危険予知活動

KYボードの掲示場所をハッキリ言える現場作業員は、滅多にいないという事実

KYボードの掲示場所すら把握していない

これは、私が中国地方の発電所建設工事に、安全担当として関わっていた時の話だ。現場は残り1か月ほどの時期だった。

その日は、毎朝行う危険予知活動の表を点検して回った。現場にいる作業員に、「KYボードは今どこにあるのか?」から始まり、その内容について問いかける。

ほとんどの作業員は、シドロモドロになり、あやふやな答えを繰り返す。KYボードがどこに掲示してあるのか、ハッキリ言える作業員もほとんどいなかった。

だが、それを責めるだけでは、単なる意地悪だ!イジメに近い!大切なのは、なぜそんなことを安全の人間が聞くのか?その真意を説明しなければ意味がない。

建築現場よりもはるかに多い危険要素

本来は、作業員の全員が危険予知活動表の内容を理解し、危険な点を注意しながら作業するようにしなければ、危険予知にならない。

特に、私がいた現場は、通常の建築の現場に比べれば、はるかに危険要素が多かった。そもそも、最高高さ80mの床の8割がグレーチングで覆われ、場所によっては、最上階から1階まで全ての階が繋がっており、上下作業になっていた。

プラントの特性上、構造体は鉄骨、床はグレーチングもしくは縞鋼板になっている。グレーチングは、鉄骨のフランジに専用の止め金具で止められているが、ボルトで締め付けられているので所々緩んでいる箇所もあった。

1箇所や2箇所くらい仮に外れても、グレーチング床が滑って動くことはないが、怖いのはグレーチングの角が浮き上がって、床に段差が出来ていたことだ。

また、部分的に鋼鈑を溶接で鉄骨に固定しているが、製作してきた寸法と現場寸法が合わず、それを無理矢理 溶接するので、所々歪みが出て、表面が平らではなく波を打っている場所もあった。

つまり、プラントの至る所で床が平らじゃない!場合によっては、つまづき転倒の原因になる。非常に危険だ!しかし、危険な場所はそれだけじゃなかった。

天井付近からは、おびただしい数の溶接用、電灯用のキャプタイヤが垂れ下がり、足場の盛替えの度に行き場を失い、床面近くまで垂れ下がっているのを、何とか床転がしにならないように上部鉄骨より吊っていた。

また、安全通路には、これから各種機械配管に巻かれる保温材と、その表面に巻かれる亜鉛鉄板の束が、左右の手すりに針金で括り付けられていた。場所がなく、しかも材料がかさばるため止むを得ないことだが、安全通路としては全く機能していなかった。

材料を縛ってある針金が、番線のように太くないので、見た目には全く見えず、脚に絡まり、最悪つまずくことさえ考えられる。

そんなわけで、作業員が場内を歩く時は、あたかも小学生に言うように「しっかり前を見て、下や上を見て歩きましょう!」などと言わなくてはならなかった。

思わぬことで作業が中断することもある

それほど、危険があっちこっちにある現場なので、事前の危険予知活動は絶対必要だ。作業が複数階に散らばる場合は、作業場所の危険を作業員がしっかり把握していないと、思わぬことで作業が中断することもある。

上階で溶接を始め、養生が不十分で火の粉が降り注いだり、すぐ横で足場の解体を始め、通路が立ち入り禁止になったりと、他社の仕事がしっかり情報として伝わっていなければならない。

そのために、施工管理の担当者は、危険予知活動表の内容をしっかりチェックし、極力作業変更はしないという心構えが必要だ。

たかがKYボードでも、これだけ最低限の注意事項があり、その内容を明記したボードは、本来とても大切なモノのハズだ。だからこそ、「KYボードは大切なモノなんですよ!」と、安全担当者は作業員に説明しなければいけない。

ここまでは安全担当としての目線で話をしてきたが、施工管理の仕事をしていた時は、正直ここまで考えていなかった。

今後、建築の現場に戻った時は、危険予知活動表にしっかり目を通し、ありきたりの内容ではなく、より具体的な実際の危険に対する予見が可能な内容を目指そうと思う。

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