新米自衛官の頃に経験した台風
毎年、全国各地で台風被害がでており、建設業界でも台風による工事中止や被害が出ているのはメディアでもよく知られているところです。既存施設やインフラも同様です。
令和元年房総半島台風を例に見ても、住宅等においても未だに復旧できていない映像を見ると、建設業の端くれにいる私でも心が痛む思いです。
このような状況になっている原因はいくつかあると思いますが、近年の気象が日本の建設業における対応能力を遥かに越えているのかもしれません。
前置きが長くなりましたが、今回は私が自衛隊で経験した台風被害についてお話したいと思います。
あれは、某艦艇基地で勤務していたときのことです。当時、私はまだ新米自衛官でした。
某艦艇基地での台風被害
海上自衛隊の主要艦艇基地の敷地は、海と崖にはさまれている狭あいな敷地に位置するところがほとんどでした。
私が勤務していた某艦艇基地も同様で、急な勾配の崖が庁舎や倉庫等の裏にあるのが当たり前な環境で、台風や地震で崩れた箇所のみ法面をのり枠工で保護している状態でした。
この時、私の担当していた工事ではありませんでしたが、台風被害を受けて予算要求が通った法面のアンカー工が施工中でした。施工段階としては、モルタル吹付前の段階だったと記憶しています。
場所は、殉職された隊員の慰霊碑の真裏であり、日本庭園のしつらえと鯉がいる池がありました。当時の艦艇基地の総監(階級は海将、軍隊で言う海軍中将に相当)は慰霊碑の心配をされていたので、事前の打ち合わせでは慰霊碑周辺の仮囲いとネットをかけており、養生はしっかりとなされていました。
そのような中、台風が某艦艇基地に来るという気象予報がだされました。朝の会報でも総監は法面工事に触れ、慰霊碑には損傷のないよう指示を出されていました。担当者も施工業者には台風通過前には慰霊碑を確実に養生されているよう確認をし、工事現場での台風被害がでないよう指示を出していました。
台風通過は夜中から明け方にかけてでしたので、その日は当直以外は早めに仕事を切り上げ帰庁しました。当時、私は艦艇係留岸壁工事の担当をしており、朝6時には出勤していたため、5時ころに起床しました。
外を見ると雨は上がっていましたが、大雨と風により樹木が散乱していました。岸壁工事現場の確認をしようといつも通り6時前に正門を通過したとき、遠目から法面の一部が崩落して基地内道路に流れ落ちていたのを見つけました。
パッと見たところ大きな崩落ではなさそうな感じだったので、担当者が当庁してから対応するだろうなと思って庁舎に向かって歩いていると、その崩落した崖のふもとに人が2人立っているのを確認しました。
崖崩落場所に立っていたのは・・・
近づいていくと、その崩落現場に立っていたのは総監と副官(秘書みたいなものです)でした。こんな早くに総監が現場にきているとは想像もしなかったので、私は挨拶とともに施設課の隊員であることを申告しました。
すると総監は、「施設課も台風シーズンはご苦労だとは思うがしっかり対応を頼むよ。慰霊碑が気になって朝早く目が覚めて様子を見に来たんだ。幸い慰霊碑に被害はなかったが、やはり工事の途中ということもあって崩落していたね。人的被害はないし、大したものではないが小さいところから大きな事故が起きるということを認識しておいてくれ。君も朝早くから崖を見に来たのだろう?施設課がそのような姿勢で臨んでくれているのなら安心だ。あとはよろしく頼むよ」といい、庁舎に入っていかれました。
さすがに「私の担当工事ではありませんので…」とは言えず、「はい」と大きく返事をして終わってしまいましたが、自分の考え方に対する甘さを認識するとともに、総監の細かいところに気配りされる姿勢に感動したところもありました。
私はその足で担当している岸壁の状況を確認し、異常がないことを当直室に報告するとともに、崖崩落については業者に対応させるよう調整する旨を伝え、事務所に入りました。
この時、施設課が持っていた工事で出た被害は、幸い崖の崩落だけで済みました。総監に言われる前に台風対策を取るのは当然ですが、総監からの指示があったからこそ、余計に施設課として念をいれたことが功を奏したと思います。
組織のリーダーの在り方
崖崩落現場に総監が来たことを知った施工業者の役員は、わざわざ施設課まで顔を出し、お詫びにきていました。
詫びの内容としては、「工事を請け負っている間はうちが責任をもって現場の巡回をしなければならないのに、一番最初に総監に巡回させてしまって大変申し訳ない」とのことでした。
基本的には現場代理人等の責任感の問題もありますが、海上自衛隊は常に自然の中で活動していることを考えると、総監の行動は海上自衛隊としては至極普通であると思います。リーダーが積極的に動く組織は、不測の事態にも対応できるのではないかと思います。
皆さんの組織のリーダーはどうですか?これから台風シーズン真っただ中に入ります。すでに九州地方では多くの被害を受けられている方々もいると認識しています。
復旧作業に従事する職人さん、台風対策をする職人さんも、ご安全に!!