環境アセス対象の大型工事で珍騒動
これは私が会社に入って22歳の時に起きた実話です。笑い話でもあり、また、ある意味で教訓にもなる話だと思います。
当時、私は山岳地での工事に従事していました。その工事は、某国定公園内を工事ルートに含むため、環境アセスメントの審査対象となっていました。そして、環境アセスメントにおける事前調査や、工事ルート選定等の審議に多くの時間を要したことから、本工事は着工から竣工まで1年という短期決戦となりました。
工事内容は、30基を超える架空送電鉄塔設備の土木工事から、鉄塔組み立て・電線引き込み・鉄塔設置箇所の原形復旧までを行う、大型架空送電鉄塔の新設工事でした。
工期厳守のため、土木工事の休工日は、第一・第三日曜日の月2回だけで、平日に雨が降れば、その休みもなしという条件。全3工区の土木工事を同時着工しなければならない厳しい工事でした。
山荘を貸し切って作業員宿舎に
最初から全ての地点に土木作業員を張り付けて、工事を開始しましたが、山岳地における工事であるため、通勤時間がかかり、作業員たちの負担が大きい現場でした。
そこで、作業員たちの負担を軽減すること(請負会社が作業員の通勤時間を短縮すること)と、地元住民への配慮などから、現場に近い地元の山荘を長期間、貸し切って宿泊させてもらうことになりました。
そして事件は会議室ではなく、この山荘で起きたのです。
タヌキを餌付けする作業員たち
山荘の周辺には、タヌキがよく出没し、地方出身の作業員の人達は、そのタヌキを捕まえ、餌付けをしていました。その頃はスマートフォンもなく、特別な娯楽もありませんから、山から下りられない日頃の疲れをペットで癒しているのだろうと思っていました。
が、しかし、作業員たちは、その餌付けしていたタヌキで、タヌキ汁を作り、おいしく堪能してしまったのです。そして、タヌキがタヌキ汁になってしまった話は、流れ流れて地元の警察署に持ち込まれることになりました。
工事関係者全員が警察で事情聴取
地方出身の作業員の人達からすれば、タヌキ汁を堪能することは、特別なことではなく、田舎でもやっていることなので、軽く注意されるだけで済むと思っていたのかも知れません。
しかし、山荘のオーナー自身が、環境問題に関わる方で、かつ、環境アセスメントにも深く関わりを持っていた方だったことから、タヌキ汁の一件はどんどん話が大きくなり、結局、タヌキ汁を堪能した工事関係者全員が、警察署で事情聴取を受けるハメになりました。そのときばかりは、大の大人たちも涙を浮かべて、事の重大さを知ることになりました。
一時は、工事中止という話まで持ち上がりましたが、結果として「今後、動物は当然のこと、山菜類も一切採ること相成らぬ」ということで落ち着きました。そして、私たちは全員「環境推進者」として、腕章を着けて工事管理と併せて環境パトロールも実施することになりました。
郷に入っては郷に従え
もしも、タヌキ汁のせいで、この工事が中断することになったら、当時の現場責任者は、上層部に対してどの様に説明するか、かなり悩まれたと思います。今だから笑って済まされますが、至上命令で竣工させなければならない数百億円の工事が、まさかタヌキ汁で頓挫することなど誰も考えつかないことです。
そのような状況の中でも、全作業員の方々、元請会社の方々、発注者側関係者の一致協力のもと、工事は無事に竣工することが出来ました。当時の関係者は、この事件のことを、「ポンポコ騒動」とか、「ポンポコ事件」とか呼んでいました。
昔から、人を化かすというタヌキ。たかが、タヌキと笑うことなかれです。「郷に入っては郷に従え」・・・国内ゼネコンの海外進出も進む昨今、建設技術者はこの言葉を、いまいちど心に刻むべきかもしれません。
・・・最後に、日本の経済成長を支えてくれたのは、名もない多くの作業員たちです。この方々の力なくしては、日本の経済成長は成し得なかったことを申し添えておきます。