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「大丈夫だと言い切れる土地はない」”液状化のリスク”を専門家に尋ねる

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大石 恭正 大石 恭正
公開日:2021.07.27 / 最終更新日:2022.08.16
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村上哲・福岡大学工学部社会デザイン工学科教授

村上哲・福岡大学工学部社会デザイン工学科教授

目次
  1. 液状化の原因や対策、課題を聞いてきた
  2. 東北、茨城、熊本の液状化被害を現地調査
  3. 「表層付近での液状化」をどう防ぐかがカギ
  4. 液状化対策は公的資金で行うべき
  5. 「絶対液状化しない」と言い切れる土地はない
  6. 液状化対策は国家的なプロジェクト
  7. VRを活用し、災害を疑似体験できるように
  8. 地元福岡市役所が一番人気

液状化の原因や対策、課題を聞いてきた

液状化は、全国すべての都市が潜在的に抱えるリスクだ。2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、関東地方を中心に、広範囲で液状化が発生。ライフライン寸断、住宅倒壊などの大規模な液状化被害をもたらした。

2016年の熊本地震でも、熊本平野を中心に熊本県内11市町村で多数の液状化が確認され、インフラ、住宅などに深刻なダメージを残した。実際に被災した都市に限らず、全国の安心安全なまちづくりを進めていくうえで、液状化対策は避けて通れない課題になっている。

なぜ液状化が起きるのか。液状化対策とはどのようなものか。対策を進めるうえでの課題は何か――などについて、液状化の専門家である村上哲・福岡大学社会デザイン工学科教授に聞いてきた。

東北、茨城、熊本の液状化被害を現地調査

治水地形分類図更新画像データ

治水地形分類図更新画像データ

――専門は液状化だそうですが。

村上さん 私の専門は地盤工学で、地滑り、土砂災害、液状化などといった土を対象にした学問です。盛土などに関する技術、柔らかい地盤を固くする技術なども含まれますが、私の場合は、土に起因する災害にどう備えるかというところを中心に研究しています。

九州大学の大学院を出てから、茨城大学で21年間勤務しました。ちょうど熊本地震が発生した2016年4月に、福岡大学に教授として来ました。福岡大学に来てからは、熊本地震、九州北部豪雨、令和2年7月豪雨の災害調査などに携わってきました。熊本地震では、阿蘇の斜面崩壊をはじめ、さまざまな被害が発生しましたが、その中でも、熊本市内周辺の液状化、宅地擁壁の倒壊、阿蘇の陥没などに関わってきました。

とくに液状化については、茨城大学にいたころから災害調査を行っていました。東北地方太平洋沖地震では、茨城県内で液状化の被害が観測されていたからです。鹿島市、神栖市、ひたちなか市、東海村といった地域に現地調査に入り、自治体の液状化対策にも関わったことがありました。その経験があったことから、熊本地震の際には主に液状化の調査を行いました。現在も、熊本市の液状化技術検討対策員会のメンバーとして関わっています。

「表層付近での液状化」をどう防ぐかがカギ

――液状化と聞くと、埋立地を連想します。

村上さん 東北地方太平洋沖地震では、沿岸部の埋立地で液状化が多発しましたが、熊本地震は必ずしもそういうわけではありませんでした。埋立地が液状化が起こりやすい地盤であることは間違いないのですが、埋立地だから必ず液状化するわけではありません。液状化する条件としては、液状化しやすい土がゆるく堆積していること、地下水位が高いことが挙げられます。埋立地ではない自然の地盤であっても、条件が揃うと液状化してしまいます。

熊本市周辺は、地下水が豊富で、浅井戸を掘って地下水を利用するには良い環境ですが、液状化しやすい条件の1つ地下水位が高い場所でもあります。熊本市周辺は昔からそういう特徴ある土地でしたが、地震によって、特定の場所で液状化が発生し、それが明らかになったというわけです。

熊本地震発災後、われわれは現地入りし、液状化の痕跡を求めて現地調査を行いました。国土地理院の航空写真をもとに、液状化した箇所をプロットしました。この調査結果を見ると、広く面的に液状化が起こったと言うよりは、部分的、局所的に起こったと言えます。昔、川が流れていたと思われるような箇所もあります。

――熊本市の液状化調査から得られた知見はどのようなものでしょうか?

村上さん 委員会でよく話が出るのは、「表層付近での液状化の危険性」というものがカギになるということです。熊本市の場合でも、地下水位を地下3m程度まで低下させれば、液状化の被害が小さくなるという調査結果が出ています。逆に言えば、熊本地震で多くの住宅被害が出た原因は、地下3mぐらいまでの液状化層によるものだったということがデータ的にも明らかになっています。大きな重い構造物と違って、比較的軽い宅地の場合は、3m〜5mほどの表層の地盤を改良することで対策できる、というのが現在の知見です。

そういう意味では、宅地液状化対策事業で実施されている地下水低下工法は、液状化しない地層を人工的につくる工法として、非常に効果があると思っています。ただ、場所によっては地下水を下げることができない場合もあります。

産業副産物である高炉スラグ微粉末を用いた液状化対策固化処理土の開発に関する研究

産業副産物である高炉スラグ微粉末を用いた液状化対策固化処理土の開発に関する研究

私の研究室では、新たな工法として、産業副産物である高炉スラグ微粉末を表層の砂に混ぜて固めることで、液状化を防ぐ技術研究を進めています。いくつか課題があるのですが、安く確実に液状化を防げる技術として、早く実用化したいと思っているところです。

研究室では高度なハザードマップの作成技術の開発も行っていますが,ハザードマップで危険な地域を示すだけでなく,液状化しないように必要な対策を考えることができることは地盤工学の醍醐味だと考えています。

液状化対策は公的資金で行うべき

平地における液状化による家屋の被災パターン

平地における液状化による家屋の被災パターン

――個人住宅の場合は、所有者自ら液状化対策を行う必要があるわけですよね。

村上さん そうです。ただ、住宅の液状化対策を個人で行うとなると、300万円ほど費用がかかってしまいます。土地の価格が安い地域の場合は、液状化対策をするよりも、安全な土地に引っ越すほうがベターだという話になってしまいます。また、それだけのお金をかけて、液状化対策したとしても、その土地の資産価値がその分上がるわけでもありません。液状化リスクの高い土地が敬遠され,次第にまちが空洞化することが懸念されます。まちづくりを考えるうえで、局所的であっても、そういう場所が存在して良いのかという疑問が残ります。

私としては、まちの将来を考えれば、公的資金を投入して、液状化対策を行うことが大事なのではないかと考えています。民地に税金を投入することに対して、多くの理解を得るのは難しいと思いますが、国民の安心、安全を守るために税金を入れることは、必要な政策だと考えています。個人の資産を守るというより、まちの姿や未来を守るという観点から、大事なことだと考えています。

液状化対策事業を実施している地域は、今のところ地震などで被災した地域に限られていますが、今後は、液状化のリスクが高い地域で、住宅が密集している地域については、実際に被害が出る前に、地下水低下工法を初め、何らかの対策を講じる必要があると考えています。

ただ、対策を講じたとしても、「絶対大丈夫」ではありません。建物だけでなく、宅地にも保険をかけれるような仕組みづくりが必要になってきます。保険があれば、個人でも安心して液状化対策を実施しやすくなると思います。

また、地下水低下工法で液状化対策を講じたとしても、その効果が未来永劫続くわけではありません。効果が続くとしても、せいぜい30〜50年程度でしょう。液状化対策は、一定期間猶予を持たせるものと考えたほうが良いと思います。住宅を建て替えるタイミングで、個別の液状化対策を行うのが望ましいでしょう。

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