“海の工兵” 機動施設隊とは?
以前、海上自衛隊の施設職域についてご紹介した際に、唯一の工事専門部隊である「機動施設隊」について簡単にご説明させていただきました。
実は、私も機動施設隊に約2年半ほど勤務したことがあり、非常に愛着のある楽しい職場でした。今回は「機動施設隊」についてお話したいと思います。
機動施設隊は、海上自衛隊の航空集団の隷下部隊です。よって任務は「海上自衛隊航空部隊の運用等に必要な施設の維持、修理、被害の復旧、その他整備に関する業務を機動的に行うこと」を任務としています。
出典元:防衛省HP(平成28年熊本地震災害派遣活動)
これは海上自衛隊の訓令で定められている表現ですので非常に堅苦しい文章ですが、簡単に言うと全国にある海上自衛隊基地の施設の整備(維持、修理、被害復旧)にいきます、ということです。また、訓令上、「航空部隊の・・・」と記載されていますが、実際は艦艇基地の施設の整備にも行っているのが現状です。
ちなみに、部隊は青森県八戸市にある八戸航空基地に所在しています。全国に展開するわりにずいぶん北にあるとお思いの方もおられると思いますが、私が聞いたかぎりでは冷戦時代の旧ソビエト連邦軍等の行動に対処のため八戸市に配置されたとのことです。
機動施設隊の部隊編成
機動施設隊司令というボスの下に隊本部(いわゆる司令部的なイメージ)と第1から第4施設隊の4個施設隊がぶら下がっています。実際に全国に展開して工事を行うのが第1~第4施設隊です。
1個施設隊に隊長以下約20名の隊員が配置されています。各施設隊には建設機械等が割り当てられており、担当する工事によって各隊で建設機械を融通して使用しています。
保有している建設機械や車両としては、ブルドーザー、油圧ショベル、ホイールローダ、グレーダー、セミトレーラーやダンプ等…様々な種類のものを持っています。
ちなみに機動施設隊のロゴにはブルドーザーを使用しています。その意味としては、私の記憶では「道なき道を切り開く」みたいな意味があったと思います。
機動施設隊が新編された理由
機動施設隊は実は2001年に新編された部隊です。以前は航空施設隊という名称でした。新編された理由は当時の防衛白書に記載されていますのでご紹介します。今までの内容と重複するところがあるところはお許しください。
「☆機動施設隊(海上自衛隊)☆
島嶼(とうしょ)災害などにも機動的に対応できるようにするため、青森県の八戸(はちのへ)基地に所在する航空施設隊が廃止され、本年、機動施設隊が新編されました。
機動施設隊は、隊本部と4個の施設隊、約110名の隊員で構成され、主要装備として、タイヤショベル、油圧ショベル、ブルドーザー、グレーダーやダンプローダーなどの工事用車両を保有しています。冬期においては、海上自衛隊の航空部隊でも特に雪の多い八戸、青森県の大湊(おおみなと)、京都府の舞鶴(まいづる)の3つの航空基地に展開し、主として滑走路や駐機場などの飛行場地区の除雪作業に従事し、冬期以外は、通常、八戸基地を拠点として各基地の施設整備作業に従事します。このように、機動施設隊は、基地機能を常時100%発揮できるように、除雪作業や施設整備作業を行います。これにより、航空機の安全運航の確保と航空部隊の即応態勢を維持するこ
とができるのです。また、機動施設隊は、海上自衛隊の輸送艦と航空機などを利用して災害救援活動に従事します。特に島嶼や陸上交通路を絶たれた沿岸地域において大きな災害などが発生した場合、災害救援のための施設用器材の搬入は海路によらざるを得ません。そこで海上自衛隊の輸送艦を利用することにより、港湾施設が機能しなくても、ビーチング(人員・車両を陸揚げするため砂浜に乗り上げること)可能な海岸さえあれば施設用器材の陸揚げができます。このように、輸送艦と組み合わせて運用することにより、島嶼などに迅速に進出して災害救援を効果的に行えるようになります。(「防衛白書(2001年度)より」)
さすがは防衛白書、分かりやすく書いてくれています。
機動施設隊として新編された理由の大きなものは、1995年の阪神・淡路大震災でした。当時、海上自衛隊として地震災害等が発生した際に建設重機等を防衛白書使用して災害派遣に従事するという運用を想定していなかったそうです。そこで、海上自衛隊で工事を専門としていた航空施設隊に災害派遣の任務を付与し、部隊規模を拡大しました。
その最初の成果として、平成18年台風12号による南鳥島における地上施設の被害における災害派遣活動へと繫がりました。
今回は海の工兵「機動施設隊」についてご紹介しました。私の機動施設隊での勤務経験も、今後書かせていただこうと考えますので期待しないで待っていてください。