鋼橋メンテの魅力、土木技術者に必要なスキルとは
鋼橋の点検調査などを手掛ける日本エンジニアリング株式会社(本社:横浜市、以下NEK)には、鋼橋専門メーカーでキャリアを積んだ鋼橋に関するノウハウを持つベテランが複数名在籍している。
墨正則さんもそのうちの1人だ。メーカーからコンサルへの転職だったが、設計と言ってもNEKの仕事が「現場ありき」なのが功を奏し、仕事にはすんなり溶け込むことができたようだ。
鋼橋メンテナンスの魅力とはなにか。そのために必要なスキルとはなんなのか。墨さんのキャリアと合わせ、話を聞いてみた。
橋梁業界の再編をきっかけにNEKに転職
――なぜ土木の世界に?
墨さん 大学は土木工学科でした。もともとは建築志望だったのですが、デザイン的な能力がなかったので、土木に流れた感じです(笑)。「地図に残る仕事がしたい」ということで、橋梁関係の研究室に入りました。
――就活はどんな感じでしたか。
墨さん 最初は、ある鋼橋専門のメーカーに入社しました。この会社では、橋梁制作の現場代理人を5年、工場の品質管理を4年やりました。
――NEKに転職した理由はどういうものでしたか?
墨さん 当時所属していた会社も巻き込まれた橋梁に関するある事件があって、業界再編の動きが生じました。それに伴い会社も傾き始めたこともあって、転職することにしたわけです。NEKは、土木系の転職サイトで求人を見つけ、応募しました。NEKに入社したのは2007年です。
普通のコンサルの仕事をあまり知らない(笑)
――NEKに入社してからどのようなお仕事を?
墨さん 日本エンジに入社して、いきなり2年間橋梁の点検を行っている会社へ出向しました。主な業務は首都高のメンテナンスを行う会社です。点検管理を担当し、メンテナンスのノウハウを学びました。
NEKに戻ってからは、首都高関係の補修補強、耐震補強などの設計を3年ほどやりました。その後もメンテナンス関係の仕事をやってきました。施工に近いところでの設計業務という感じでした。
――施工と一体となった設計業務という感じですか。
墨さん そうですね。設計と言っても、完全に施工が絡んでくるようなカタチでの仕事だったので、現場にはちょくちょく足を運んでいました。逆に言えば、普通のコンサルの仕事をあまり知りません(笑)。
――今はどういうお仕事を?
墨さん 今は中間管理職的な仕事が中心ですが、塗料に含まれるPCBなどの有害物質を除去する調査分析業務なども担当しています。私の職場は、上も下も我が強い人間が多く、意見がぶつかることも多いのですが、ケンカにはならないのです。誰もが「良いモノをつくろう」という思いを持って仕事に打ち込んでいるからです。
連絡ミスで、数百万円の損害
――これまでで印象に残る仕事は?
墨さん 2年ほど前に担当した首都高の支承取替の仕事です。箱桁から鈑桁にするリニューアルする工事だったのですが、非常に狭い場所で、当初はできないと言われていました。それを施工会社さんと一緒になって施工ステップなどを考え、いろいろ工夫しながら設計したところ、なんとか工事を完了させることができました。
私は、この工事の調査設計から制作、管理まで担当したのですが、難しい工事をやりおおせる仕事は、面白かったですね。工事が終わったときには、われながら「よくできたな」と思いました。
――失敗したことは?
墨さん 前の会社の話になりますが、入社3年目のころに、ある可動橋の橋脚の工場製作を担当したことがありました。設計変更の多い工事で、現場からの変更連絡の窓口をやっていたのですが、連絡ミスをしてしまって、架設完了したところ、私がつくった橋脚の高さが合わないという事態が発生しました。
現場は終わっていたのだけど、それを修正しなければいけなくなりました。結果的に会社に数百万円単位の損害を出してしまいました。「やってしまった」と思いました。
連絡事項が一つでも漏れてしまうと、モノにならないということを身を以て学びました。当時の直属の上司には、当然怒られましたが、事を収めるために手を尽くしてもらい、励ましてももらいました。この上司の方がいたからこそ、自分自身立ち直れたと思っています。
かゆいところに手が届く存在に
――お客さんとの関係づくりで心がけていることはありますか。
墨さん われわれが持っているノウハウを、お客さんに利用してもらうというスタンスを心がけています。お客さんが要求していることをしっかりキャッチして、われわれが持つノウハウを最大限活かしてお応えするということです。
そうすることによってこそ、信頼関係が結ばれると考えています。お客さんにとって、「かゆいところに手が届く」ような存在であり続けたいと思っています。
――土木技術者に求められる能力、スキルはなんだとお考えですか。
墨さん お客さんの要求事項をしっかりキャッチできる能力だと考えています。知識は必要ですが、持っていて当たり前なのです。それを取りこぼすと、出力が変な方向に行ってしまうからです。
「お客さんがなにを求めているのか、なにをしたいのか」をしっかり受け止めることさえできれば、あとは自分たちの実力を出せば良いだけなので。
ウチの社員でも、お客さんの要求事項をなかなか受け止められない者はいます。受け止められないままでは、一生懸命つくった提案資料を出しても、「なんか違うよね」と反応されるのがオチです。結果的に「ムダな努力」になってしまうのです。