「マジメさと遊び心」が混在する老舗 総合建設業 梶川建設
2020年で115年目を迎えた、老舗建設総合会社の株式会社梶川建設(愛知県碧南市)。「パイラー工法」という特殊技術を武器に、堤防等の補強対策に威力を発揮。最近の「令和元年東日本台風」などで堤防強靭化の重要性が再確認されていることも相まって、同社の存在感が高まっている。
さらに、最近では建設業界をより良く変えていきたいという強い意志のもと、きゃりーぱみゅぱみゅら原宿文化のインフルエンサーが所属する芸能事務所兼モデル事務所のアソビシステム社とコラボ。建設業界のイメージアップにつなげ、インフラ整備人材の獲得にもつとめている。
そんなカタく専門特化した特殊技術を持ちつつも、どこか遊び心のある梶川建設の管理部長 古居秀崇氏に、「老舗企業が生き残る秘訣」や売上の半分を占める「パイラー工法」、そして同社が目指す「建設業界の大革命」について話を聞いた。
造船業から建設業にジョブチェンジ
――御社の概要からお願いします
古居秀崇氏 当社は1905年に創業し、今年で115年目になる老舗の総合建設会社です。従業員は95名で、うち男性が77名、女性18名と、建設業の中では女性比率は高いかと思います。売上高は約35億円、2本社制を採用し、愛知本社は愛知県碧南市に、東京本社は東京都新宿区にそれぞれ設置し、最近では大阪営業所も構えています。
全国に約421万社の企業がありますが、創業100年を超える企業は日本全体で0.006%に過ぎません。もともと当社は造船業からスタートしましたが、時代の流れやニーズに合わせ、業態を変えてきました。つまり、「革新」と「挑戦」の姿勢が生き残る企業の特徴であると我々は考えています。
老舗とは、今あるものを大切にしつつ、決して歴史にあぐらをかかずに、新しいことにチャレンジしていくことに尽きます。最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。変化できる企業が生き残るのです。
「革新」と「挑戦」の姿勢が生き残る企業の特徴と力説する株式会社 梶川建設管理部長の古居秀崇氏
――造船業から建設業にジョブチェンジすることは勇気がいると思いますが。
古居 造船業として重機を保有していたため、地域の土木業に参入、さらに建築にも拡大したのが経緯です。
当社の社長は梶川家が代々継いでいるのですが、現会長がパイラー工法の重要性に気づき、機械も導入しましたが、それほどの需要はありませんでした。当時のメンバーと一緒になって工法の普及を地道に行った結果、花が開き、今や主力事業で売上の半分を占めています。今から22~23年くらい前のことですが、正確な年数は曖昧です。
――核となる事業については。
古居 事業も「土木基礎事業部」「建設事業部」に分類しており、かつこの「土木基礎事業部」を、各種機動設備を駆使して、鋼管杭・鋼矢板圧入引抜を行う「パイラー業務(基礎工事)」と通常の「土木業務」に分類しています。
このパイラー工法で全国50万社の総合建設業のうち、オンリーワンの技術力を保有しています。一般的な手法では不可能であった狭い場所での施工を可能にしています。
堤防決壊を防ぐ「インプラント工法」
――何がオンリーワンの技術?
古居 代表的なのが「インプラント工法」です。「インプラント工法」とは”天然の歯”の構造を意味し、地中に鉄の板「パイラー」を深く押し込み、一体化させることで、通常の施工よりも堤防や構造物を強化できます。大規模地震による津波や風水害による堤防決壊などを防ぐ効果があります。
一般的に堤防は、土砂で固めた盛土で構成されていますが、「令和元年東日本台風」や2020年7月4日に熊本県や鹿児島県を襲った大雨では、堤防の脆弱性もあり、越水・浸透・浸食破壊を起こし、大きな被害をもたらしたことは周知のとおりです。
そこで、堤防を鋼管矢板連続壁や鋼矢板二重締切により、補強をすることで、越水・浸透・浸食による堤防の崩壊を防ぐとともに、地盤をしっかりと拘束しているので、地震による液状化を抑制する効果も発揮しています。
「土木基礎事業」は、地球に根を張り、杭を打つ仕事がメインです。「インプラント工法」以外にも、「ジャイロプレス工法」、「硬質地盤クリア工法」、「ノンステージグ工法」、「液状化抑止工法」など多彩な工法を確立しています。
パイラーの機械は、鋼管杭や矢板を建て込み、ラジコンで操作、圧入していきます。
鉄道付近でもパイラー工法が活躍
――特化した技術で、他社と相当な差別化がはかれますね。
古居 これらの工法は、技研製作所(高知市)と日本製鉄(旧新日鉄住金)が共同開発・普及しており、フランチャイズ型の業務提携を展開していますが、多くの参加企業は基礎工事に特化した会社です。同社から認証基準をクリアした「GMメンバー」の認定を受けており、当社は特殊機械を保有し、GMトップ工法の技術力、提供できる、そこに強みがあります。
――ほかの技術は?
古居 景観を壊さず、日常生活の影響を極力無くした環境配慮型の技術を保有しています。最近では、鉄道近接現場や狭隘な建築現場など、狭い敷地でもパイルを打ち込む技術を全国展開中で、東京メトロのエスカレーター工事等にも導入しました。狭い場所で鉄の板を打ち込むことは難しいのですが、当社が保有する技術と機械により、可能になりました。この技術も技研製作所と契約し、機械を扱うことが可能になっています。
ほかインフラ整備、耐震・免震、住みよい街づくり(環境保護、道の景観整備)・震災復興など、街のお医者さん的役割を担っています。
こうした技術と経験があるので、スーパーゼネコンや準大手、中堅などの建設会社ともトップパートナーの地位を確立できています。
国土強靭化にパイラー工法は不可欠
――「平成30年西日本豪雨」や「令和元年東日本台風」などの洪水で堤防が決壊した事例がありましたが、より強靭な堤防にしてほしいというオーダーはあるのでしょうか。
古居 ええ。近年の豪雨等により、河川の堤防が決壊した事例も多く、当社の一連の技術を活用すれば、決壊しない防波堤を建設することは可能なため、徐々に全国の河川堤防決壊時の対策、耐震化に対する緊急性として海岸堤防を強固にする計画や依頼が増えています。日本の国土強靭化にあたり、当社のジャイロプレスパイラー(インプラント)工法は不可欠なものです。そのため、さらに広め、安全・安心な街づくりに役立てたいと考えているところです。
ただ、こうした特殊な技術は、他社がすぐに導入できるものではないので、いずれは全国、そして東南アジアを中心とした世界に向けた展開を検討しています。実際、より強固で環境に配慮した当社の技術は東海エリアにとどまらず、日本全国から工事依頼が殺到しています。業界でも希少な技術力で幅広いニーズに応えられると自負しています。
――もう一つの柱である建設事業部は?
古居 建設事業部は、建築部と重機部からなります。重機部は、最大20tクラスのものを運べる機械を保有しておりますが、中小企業でこのクラスの機械を保有しているところはそうそうありません。時代の先を見越した投資と機械を扱う技術力向上のため、積極的に導入しています。
建築部では、地下熱を利用した自然エアコンの「ジオパワーシステム」や太陽エネルギーを利用したスマートハウスを実現しています。ほか商業施設、邸宅、公共施設、工場など多彩な建築ニーズに設計・施工、リフォーム、メンテナンスまでトータルに対応しています。
ほかに変わった取り組みでは、ヨーロッパをベースとした住宅・店舗の設計や施工をされている「ぬくもり工房」の建築家・佐々木茂良さんとコラボを組んで、「かわいい、ecoとやさしい」をテーマに、より先進的で親しみと味わいを感じるこだわりの家も建設しています。
おとぎ話に登場するような建築「風の井戸」
「かわいい」「キラキラ」「きれい」が新3K
――各事業を通じて、「日本の安全・安心な社会を守る」というミッションを実現しようとしていることは理解しました。次に、「業界の大革命」というミッションについては。
古居 当社は、建設会社のイメージを変えたいと強く思っています。これまでの建設業界は、男性社会であり、きつい仕事、危ない仕事というイメージだったと思います。しかし、近年では、ITやAIの活用により、女性も次々と活躍しています。当社にも、女性社員が毎年入社しています。
説明会で講師をつとめる古居部長
一方、世の中の建設業界のイメージが変わらないのも現実です。そこで当社は先駆者となり業界に変革を起こしていこうと考えました。これまでの建設業界にはない、新たな建設会社の創造、業界のイメージを変え、変革していく先駆者となり、そこから生まれる新規事業を新たな柱としてさらなる進化を目指し、自社と建設業界全体のさらなる発展に繋がることを目標にしています。その初弾として、アソビシステム社とコラボを組みました。
――アソビシステム社とは?
古居 日本の街が生み出すコンテンツをサポートして、成長させ、国内外に向けて発信する会社です。きゃりーぱみゅぱみゅさんや三戸なつめさんなど、さまざまな芸能人が所属されています。このほど、アソビシステム社から、従来の建設会社とは真逆なイメージのログマークも考えていただきました。
『Kawaii』をコンセプトにした梶川建設のロゴマーク
また、アソビシステム社の中川悠介社長と当社の梶川光宏社長が、就職活動中の学生に向けて、ビジネスを通じて業界やイメージの改革に取り組む難しさ、面白さやカワイイ文化の価値について対談するセミナーも開催しました。
今、新型コロナウイルスの影響で中断していますが、建設現場のイメージを刷新するためのプロジェクトも始動します。新3Kとして、「かわいい」「キラキラ」「きれい」に変えていきたいという目標で取り組んでいます。
アソビシステム社の中川悠介社長(右)と梶川建設の梶川光宏社長の対談セミナー
――ユニフォームも一新された。
古居 「建設業界に新しい風を!」というコンセプトで、2018年に「ユニフォーム刷新プロジェクト」を立ち上げました。デザイン監修にはアソビシステム社も参画いただき、社員の意見、社長のこだわり満載のユニフォームが2019年11月に完成し、全社員に配布しました。
ブルゾンは夏以外の通勤着、事務所で作業する時に使えるユニフォームです。生地からこだわりました。一般的な防寒着は、綿がいっぱい詰まっており、くすんでいるイメージがありますが、当社で新たな制作した防寒着は、土木作業以外でも使っている人が多いですね。
一新されたユニフォームとヘルメット
一方、ヘルメットはデザインだけ変えたのではなく、最新の機能も搭載しています。これまでのヘルメットは墜落時保護のため発泡スチロール製の衝撃吸収ライナーがセットされていましたが、「暑くてムレる」などの欠点がありました。そこで、発泡スチロール製の衝撃吸収ライナーがなく、その代わりに従来品の衝撃吸収ライナー同等以上の性能を持つブロックライナーを搭載しています。ヘルメット内部の空間が広がり、通気性が格段に向上するため、着用時のムレを防ぐヘルメットになっています。
――働き方改革は?
古居 当社としては、「働きやすさ改革」と称して、様々な新制度をつくっています。たとえば、バースデー休暇制度として、誕生月もしくは翌年の誕生月までに有給休暇とは別に1日休みがもらえる制度があります。
また、メンター制度として、入社1年目~3年目の新人社員は定期的に上司や社長との面談時間を設け、近況報告や今後の働き方について相談することができます。ほかの会社では働き方について社長と直接話し合う機会はなかなかありませんが、当社はアットホームな社風なので、こうした機会を設けるようにしています。
――緊急事態宣言下の取り組みは?
古居 まず、社員全員に50枚マスクを配布しました。一時期、ドラックストアでもなかなか購入できない時期が続きましたが、会社として手配しました。今でも1か月ごとに、マスク50枚を配布しています。
ゴールデンウイークの時は、「Stay Home手当」を付与しました。社員からは”Zoom飲み会”のおつまみ代や、家族でちょっとした贅沢をするためのお寿司代、子どものおもちゃ代に使ったといった話を聞きました。
今後も社員からの意見を積極的に吸い上げ、さまざまな新制度を実現し、社員全員が働きやすい会社にしていきたいと思います。