス「アキサポ」事業に取り組む同社の大河幹男代表取締役、印南俊祐地域コミュニティ事業部シニアマネージャーに話を聞いた。

いびつな街づくりに疑問

――ジェクトワンを起業したきっかけは?

大河幹男氏 私は大手デベロッパーに入社し、マンション建設の用地を購入しゼネコンに発注する部署におりました。

当時は、住宅地だけではなく、商業・工業地域のど真ん中、環状八号線や甲州街道沿いにもマンションを建設していましたが、たとえば、準工業地域であれば物流施設の方がふさわしいですし、幹線道路沿いにマンションを建設すると騒音の問題が発生します。

しかし、それでも安くすれば売れるので、街づくりがいびつになっている現実があります。そこで、その土地にあった街づくりをしたくて、不動産会社のジェクトワンを起業しました。

大河幹男 代表取締役

心がけたことは、得意なマンション建設だけではなく、ホテル、商業ビル、ロードサイド店舗等、街にどんな建物がマッチするのかを自分たちで精査して、街づくりを再考することです。

確かに、得意分野のマンションに特化すれば儲かります。しかし、ホテルなどのオペレーションが得意な会社とアライアンスを組めば、利益は半減しますが、同時にリスクも軽減します。様々な企業と連携することで、デベロッパーとしての事業を推進しています。

住宅・オフィス以外の第三の選択肢

――東京23区でも空き家は社会問題化している。

大河 2014年に成立した「空き家対策特別措置法」により、空き家問題がクローズアップされ始めました。

他社は空き家パトロールや、管理や売買の仲介をメインとしていますが、私は空き家をなくすライフスタイルを築いていくことが重要だと考えてきました。とはいえ、これから少子高齢化は避けられませんし、人口も減少していきます。

今は、自宅と職場の両方のスペースとして活用されることの多い空き家ですが、これからの空き家活用の視点では第三のスペースとしての再生が求められます。そこで、空き家をリノベーションして、趣味、あるいは職場以外で仕事をする、商業施設、保育園など住居以外で活用できるように仕組み化したものが「アキサポ」です。

空き家を所有している方々が空き家の活用に二の足を踏む原因となっているのが費用面です。実際に当社が今年3月に実施した『アキサポ空き家総研「空き家所有者」の意識・実態に関する調査』でも、空き家所有者のうち約7割以上の方々が自己所有の空き家を「活用したい」という意向があるにも関わらず、「金銭面の不安」という理由から「空き家活用」をあきらめ、空き家を放置したままにしている、という現状が明らかになっています。

そこで、リノベーション費用を当社が全額負担することで空き家を所有している方々が前向きに空き家の活用を検討できるのではと考えました。

この「アキサポ」は空き家を所有している方々がリノベーション費用を負担することなく活用することができ、さらに、活用した物件で発生した収益(賃料収入)も得られるという特徴があります。

また、活用に向けては単純に空き家をリノベーションして住居用に再生するよりも、その空き家のポテンシャルを見定めて、住居以外になにが合っているのかをしっかりと調査し、そして地道に聞き込みをしながら、その街に適した施設をつくっています。

――例えば?

大河 文京区茗荷谷にある昭和30年代築で、長年空き家だった長屋の真ん中部分の住居が、お洒落なカフェバル「小石川かふぇ」として生まれ変わりました。

近隣にヒアリングをしてみると、この地域はオフィスや住宅が多いのに飲食店が少なかったんです。それなら、住民の方が集まりやすいカフェやコミュニティ系の飲食店として活用してもらったほうが良いだろう、と。

「小石川かふぇ」リノベーション前

「小石川かふぇ」リノベーション後

また、国道15号線に奥に入った大田区区雑色に元々、工場兼事務所で使用されていた施設がありました。

ここは、15号線沿道、横浜市から近いという事情もあり、大型バイクを保有している住民が多かったんです。大型バイクを保有している方には、セキュリティーの高い駐車場を望む方が多いので、大型のバイクガレージを作りましたら、すぐ満車になりましたね。

ほかにも、墨田区東向島では、元は飲食店舗でしたが長年テナントがつかず、長屋物件の真ん中であるため売却も困難な物件がありました。ただ、近所には貸し倉庫がないということが分かったので、加瀬倉庫とアライアンスを組んで、トランクルームへ再生しました。

時計修理店をブックカフェにリノベ

――ほかに、独特な空き家再生の事例は?

大河 豊島区はアニメ・マンガの聖地として旗を振っていますが、地元には手塚治虫や藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫ら、著名な漫画家が居住していたトキワ荘があります。

そこで、全国に「古本市場」などを展開する株式会社テイツーとアライアンスし、ふるいちトキワ荘通り店にブックカフェをオープンしました。

元時計修理店であった物件にリノベーションを施し、視認性が高い白を基調とした外装とウッド調のエントランスを構えたデザイン性の高い店舗となっています。

「トキワ荘マンガミュージアム」に隣接しているため、トキワ荘に関連する書籍や雑貨商品の販売をしたり、カフェスペースも設置しています。

こうした事例にも見られるように、空き家を本当の意味で活かすためには、アナログ手法ではありますが、近隣の方からのヒアリングが重要になります。

――空き家が生まれ変わったときは嬉しい?

印南俊祐氏 そうですね。空き家は、私の田舎でも大きな問題でした。実家は栃木県那須塩原市なのですが、空き家になって解体もされずに放置されて、自然に朽ちていく家を近所でも見ています。これでは家があまりにもかわいそうです。

その場所を借りたいという人もいますが、なにも手を加えられていないと多くは空き家になってしまいます。そこにリノベーションを施し、住む人と地域に適切な施設に生まれ変わせることができ、再び人々の活気を感じたり家に明かりが灯る瞬間はとてもうれしく、現場が終わる毎に幸せなことだと思います。

印南俊祐 地域コミュニティ事業部 シニアマネージャー  


豊島区と連携で街づくりも

――空き家問題は、民間と行政の連携が重要になる。

大河 ええ。ただ、民間と連携している自治体は多い反面、すべての自治体が空き家問題に必ずしも前向きではないんです。ですが、たとえ空き家セミナーを開くにしても、渋谷区主催と弊社主催ではまったく意味合いが異なるため、行政との連携は極めて重要です。

たとえば、豊島区は空き家問題に積極的に取り組まれています。そこで、豊島区の「チャレンジ創業支援施設開設事業」に応募し、飲食創業を目指す方向けのシェアキッチンとして空き家活用をプランニングしたところ、採択していただきました。

自治体が街づくり、空き家再生に対して積極的に民間企業を支援すれば、問題解決に向けて大きく動いていくことになりますし、空き家に人が入れば税金も入りますから、WIN-WINの関係になるんです。

「コマワリキッチン」リノベーション前

「コマワリキッチン」リノベーション後

――経営者も富裕層が高齢化し、遺産相続や事業承継の問題が顕在化している。

大河 空き家が生まれるキッカケは相続です。相続人が1人でしたら良いのですが、兄弟がいると放置されてしまう空き家も多いんです。たとえば、兄が家を売りたくても、妹が思い出の家だから売らないで欲しいとなると、結果、放置しようということになってしまうこともある。

また、空き家は860万戸ありますが、相談したいという人が少ない。住んでいなくても、荷物を置いているから空き家でないという認識を抱く人も多いですしね。

ですから、相続や事業承継では財産区分を明確にすることと、空き家をどう定義するかが問題です。将来どうするかを決めておけば、空き家になっても再生できます。

――今後の展開は?

印南 空き家再生は、起業家支援との相性が良いんです。一般的に、スタートアップ企業がビルに入居すると、10か月の前払いを要求されますが、空き家を再生した施設であればイニシャルコストが抑えられます。

現在、1都3県を商圏としていますが、創業支援として地方の空き家再生も行っていきたいと思います。

大河 誰もやったことがない「アキサポ」のビジネスモデルを展開し、民間企業が空き家問題を手掛けても利益を確保できるようになれば、次々と空き家再生は進展します。不動産事業の新しいイノベーション事業として進めていきたいと思います。

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