"舗装業界の老舗" NIPPOのICT開発リーダーに聞いてみた。「ICTで舗装工事はどう変わるのか?」

“舗装業界の老舗” NIPPOのICT開発リーダーに聞いてみた。「ICTで舗装工事はどう変わるのか?」

業界老舗が誇る最新のICT舗装技術とは?

株式会社NIPPO(東京都中央区)は、舗装・土木、アスファルト合材の製造販売などを主な生業とする会社だ。1934年に設立された日本鋪道株式会社をルーツに持つ舗装業界の老舗として、全国の高速道路や一般道路、空港滑走路のほか、サーキットやテストコースなどの道路舗装工事を担ってきた。

近年では、舗装分野のICT化にも力を入れている。同社が誇る最新のICT舗装技術にはどのようなものがあるのか。ICTによって、舗装工事はどう変わるのか。NIPPOでICT推進グループのリーダーを務める相田尚さんに話を聞いた。

いまだアナログな舗装工事

相田 尚さん(株式会社NIPPO 総合技術部生産開発センター長 兼 ICT推進グループ課長)

結論から先に言うと、舗装業界的には道路舗装のICT化はまだ道半ばのようだ。相田さんは「日本の舗装工事の施工スタイル、品質管理手法などは、60年間基本的には変わっていない」と言う。

高速道路などの大規模な工事では、「情報化施工」として、マシンコントロールなどの活用は一般的に行われているものの、「一般道などでは、いまだアナログな昔のままのやり方で舗装工事をやっている」とも指摘する。

全国の舗装工事会社の数は約9万社あるが、その大半は中小企業。業界の体質や建設現場は一品受注生産が基本、ICTが進まない要因の一つになっている。


NIPPO独自のICTコンセプト「N-PNext」

そんな中、NIPPOは、舗装工事で効率化、省人化の効果が高い部分を精査し、ICT・IoT化に関する独自の概念を立ち上げ、取り組みを続けてきた。NIPPOの新たなICTコンセプトが本格的にスタートしたのは2017年。国土交通省が「i-Construction(以下、i-Con)」を推進し始めた年だ。

舗装修繕工事の施工、品質、出来形、安全管理に関するICT、IoT活用技術について、「N-PNext(NIPPO-Paving Next)」としてコンセプト化。それまで個々に開発してきた技術の中から、ICT関連の技術をN-PNextの技術として位置づけた。

N-PNextの概念図

同社が最初に位置付けた技術は、2014年に開発したローラやホイールローダなどの建設機械の自動停止システム「WSシステム(Worker Safety System)」だ。開発のきっかけは、同社工事現場でのローラによる重篤災害の発生だった。

開発期間は約半年。WSS-TR(タイヤローラ)は、ヘルメット内にICタグをセット。重機に受信アンテナ、磁界発生装置を設置し、磁界内に侵入したICタグを検知し、自動停止する。WSS-WL(ホイールローダ)、WSS−AP(アスファルトプラント)もある。

補修工事に使えないとICTは普及しない

ただi-Con当初は、ICT舗装工の実績は伸び悩んだ。対象工事が新設工事に限られていたからだ。年間に発注される舗装工事のうち、新設のシェアは2割程度で、母数そのものが少ない。

実際、i-Con初年度の国発注のICT舗装工は年間数本レベルにとどまった。相田さんは「当社では、補修工事に使えないと、ICT舗装工は普及しないという問題意識が当初からあった」と振り返る。

ICT案件を受注しても、施工業者は、レーザースキャナーなどICTの部分を測量会社に外注するのが大半だ。すべてのICT舗装工を受注できたとしても、年わずか数本では自前で機材を揃えるのはリスキーだからだ。ICTの舗装工の普及拡大という意味では、「いまだ手応えがない」のが現状になっている。


“ICTは手段” 作業の効率化につながらないと意味がない

相田さんが所属する生産開発センターは、i-Constructionと同じ年、2017年に設置された新しいセクションだ。相田さんは「機械屋」としてNIPPOに入社。現在は、同センター機電系の責任者として、機械や設備、工法などの開発、管理を所管するほか、ICTの導入、開発なども担当している。

国がi-Conをスタートさせたのをきっかけに、NIPPOのICT開発は一気に加速した。「i-Con以降、それまでお付き合いのなかったITベンダーさんとお付き合いする機会が一気に増えた」と言う。

NIPPOのICT研究開発は当初、大規模な新設工事向けの技術開発に軸足を置いていたが、その途上で「小さな補修工事の方がニーズとして多いんじゃないか」と方向を転換。補修工事向けの開発に切り口を変えていった経緯がある。

NIPPO生産開発センター

開発の経緯について、相田さんはこう振り返る。「現場では、なにが一番危ないのか、何に一番苦労しているのかを調べていくと、施工そのものよりも、工事の前段取りなど案外目立たない部分に問題があるこことがわかってきた。そういった部分の省力化、省人化にシフトしていった」

一口にICTと言っても、舗装工事には適さないモノもある。例えば、ドローン測量はICT土工では一般的だが、舗装工事の測量にドローンは向かない。ミリ単位の高い精度が求められるからだ。舗装の測量にはレーザースキャナーを使うわけだが、その解析には時間がかかる。「舗装工事は時間との勝負。測量の部分に力を入れる会社はほとんどない」と言う。

ICT化とは言え、作業の効率化につながらなければ意味がない。ICTは手段であって、目的ではないからだ。現場に役立つICTの開発のため、相田さんは何度も現場に足を運び、現場監督や作業員などと何度も打ち合わせを行った。

「3K」イメージ払拭のねらいも

NIPPOがICT開発を進めたのには、作業の効率化以外にも理由がある。「舗装工は『3K』のイメージが強い。このイメージを払拭しないと、工事に携わる人がいなくなるいう危機感があった。このイメージ払拭のためにも、ICT化が必要だという考えがあった」と言う。NIPPOには、人材確保を巡って強い危機感がある。

例えば、サーキットやテストコースなどバンクのついた舗装工事には、特殊な工法が必要になる。特殊工法は、NIPPOが得意としてきた分野だが、ベテランの退職などにより、これらの工法を使った施工ができる技術者が減っている。「特殊工法に関する技術をどう伝承していくか。これには非常に頭を抱えている」と言う。


期待されるNIPPOのICT技術

N-PNextにラインアップされているNIPPOのICT技術をいくつか見ていく。

Wi-Fi対応温度ロガーで省人化

まずは、合材温度測定システム「Nコレ・サーマル」だ。Wi-Fi対応温度ロガーを用い、工場出荷~現場到着時の合材温度を連続的に計測する代物だ。

Nコレ・サーマルのイメージ

従来、この合材温度を計測するためには、ダンプトラックの荷台に人が上がり、積載されている合材に温度計を挿入する必要があった。また計測した温度の記録、および帳票作成も人手に頼っていた。この合材温度計測作業は墜落転落の危険が伴う上、荷台への昇降動作により多大な労力を費やしていた。

Nコレ・サーマルは、屋外設置可搬型Wi-Fi装置を施工機械や現場周辺に設置することで、計測データが自動的にクラウドに収集され、インターネットを通じて共有、確認できる。また、クラウドに収集された温度データは帳票出力することができる。これにより現場での省人化、安全性向上につながる。

デジカメで幅や厚さを計測し、省人化

株式会社横河技術情報の協力を得て、2019年に開発した同社最新の技術が「Nコレ・メジャー」だ。

従来、舗装修繕工事の出来形確認のために水糸を使っていた。水糸を持つ人間とスケールを持つ人間で3~4名、写真撮影する人間1名が必要になる。アナログな計測で、時間がかかる上、終わるまで次の工程に進めないので、非常に効率が悪い。この作業が苦痛で、仕事がイヤになる社員もいたと言う。

Nコレ・メジャーでの施工の様子

Nコレ・メジャーは、切削・舗装面に特殊な専用ターゲットを設置し、デジタルカメラで複数枚撮影し、舗装の幅や厚さを計測するシステムだ。もともと橋梁のボルト位置を計測するために使われていた技術を舗装計測に応用した。計測データは自動で帳票作成され、クラウド管理される。計測作業は1名でできる。

昨年、国交省公募「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」に採択され、現場検証を実施。現在特許出願中。「当社だけでなく他社にも使ってもらえるよう、基準づくりを進めている」と言う。

トータルステーション(現場基地局)なしでマシン制御

補修工事(切削オーバーレイ)に展開可能なマシンコントロールシステム「3D-RTC工法」もある。株式会社トプコンのマシンコントロールシステム「RD-MC」をNIPPOとユナイト株式会社が実際の現場で使用可能なレベルまで検証・昇華し、工法化した。

3D-RTC工法の施工イメージ

舗装修繕工事では、トータルステーションを設置する場所を確保するのが難しいほか、通過車両に伴う視準エラーなどが発生するため、マシンコントロールによる施工が可能な場所は、閉鎖された空港や高速道路など大規模現場の一部に限られていた。

3D-RTC工法では、機械にGNSSアンテナ、受信機、グレードセンサを設置。トータルステーションなしでマシンコントロールを行う。現状の舗装の高さと設計の高さとの差分を検知し、面的に管理しながら高い精度で施工を行い、省力化・省人化を実現している。

安全教育にVRを活用

VR-learningの様子

NIPPOでは、社員の安全教育や技術継承を目的に、360度動画を撮影できる「全天球カメラ」と教材作成用システム「VR-learning」を用いて、オリジナルVRコンテンツを自社制作し、導入している。

書類などすべての情報をデジタル化したい

今後の技術開発の方向性としては、書類づくりや検査対応など業務の簡素化が一つのテーマになるようだ。「アナログな部分をとにかくデジタル化しようという思いがある」と言う。

すべての情報をデジタル化すれば、エビデンスとしての情報をすべて管理でき、リアルタイムで共有できるようになる。そうなれば、立会検査が不要になるからだ。「情報のデジタル化が実現すれば、膨大な書類づくりから解放される。発注者と受注者の信頼関係を築くためのプラットフォームをつくりたい」と話す。

ただ、すべての現場情報をオープンにすることに対しては、現場からの反発も予想される。天候の急変、機械のトラブル、図面と違う構造など、様々な対応を迫られるのが実際の現場。

しかし、「新しいことを根付かせるためには、臨機応変に発注者と協議しながら、チャレンジすることが当面必要になる。生産性向上の目的は発注者も施工者も同じ。検査の簡素化、書類の削減のためには両者の信頼関係が築けるかが最も重要。そのためにもデジタル化がカギとなる」と力を込める。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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