「特定課題対策パッケージ型」総合評価方式とは?埼玉県県土整備部にインタビュー

地域建設企業の担い手確保にまったなし

若手技術者の担い手確保・育成や、地域建設企業の技術力・品質確保に迫られている地方公共団体。国も様々な施策を試行しているが、埼玉県県土整備部では、2016年度から特定課題対策パッケージ型の総合評価の試行をスタートし、思い切った評価加点を実施している。

今回、その旗振り役である埼玉県県土整備部建設管理課技術管理担当の日比野恭彦主幹と、深井勝徳主査に話を聞いた。

埼玉県の特定課題対策パッケージ型総合評価方式とは?

埼玉県県土整備部建設管理課技術管理担当 日比野恭彦主幹(右)  深井勝徳主査(左)

――まず、埼玉県県土整備部における、特定課題対策パッケージ型総合評価方式の試行についてお聞かせ下さい。

埼玉県 建設業は現在、ベテラン技術者の大量退職を控え若手技術者の確保・育成という中長期的な問題を抱えています。2014年には「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(以下・品確法)が改正・施行され、地域建設企業の技術力の維持と、品質の確保が重要な課題になっています。多くの地方公共団体が多様な入札方式を検討していますが、埼玉県としては2016年度から、特定課題対策パッケージ型の総合評価方式の試行をスタートしました。

埼玉県の特定課題対策パッケージ型総合評価方式の試行は3タイプあり、「若手技術者育成」「地域の担い手確保」「品質確保重視」など特定の課題に対応する地域建設企業に対して、評価としてそれぞれ加点する制度設計にしています。今年度の特定課題対策パッケージ試行工事の合計件数は、2月17日時点で37件です。

なお、女性の活躍推進についても検討しましたが、埼玉県の地域建設企業では担い手となる女性技術者があまりいないため、ごく一部の地域建設企業に有利な入札方式の制度設計となり、女性技術者の活躍という観点からは断念した形です。しかし、埼玉県は知事のトップランナー施策として、ウーマノミクス課を設置し、女性が活躍するフィールドの拡大など女性活躍について様々な施策を実行しています。具体的には、育児休暇の取得、出産後の会社復帰など多様な働き方を実践している企業を優遇し、プラチナ、ゴールド、シルバーというランクでそれぞれ認定しています。こうした多様な働き方を実践している建設企業が認定を受ければ加点することを現在検討中です。埼玉県ではまず中長期的に女性技術者を増やしていく下地づくりからはじめていきたいと考えています。

異例の評価点の高さで若手技術者の活用を促進

――では各論に入って、特定課題対策パッケージ型総合評価方式の「若手技術者育成型」について教えて下さい。

埼玉県  まず若手技術者育成型は、35歳未満の現場代理人または担当技術者の配置、40歳未満の主任(監理)技術者の配置、そして4週8休を確保する工程管理、これらを実行すれば評価点として加点します。

若手技術者育成型は、若手の活用・登用を促進することによって中長期的な担い手を確保が図れると同時に、4週8休を確保することで、若手が建設業に入職しやすい環境を整備することが狙いです。行政や地方公共団体としては、そのような企業を評価することで、建設業の若手技術者の確保につながればと考えています。

もちろん、地域建設企業が4週8休にすべきであると、埼玉県が強制することはできませんので、せめて、この試行工事の現場では、4週8休を確保して欲しいという願いが込められています。

――土曜日・日曜日の休みではなく、4週8休とした理由は?

 埼玉県 国や他の地方公共団体では、土曜日・日曜日の週休2日モデル工事を実施しています。なぜ埼玉県では4週8休としたかと言うと、業界団体との懇談で、「建設技能労働者は土曜日に現場へ出たい」という意見が多数寄せられました。建設技能労働者は、日給月給の待遇が多いので、トータルでの賃金が減少するなどの課題もあります。雨や台風などの気象現象で休日になるのは致し方ないにしても、休日となった分、晴れた土曜日に仕事をしたいという意見があり、そこで埼玉県としては融通を利かした4週8休の工程管理での加点を設けました。

また、コンクリートの打設など連続して工事を進めなければならない場合もあります。場合によってはどうしても土曜日に現場を動かす必要も出てきます。そこで土曜日と日曜日を強制的に休む工程管理ではなく、融通を利かしたトータルでの休日を確保する工程管理のほうがより良い制度設計と考え、土曜日・日曜日の週休2日モデル工事ではなく、4週8休を選択したのです。現場ごとに施工状況やバリエーションで判断してもらえれば良いと考えています。

 ――年齢設定は「35歳未満を現場代理人または担当技術者に配置で加点」「40歳未満を主任(監理)技術者に配置で加点」としていますが、その理由は何でしょうか?

 埼玉県企業が建設工事を受注するためには、入札参加資格審査を受けなければなりませんが、一般的な評価として、35歳か40歳で設定している場合が多いです。

現場代理人は資格がなくてもなれるため35歳として、主任(監理)技術者は土木や建築の施工管理技士などの資格が必要ですので40歳未満とやや高めに設定しています。全国的にみても、1級2級を問わず施工管理技士などの技術者は40歳から下が少ない状況です。地域建設企業の事情も鑑み、全体の若手の担い手を確保・育成する試みです。

埼玉県県土整備部建設管理課技術管理担当 日比野恭彦主幹

――評価点については何点と設定していますか?

埼玉県最大で4点加点します。この評価は二段階ありまして、まず若手の技術者を配置すれば2点、また、その技術者の方が一級土木施工管理技士等の資格を持つ場合は更に2点、合計4点の加点になります。

また、4週8休を確保した工程管理を実現した場合には、2点加点しています。ですから、若手技術者育成型の技術点の評価として6点加点されることとなります。

――他の地方公共団体と比較しても、高い加点ではないでしょうか?

 埼玉県 インパクトがある点数で無ければ意味がありません。埼玉県にある地域建設企業の方々が、この加点を高いと感じていただくことが狙いです。

技術力のある若い技術者の入職を促進し、建設業界全体が休みを増やしていこうという動きを誘導するために、評価点を高めに設定しています。

災害協定を締結している埼玉県建設業協会の会員企業は自動的に2点加点

――続いては、「地域の担い手確保型」の狙いについてお聞かせ下さい。

埼玉県地域の担い手確保型ですが、やはり本県で自然災害などが発生した場合、真っ先に現場に駆け付けていただくのは地域建設企業の皆様ですから、災害防止活動の実績を重点評価しています。われわれ行政が駆け付けても、実際に動くのは地域建設企業の皆様であり、そのご尽力とご協力なしでは、災害における復旧・復興活動もままなりません。

また、地域建設企業の中には、率先して道路や河川の掃除を行うなどボランティア活動に力を入れておられているところもあります。長年その地域に根ざした建設会社もあり、地域に精通した企業もございます。地域の担い手確保型は、こうした地域密着型の企業活動を評価するものです。

ただし、全ての県発注工事において地元以外の建設企業を排除する制度設計にするわけにはいきませんし、特定課題対策パッケージ型で全工事を発注することも非現実的です。県全体の工事としては一部の工事ではありますが、特定課題対策パッケージ型の総合評価方式で発注する工事に限って申しますと、地域で頑張っている地域建設企業を評価により加点し、落札しやすい制度設計にしています。

埼玉県県土整備部建設管理課技術管理担当 深井勝徳主査


――具体的な加点数は?

埼玉県 埼玉県は地域建設企業に対して災害対応を依頼し、それを実行すれば証明書を発行しています。その証明書を埼玉県発注機関に提出していただければ評価します。従来型総合評価は2点でしたが、特定課題対策パッケージ型の試行工事では最大4点です。内訳は、県と災害防止協定を締結していれば2点、過去2年度間で、県の依頼に基づいて災害防止活動を実施すれば2点で合計4点になります。

この災害防止協定は埼玉県建設業協会などと締結していますので、協会の会員企業は2点加点されることとなります。地域の建設業協会などの会員増強にもつながり、会員企業の力が結集し、災害に対する応災力も格段に高まりますので、先を見据えた災害対応についても考慮された制度設計となっております。

地域の工事は地域建設企業が施工すべき

――「地域の担い手確保型」は、企業の地域精通度を重点評価しますが、これは具体的にどのような内容でしょうか?

埼玉県埼玉県県土整備部は、12の発注機関(さいたま、朝霞、北本、川越、飯能、東松山、秩父、本庄、熊谷、行田、越谷、杉戸の県土整備事務所)を設けており、各事務所管内に本社がある場合において評価する制度です。

たとえば、熊谷県土整備事務所は、熊谷市、深谷市、寄居町が管内ですので、そこに本社を設置している場合、3点加点しています。

先ほども申しましたが、全ての県発注工事において、他地域の建設会社を完全に排除することはしませんが、特定課題対策パッケージ型の試行工事としては、やはり管内にある地域建設企業の保護・育成や応災力の確保という観点から、所管する事務所に本社がある地域建設企業を優遇する施策は当然のことと考えています。

埼玉県としては、県内企業でできるものは、県内企業の受注機会の確保を図っております。さらにミクロ的に考えれば、県土整備事務所単位で地域建設企業の受注機会の確保を図るべきと考えています。地域の工事をその地域の建設企業が担当することは、地域性や土地勘、緊急対応などの観点からもベターではないでしょうか。

――「地域の担い手確保型」では、企業の社会的貢献度(ボランティア等)も重点評価しますが、こちらについてもお教え下さい。

 埼玉県「企業の社会的貢献度(ボランティア等)を重点評価」は、埼玉県が管轄している道路、河川などのボランティアを評価するものです。道路で言えば『彩の国ロードサポート』、河川で言えば『川の国応援団美化活動団体』で道路や河川の清掃美化活動や維持活動などのボランティアを行っていただき、埼玉県からの活動認定を受ければ評価します。この制度にはかなりの企業が参加しています。

さらに地域建設企業が大学生や高校生のインターシップを受け入れれば加点しますので、通常の総合評価方式であれば2点ですが、特定課題対策パッケージ型の試行工事においては、ボランティアとインターシップの受け入れで合計4点加点されることとなります。

埼玉県ならではの品質確保重視型

――今度は「品質確保重視型」ですが、わかりやすく説明をお願いします。

 埼玉県総合評価の基本は品質確保で、一般的な総合評価方式としては、技術提案型があります。発注者として価格以上に優れた提案があれば、トータルで評価し落札者を決定する制度です。

埼玉県が実施している品質確保重視型の特定課題対策パッケージ型は、工事施工における管理基準をより厳しく管理していただければ加点するという評価方式です。たとえば、誤差10センチまで許容した場合、提案で8センチまでの誤差であれば3点、9センチまでの誤差であれば1.5点として評価する制度設計です。

検討中の「多様な働き方実践企業」認定による評価について

――「多様な働き方実践企業」認定での加点は検討中とのことですが、現在どのような検討がなされているでしょうか?

 埼玉県次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し一定の基準を満たした企業は、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣から「くるみん認定」を受けることができます。

埼玉県は、同じような制度として「多様な働き方実践企業」認定制度を行なっています。女性の力で埼玉経済を元気にする「埼玉版ウーマノミクスプロジェクト」の一環として「多様な働き方実践企業」を認定しています。短時間勤務やフレックスタイムなど多様な働き方を実践している企業・事業所等を認定するのが趣旨です。認定基準については6項目あります。

  1. 女性が多様な働き方を選べる企業
  2. 法定義務を上回る短時間勤務制度が職場に定着している企業
  3. 出産した女性が現に働き続けている企業
  4. 女性管理職が活躍している企業
  5. 男性社員の子育て支援等を積極的に行っている企業
  6. 取り組み姿勢を明確にしている企業

1~6までのうち、2つ以上該当すれば、認定要件を満たす可能性が高いです。現在、ウーマノミクス課から認定している地域建設企業は100社ほどあります。すでに取り組まれている建設会社もありますが、メリットが感じられないため、わざわざ申請して認定を受けていない企業もあるかと思われます。

2016年に特定課題対策パッケージ型の試行工事を含む総合評価のアンケートを実施したところ、社内で図面を設計したり、資料作成したりしている女性の活動も加点して欲しいという要望もありました。

年度末に総合評価審査委員会開催する予定であり、その委員会で総合評価の制度改正について議論を行います。4月頃に入札参加者向けに説明会を行い、その中で「多様な働き方実践企業」の扱いなどについて説明できればと考えております。

シニアの活用評価は、慎重に判断

――パッケージ型試行工事でのアンケートについてですが、シニアの活用を評価して欲しいと言う要望がありますが、これについてはいかがでしょうか。

 埼玉県私どもがお会いした施工管理技士で70代の方がいらっしゃいました。埼玉県の地域性として地域建設企業の中には家族・親族経営で行なっている方や長く社長に仕えた番頭のような役割を果たしてきた方も多く、元気で働いています。そういう方々を評価して欲しいという要望もありますが、シニアの方を評価すると、地域建設企業としての差別化が図りにくいので、ここは慎重に考えています。埼玉県の技術者が高齢化していることを如実に示したデータだと受け止めています。

――では最後に今後の埼玉県の方向性についてお願いします。

埼玉県中長期にわたる担い手確保・育成を引き続き進めてまいります。総合評価方式も今後、項目も追加し変化していくと思います。埼玉県の工事は随意契約も含めて年間約2,500件発注しておりますが、そのうち総合評価は約250件、特定課題対策パッケージ型の試行工事は37件ですので、本パッケージ試行工事は思い切った施策を採用しても良いと考えています。ただ発注全体のバランスを考えて検討する必要があると思います。

今年度の特定課題対策パッケージ型の試行工事もそろそろ終わりますので、今後、受注企業からアンケートを採り、問題点やメリット、デメリットの意見をうかがい、今後の制度設計に活用して参ります。

また生産性向上も重要な施策であり、埼玉県も生産性向上のため、IT(情報技術)やICT(情報化施工)を土木の公共工事に本格的に導入し、担い手確保・育成とともに両輪で施策を進めています。『施工の神様』で取り上げて周知・広報していただければ幸いです。

――地方公共団体における生産性向上は、担い手確保・育成とともに最重要施策であると認識しています。本日はありがとうございました。

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