ハイコーキが「電動工具をコードレス化」する本当の狙い

本記事は『となりのカインズさん』とのパートナーシップにもとづく転載記事であり、『となりのカインズさん』の許諾を得て掲載しています。

日本生まれ、プロ職人に鍛えられて72年目の老舗メーカー

「HiKOKI(ハイコーキ)」という電動工具ブランドはご存じだろう。老舗メーカーであった「日立工機」が、社名を「工機ホールディングス」に変更したことをきっかけに誕生した、電動工具の新ブランドである。

そのハイコーキから2017年に発売されたコードレス電動工具の新製品が「マルチボルトシリーズ」だ。それは建築現場の作業効率や安全性を高め、言うならばコードレス電動工具の常識をも変えた。

そんな同シリーズの核となる「マルチボルト蓄電池」とは、いったいどのようなものなのか? 驚きの技術が満載だという技術の秘密と、ハイコーキブランドが目指す未来について、工機ホールディングス株式会社 日本事業統括本部 HC推進部長である、押井 奨さんに伺った。

新会社だからできる、自由でスピーディーな製品開発

まずはハイコーキが誕生した経緯と、前身であるHITACHI/Hitachi Kokiとは何が変わったのか、話を聞いてみる。

工機ホールディングス株式会社 日本事業統括本部 HC推進部長 押井奨さん

「工機ホールディングスは、世界有数の投資ファンド・KKRという強力なパートナーを得て、2017年に日立から自主独立する形でスタートした新しい会社です。ブランド名もHITACHI/Hitachi Kokiからハイコーキへと一新しました。

プロの職人さん向けの電動工具を軸足にしている点は変わっていませんが、そこで築き上げた技術をDIY向けのアイテムにも生かし、プロユース/ホビーユース双方を大事にしていくというのが今のハイコーキの姿勢です」

創業以来70年の歴史がある日立工機時代に培ってきた技術やDNAはしっかり引き継いでいるという工機ホールディングス。新しい会社となり、今は「日本発のグローバルな電動工具メーカーへの成長」が目標だと押井さんは語る。

だが、ブランドが変わったことで、ユーザーの反応は心配だった。

「全く新しいブランド名なので、認知度や知名度をいかにして上げていくかが大きな課題でした。とはいえ職人の方は、ロゴではなく物自体を見て良し悪しを判断します。どうなるかと心配しましたが、それは杞憂でしたね」

多くの職人は実際に製品を手に取り、それがHITACHIやHitachi Kokiを引き継ぐブランドだと理解して受け入れてくれた。ただし、全ての職人がそうではなかったし、一般の方への認知はより難しかった。

認知拡大のため、カインズのようなホームセンターの店頭にトップボードを置くなどして、積極的にブランド名の変更をアピールし認知度を上げる努力をしてきた。

また、新会社となったことで組織的にも大きな変化があったと押井さんは語る。

「以前は日立という大きな冠があったためか、自由な発想による製品開発が正直難しいこともありましたが、独立したことで社内での意思決定も早くなりました。

加えて、弊社には今まで培ってきた高い技術があり、優秀なエンジニアもいます。そんな新たな環境で生まれたのが弊社のコードレス電動工具、マルチボルトシリーズなんです」

コードレス電動工具のメリットとデメリット

今プロの建築現場では、コードレス電動工具の使用率が上がっていると押井さんは言う。

「例えば新築の住宅の現場では、大工さん以外にも電気設備屋さんや水道設備屋さん、外溝屋さんなどが同時に作業を行います。電源のない現場では発電機も使用されますが、その数は十分ではなくどうしても電源の取り合いになってしまう。それでは仕事が進みませんよね。

さらに、日本では職人さんの高齢化が進み、人数自体も減少傾向にあります。そうした状況の中で、より生産性を高められるコードレス電動工具が重宝されるようになったのです」

ハイコーキの代表製品「コードレスインパクトドライバ」は、前身であるHITACHI/Hitachi Kokiが元祖。マルチボルトシリーズではパワーの向上だけでなく、トリガースイッチのタッチ感やグリップ・本体のモーター内蔵部分のサイズ、さらに手にした時の重量バランスなどが最適化されており、こういった目に見えない部分の品質の高さがプロの職人から高く評価されている

また、工場内では床にたくさんのコードがあり、引っかかったりする危険も解消できるなど、コードレスゆえ生まれた付加価値も少なくない。ただ、そんなコードレス電動工具にも欠点があった。

「弊社でも40年前からコードレス電動工具自体の開発を進めていたものの、ACの100Vに比べるとコードレスの18Vでは出力が物足りない、長い時間使用できないという弱点も指摘されていました。『取り回しや使い勝手には優れているけど、やはりパワーやスピード、トルクはAC工具に敵わない』というのが、長年のコードレス電動工具への共通認識だったんです。

だったら長年研究を重ねノウハウもある我々が、いち早くハイパワーのコードレス電動工具を製品化することで、それを解決しようじゃないかと考えました。そこで従来の18Vから倍の36Vへと、更なるバッテリーの高電圧化を目指したのです」

新型バッテリーでは短時間に大電流を流せる高品質なセルを使用し、18Vのユニットを内部で並列(18V×2ユニット=36V)に配置。なおかつ制御回路なども新たに自社で開発することで36V化を実現する。

確かに36Vは効果的で、100Vと同等以上の高出力を発揮できたという。しかし、一方で別の課題が生まれた。

「従来の工具とのバッテリーの互換性です。職人さんにとっては、さまざまな工具を同じバッテリーで使用できることが、非常に大事な要素です。18Vの製品を愛用されている方に、互換性のない36Vのコードレス電動工具をアピールしても、簡単には受け入れられません。工具だけでなく、バッテリーや充電器も新しく買い直さないといけませんから」


ついに完成、ハイパワー&互換性に優れた「マルチボルト蓄電池」

そこで開発チームは発想を変えた。

「開発する36Vバッテリーのサイズを18Vと同じサイズにすることで、従来の18Vのコードレス電動工具にも使い回せるものにしようと。加えて充電器にも互換性を持たせれば、経済的なメリットも大きい。そんな製品を開発しました」

そして改良を繰り返しついに完成したのが、新しいリチウムイオン電池「マルチボルト蓄電池」だ。18Vのコードレス製品との互換性はもちろんのこと、軽量かつコンパクトでありながら、AC100V並みかそれ以上のパワーを出せる。さらにバッテリーの充電時間も約25分と早い。

加えてバッテリー寿命も長く、保証期間は購入から2年間もしくは1,500回の充放電までと、プロの職人がスムーズに移行できるようなスペックを備えている。確かにこれは魅力的だろう。

マルチボルト蓄電池は、従来の18Vバッテリーと同等の大きさながら、パワーは36Vの高電圧化を実現。さらに18Vの工具に装着すれば、切り替え操作なしに18Vバッテリーとしてそのまま使用可能だ

そしてその狙いは当たった。多くのプロの職人にマルチボルトシリーズが受け入れられたのだ。現在ハイコーキでは他にもさまざま電圧の電動工具をラインナップしているが、ユーザーのニーズは確実にマルチボルトへ移行しているという。

開発には苦労はあったが、結果従来のユーザーを切り捨てることなく、新たなファンも獲得できる素晴らしい製品ができたと、押井さんは振り返る。

マルチボルトシリーズは114種類ものコードレス電動工具をラインナップ。上述のように18Vの電動工具にもマルチボルト蓄電池は使用できるので、ほとんどの作業をカバーできる工具がそろっている

電動工具は18V→36Vになると何が変わる?

36V化によってパワーが格段に上がることは先述の通りだが、それ以上に電圧が上がることによる最大のメリットは、モーターに流れる電流が減ることで(同じ消費電力のモーターなら電流は半分で済む)、熱損失(発熱)も減って効率が上がることにある。

そのため連続稼働時間を増やせ、電池容量が減っても18V製品よりパワーダウンしづらいということだ。つまり、十分なパワーをキープしたまま途切れることなく作業が続けられ、結果的に作業全体の効率化を図ることができるわけである。

「コードレス卓上スライド丸のこ」。このような大型の電動工具もハイパワーのマルチボルト蓄電池なら、余裕で駆動することができる。最大切断寸法は46mm×245mm切断可能でハイパワーかつ軽量10.5kgを実現。またレーザーマーカー内蔵で、誰でも正確なカットが可能だ

では駆動時間に関してはどうだろう。倍になるのだろうか?

「倍にはなりません。マルチボルトの標準的なバッテリーは、36Vで2.5Ah※です。これを18Vの工具に取り付けると単純に18Vの5.0Ahになります。だいたい既存の18V専用バッテリーと同じくらいの駆動時間となると考えていただければ、と思います」

ハイコーキでは標準的なバッテリーに加え、重くはなるが36Vで4.0Ah、18Vで8.0Ahの高出力・高容量タイプのバッテリーも用意されているから、駆動時間を伸ばすならそちらを使えばいいわけだ。

こちらは18Vタイプの「コードレスクリーナー」。もちろんバッテリーはマルチボルト蓄電池と18Vスライド式リチウムイオン電池、どちらでも使用できる


パワーだけじゃない、安全対策も本気です

コードレス電動工具に使われるリチウムイオン電池は扱いが難しく、強い衝撃や高い負荷をかけ続けると発火する危険もある。だが、ハイコーキではバッテリーに関しても徹底した安全対策が施されているのが特長だ。

「バッテリーのセル一つ一つにセンサーがついているので、一つのセルがだめになってもすぐに異常を感知できます。また保護回路をバッテリー、充電器、さらに工具側にも搭載し、多角的にバッテリーをチェックして万が一の事故につながらないよう細心の配慮を払っています」

こういった安全性を重視する真摯な姿勢は、前身である日立工機からの伝統であり、ブランド誕生から3年にしてハイコーキが多くのプロから高い評価を受けている理由なのかもしれない。しかし、まだまだ課題はあるという。

「昨今リフォームやリノベーションなどのニーズが増しています。現場の人手不足を賄うためにも作業の効率化が必要で、我々は電動工具メーカーとして現場の職人さんをどのようにサポートできるのか、日々考えています」

マルチボルトシリーズはいわばその一つの答えなのだ。だが、全てのコードレス電動工具をマルチボルト化できているわけではない。

押井さんは、さらなる小型化や軽量化など、より使いやすい工具のためにまだまだ自分たちにはできることがあるのだ、と課題に対して真摯に取り組む姿勢を覗かせる。

蓄電池なのにBluetooth内蔵?

最後に、押井さんにこれからのハイコーキについて伺った。

「今は、『どんどん新しいことにチャレンジしていこう』という社内のポジティブな雰囲気を感じます。Bluetooth内蔵のバッテリーなども、制約があった頃なら商品化は難しかったでしょう。これからもこういったユニークでチャレンジングな製品を、積極的に開発していきたいですね。期待していてください」

Bluetooth搭載のマルチボルトバッテリー。丸のこやディスクグラインダなどの工具に装着し、集じん機とペアリングすることで、工具側の電源のON/OFFに合わせ自動的に集じん機側のON/OFFができる。現場の利便性を高めてくれるユニークなバッテリーだ

次世代コードレス電動工具「マルチボルトシリーズ」によって、注目度の上がっているハイコーキだが、注目されているにはそれだけの理由があることが理解できた。

前身の会社から培ってきた優れた技術力と、新たな体制となったことによる自由な発想で、次はどんな製品を生み出してくれるのか、ハイコーキの今後にぜひ注目してみてほしい。

現在、ハイコーキは「HIKOKI×CAINZ ポイントバックキャンペーン」を実施中だ。

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