施工中の中規模倉庫

施工中の中規模倉庫

社員5人の工務店が8,000万円の倉庫建築を受注。工務店の生き残り策は”木造の非住宅”にあり

地域ゼネコンに挑む小規模工務店

以前、「“大型パネル”が運んできた大工の働き方改革!」の記事で、新潟県・三条市の株式会社サトウ工務店の完全週休2日、祝日休日、年間5日以上の有給休暇制度など大工の労働環境を劇的に改善した取り組みを紹介した。

その後、同社は社員5人(事務所スタッフ2名、大工職人3名)という小規模な地域工務店にもかかわらず、大型パネルを武器に、8,000万円の中規模倉庫を受注。工務店の新たなビジネスモデルを模索している。

新設住宅着工戸数は、2019年度の88万戸から、2030年度には63万戸、2040年度には41万戸と減少していくとの予測がある。工務店大淘汰時代は必然と言える。

「従来、地域ゼネコンが受注してきた鉄骨造の倉庫等に参入することが、地域工務店の生き残り策の一つ」と語る、株式会社サトウ工務店の佐藤高志代表取締役に話を聞いた。

中規模倉庫を木造で施工

株式会社サトウ工務店の佐藤高志代表取締役

――今回受注したのはどのような物件?

佐藤 高志氏 まず、住宅の着工数が今後も減少していくことは間違いありません。しかも、この新型コロナウィルスの影響でさらに一段、需要が低下し、回復までは時間が掛かると思います。職人不足の問題もあり、この2つが地域工務店や住宅業界が抱える課題です。

こうした課題がある中で、当社では木造2階建て、延床面積約514m2の中規模木造倉庫兼事務所の新築工事を受注し、無事竣工しました。総工費は8,000万円です。通常は地域ゼネコンが受注し、鉄骨造で施工する規模です。

しかし、木造で施工すれば、工務店でもこの規模の案件を十分施工することが可能なんです。当社は、私と設計スタッフ1人、現場施工する正社員が3人と、小さな規模の工務店です。それでもこの工事を受注し、施工できた意味は大きい。総工費8,000万円といえば、住宅工事の約3棟分ですから。

この規模の工事を何年かに1回受注できれば、住宅の着工件数の減少を補えると考えています。倉庫や事務所など、これまで鉄骨造で建築していたものを木造で建築することで、工務店業界の新ビジネスの一つになりうる可能性があります。

建築した木造倉庫

――受注の経緯は?

佐藤 施主はもともと、地域ゼネコンが施工する計画で鉄骨造を検討していたんですが、この案件を小耳にはさみまして。もともと、10年前にこの施主の社長さんとご子息が、それぞれ当社の設計施工で住宅を建築されました。それだけつながりがあったにもかかわらず、会社の倉庫を立て直す計画が立案された時、当社にお声がけをいただけませんでした。

ですから、施主も当社が中規模建築の倉庫を、設計・施工ができるとは念頭になかったんです。ただ、施主が地域ゼネコンと打ち合わせをしているさなか、不明な点もあったことから、私にお声が掛かりました。

相談を受けていた時に、経験がなかったのですが、私が「この規模であれば木造で建築できますよ」とポロっと言ったところ、見積もりをお願いしたいという話が進み、契約に至りました。

打ち合わせ2回で契約し、たまたま運がよく受注できたように見えますが、非住宅の木造建築については以前から意欲がありました。

木造は鉄骨造よりもコストが安く、企業PRにもつながる

――鉄骨造と木造ではコスト比較は?

佐藤 若干、木造のほうが安かったんですよ。それに、コストが安かっただけではなく、工務店は住宅建築では動線を丁寧に設計する傾向があります。事務所の設置場所も使いやすさを考え、トイレの望ましい場、従業員のオアシスとなる景観の良いバルコニーなど丁寧に提案したところ、施主から大変いい評価をいただきました。これは提案力のある地域工務店だからこそ可能なので、ほかの同業他社でも再現性があります。

当社が受注したことで、地域の県産材を一部使用し、地元の職人や、もしくは施主が普段、お世話になっている電気工事屋を使うことができました。これがもし、地域ゼネコンが施工すると工事一式すべて先方の下請けを採用することになります。ですから、木造施工の方が地域貢献から見てもメリットが大きいです。

会社によりますが、減価償却が早いため、経費も落としやすく、木造のほうがのちのち増改築もしやすい。それに、今はSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも民間企業に環境配慮が求められて、世界的にも木造の中規模化が進展しているので、鉄骨造よりも木造で建築したほうがいい企業PRにも繋がります。

――今回の施工場所は?

佐藤 新潟県の燕市で、周囲は工業団地です。場所柄、鉄骨造建築が多かったので、「おたくはどうして木造で建てるの?」と話題になりました。施主が発信しなくても、話題性に富んだことから、地元紙にも掲載していだたきました。

以前、大型パネルを導入することによって、工務店の労働環境を向上するお話をしましたが、施主にとっても中規模建築を木造で建築することは、同じく労働環境を改善することにつながります。倉庫はモノを置く場所ですが、人の出入りも多いので、働くには木造の方が環境によく、木が見えることだけで心が安らぐ効果もあります。

内部から見た倉庫空間

大型パネル導入で少数の職人で施工可能に

――施工はいかがでしたか?

佐藤 従来の住宅建築とは異なり、ハードルがいくつかありました。まず、人手の問題です。住宅は2~3人の職人を現場に投入すれば、3~4か月で竣工のメドがつきますが、中規模建築ですと工期が伸びます。

当社は、1年前から大型パネルを住宅建築に導入しました。住宅は中の間仕切り、設備、内装など中身も充実しなければなりませんが、倉庫建築は外被をつくると、ほぼ完成します。そこで倉庫などの中規模建築にも大型パネルを導入すれば、少ない職人で施工可能ではないかと考えました。

住宅は細かい品質に配慮できる大工でなければ、難しい。倉庫であれば住宅ほどの熟練工でなくとも、仕上げ作業などが完了でき、人手不足の問題をクリアできました。

――品質管理は。

佐藤 工事では240枚の大型パネルの耐力壁を用いました。工場で品質管理しますので、現場監督が240枚を細かくチェックする必要もなく、難易度のハードルも下がりました。

倉庫は、空間スパンが広いため、本当に木造で耐震性や耐力が満足できるかという課題がありました。そこで構造計算については、もとからつながりのある、当社と同じ三条市のウッド・ハブ合同会社の實成 康治代表にアウトソーシングしました。

同社は県内外の中規模木造専門工事の構造計算を受注しています。11mスパンのトラスは制作金物と大断面集成材を活用し、流通製品の金物を使い、特注品を極端に減らして設計されたので、小規模工務店でも問題なく施工できました。

すべて自社で行うと大変な作業になりますが、効率よくアウトソーシングを利用することにより、中規模木造建築の施工もクリアできたことは大きな自信につながりました。住宅建築を施工しつつ、中規模木造建築も合わせて行うことができたので、新ビジネスとして期待しています。

工務店は、木造中規模建築のシーズを見逃していただけ

――具体的にはどうビジネス化していく?

佐藤 今後、中規模建築の木造化の普及は十分ありえるんです。なのに、ビジネスのシーズになり得るものを、われわれ地域工務店は見逃していたわけです。あるいは、「われわれの仕事ではない」と仮にチャンスがあっても腰が引けていたんでしょう。

大型パネルは住宅だけではなく、非住宅にも相性がいい。特に、地元の三条市や現場がある燕市は、金属加工の工場、町工場や経営者が多い土地柄ですしね。

ただ、今回は良好な人間関係のもとで受注できましたが、工場や倉庫を建設する話は住宅ほど数が多くないので、ビジネスの入り口をどうつくるかがこれからの課題です。

そのためには、当社以外の工務店が非住宅を受注するケースが増えることが望ましい。「あの工場は木造で建築したよな」という話が少しでも広がれば、施主にとって木造で倉庫などを建築することが特別なことではなく、普通に受け入れられるような風潮になればいいですね。その循環で、当社にも再度お声がけをいただけると思うので。

ですから、ほかの地域工務店も非住宅工事のアンテナを張っていただければ、今後の地域工務店のビジネスにつながると期待しています。

小規模地域工務店でもやればできる。必要なのは経営者の決断

――大型パネルを導入して1年たちますが、メリットなどを総括してください。

佐藤 2019年8月に、大型パネルを導入し、住宅建築工事を上棟しました。1年前は品質も確保でき、労働環境も良くなることから、持ち出し覚悟での導入でしたが、売上も収益もおかげさまで上がりました。当社はおおよそ年間6棟上棟ですが、今期は8棟上棟、なおかつこの8,000万円の工事も完了する成果も見えました。

従来の人手では、ここまでの工事を施工するのは難しかった。しかも、大工も完全週休2日制を採用し、有休休暇も付与し、就業時間を短縮するなど”現場のホワイト化”も進めているので、現場の稼働日数は減少しているんです。それにもかかわらず、生産性向上した上での増収増益です。

大工も過酷な作業から解放され、モチベーションも大きく向上しました。1棟では分かりませんが、通年で見ると大きな成果があります。

――最後に、小規模地域工務店の生き残り策を。

佐藤 これまで当社は、小規模地域工務店にもかかわらず、何でも自社で賄おうと肩肘を張っていたんです。ですが、今回は一部の業務をアウトソーシングすることで気持ちも楽になりましたし、できることも増えました。

例えば、当社では設計施工を行っていますが、プランニングで間取りを書くことに時間が掛かることが欠点でした。ワンストップで設計・施工を提案できることが強みだと思っていたのですが、プランニングに時間が掛かることで失注するケースもありましたから。

できることは徹底的に内製化し、「メイド・イン・サトウ」を目指していましたが、人と、地域と繋がることで、できることがもっと広がることに気付きました。新潟の設計事務所や工務店が集まるコミュニティ「住学(すがく)」や大型パネルの「みんなの会」など、ネットワークが広がれば自分の中にも気付きも生まれてきます。

小規模地域工務店は、経営者の決断が大事です。大型パネルも、やる気になればすぐできます。従業員の待遇向上も、少人数なのでリスクか少なく、会社全体の意思統一も容易に図れます。小規模地域工務店にも強みがあるんです。この強みを最大限に生かしていくことが、工務店の経営者に求められることだと思います。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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