【死活問題】 失われていく建設業界の素晴らしい「職人技」

“死活問題” 失われていく建設業界の素晴らしい「職人技」

忘れられつつある “素晴らしい技術”

建設業のIT化は、ここ数年で急速に加速している。それは、ICT施工やデキスパートなどの施工管理ソフトの登場だけにとどまらず、これまで人力で行っていた落石防護柵などの設置にも、AIを活用できないか検討されている。

しかし、その一方で、これまで職人の方々が培ってきた素晴らしい技術が忘れられつつある。これは、建設業界にとって非常に危機的な状況だ。IT化ももちろん大切だが、「職人技」を継承していくことも必要ではないだろうか。

長年の知恵や経験が生きる型枠の世界

真っ直ぐな型枠は、正直材料と要領さえ覚えれば誰でも組める。しかし、複雑な構造物を設計する場合は、必ずしも真っ直ぐな型枠ばかりとは限らない。

時には頭を捻らせ、構造物の設計と誤差が出ないような型枠の施工方法を考えなければならない。職人の方々は、こちらが図面で型枠の寸法を確認する前に、頭の中で解決策を見つけだしてしまう。

本来であれば、図面上で計算や確認作業を行わなければならないことを、経験と知恵を活かし、完成後の構造物を完全に頭の中で再現しながら、型枠を組み立てることができるのだ。

そういった意味でも、長年この業界で職人として活躍される方々には頭が上がらない。型枠の作業に関しては、職人さんの技術を、特に継承しなければならない分野だろう。

AIの発達によって、これまでよりも構造物の形状や細かな数値を自動で出せるようになった。とはいえ、それを対自然の中で予定どおりに組むことが、どれほど難しいことか業界の人間にはわかるはずだ。

構造物を設計する場所が、必ずしも設計書通りとは限らない。時には、地盤の地質が思っていたものと違っていたり、天候によって崩れてしまい原型が残っていないといった状況もある。

そのような変化に、AIだけで対応していくことは、まだまだ先のことだろう。職人の技術をきちんと継承していかなければ、施工管理技士だけでなく「施工をできる人間」も減っていってしまう。


「職人技」こそ、継承していくべき

職人の方が極めた技は、本当に素晴らしい。土木の現場で、それが顕著にあらわれるのは「建設機械の操作」ではないだろうか。

現場に行くたび、オペレーターの腕の良さに本当に感心させられる。私が実際に目の当たりにした工事の例で言えば、ICT技術を使った掘削作業時に、想定していない岩線が出た。

最初に組み込まれていたプログラムはもちろん変更しなければならないため、膨大な時間がかかると思われた。しかし、その時、職人さんが率先してペッカー機を操縦し、難なく施工を済ませたのだ。

彼らには、1つの施工に対してプランが大体3通りくらいは存在する。プランAで問題が発生すれば、すぐさまB、それでもダメならCに変更といった具合に、現場作業を止めることなく切り替えることができる。

私は、その判断力の早さに脱帽した。ICT施工は、確かにあらゆる内容を自動化できて効率が良いかもしれない。しかし、異常事態が発生した時に対応できるのかは、まだ100%ではないだろう。

こういった時、職人の方がいかに素晴らしい知恵と技術を持っているかを思い知らされる。それと同時に、施工管理技士の立場として、今の職人技術が継承されないことは、将来的に建設業界にとって非常に危険であると感じている。

人件費や施工単価の削減ばかりに目がいき、そういった技術の重要性が薄れつつあるのが現状だ。確かに、人を使わない施工は、作業効率、人件費、安全面などにおいては計り知れないメリットがある。

だが、その反面、日本の建設業界において、大きな売りであった「職人技」による繊細な技術を失うことになる。施工管理技士の細かな要望をかなえてくれる存在がいなくなるということだ。

細かな要望とは、市役所などとの折衝の中で、使用材料や施工方法の指定を受けることがある。職人の方々が、そういった細かな変更に対応してくれることによって、我々の業務は成り立っている。さらに、職人の知恵を借りることで、よりスピーディーに工事を進めることができているのだ。

私は、ICT技術でそれらを実現できるとはまだ思っていない。実現できるという実感すら湧いていない。少なくとも、職人の技術は、これからの若い世代にも継承されていくべきであると強く感じている。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
“最悪のタイミング”で始まった土木の働き方改革。「このままでは技術者のレベルが落ち、良い職人もいなくなる」
「職人の徒弟制度は崩壊した」4年間も寝食を共にする日本建築専門学校の“古き良き教育”とは?
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
某ゼネコンで土木施工管理技士として奮闘中。前時代的な建設業界の風潮に辟易し、自分のキャリアプランを見直したい今日この頃。
モバイルバージョンを終了