「全国サイディング組合連合会」設立の背景
新築やリノベーションで、住宅の外装材として活躍する窯業系サイディング。約50年前に誕生して以降、改良も加わり、現在日本国内の木造住宅のシェア80%を占める外装材へと成長した。
しかし、急成長したがゆえに、施工品質にバラツキが生じるなど課題も生まれた。そこで2019年5月に、窯業系サイディング施工会社や施工士が一堂に集まる「全国サイディング組合連合会」が設立。その後国土交通省の認可を受け10月1日に「全国サイディング事業協同組合連合会」として設立登記した。会長には、ガイズカンパニー株式会社代表取締役の仲本 純氏が就任した。
「職人の処遇改善、施工品質の統一化など、サイディング業界の課題は多い。だが、これは一つずつ確実に解決していかなければならない」と語る、仲本会長にサイディング業界の課題と未来について語ってもらった。
木造住宅のシェア80%を占めるサイディング
総会であいさつをする「全国サイディング組合連合会」の仲本 純会長
――「全国サイディング組合連合会」を設立した背景は。
仲本 純さん 窯業系サイディングは、約50年前から国内生産が始まり、今や木造住宅のシェア約80%を占める外装材です。にもかかわらず、長らく施工部門をまとめる全国的な業界団体がありませんでした。これは大問題です。全国組織がなかったがゆえに、施工品質も統一化されておりませんでした。
窯業系サイディングのメーカー団体である(一社)日本窯業外装材協会(NYG)では、「サイディング施工士」を創設していますが、その価値についてはなかなか成果が表れていません。しかも、この低コスト時代の中で、品質にもバラツキがあります。
そこで、2019年5月に「全国サイディング組合連合会」も組織化したわけです。今、NYGと話し合いを進めてる中で、資格制度を将来的には国家資格に格上げし、消費者保護の観点から見ても、有資格者によるサイディング施工により、品質を守るべきだと考えています。
サイディング職人の賃金は25年間上がっていない
――「サイディング職人の権利を守るべき」というのが仲本会長の持論ですが。
仲本 純さん 建設業界で職人不足がなぜ起こっているかと言えば、職人が圧迫されている状態が長く続いているからです。私がサイディング業界に入職した時と今では、職人の手間賃が下がっているんです。
これは自分の後継者を育成できる余裕がないことを意味しています。今は、職人の請負は経費込みの50万円ほどの仕事ですが、若い人が稼ごうと思って入職する業界ではありません。50万円と言うと大きな金額に見えますが、経費は10万円ほど見たほうがいい。すると、経費込みで50万円の仕事なら、生活費ですべて消えて貯金する余裕はほとんどなくなります。
つまり、今の職人不足は請負単価が低すぎるのが一番の問題です。今、我々のような専門工事業者の倒産や廃業が相次いでいるので、職人を支える余裕もありません。職人の社員化を進めようとしても、元請けから法定福利費がもらえないことも課題です。公共工事では設計労務単価が大幅にアップされましたが、民間工事には波及していません。特に、我々のような戸建て住宅工事をメインにしている業界には、まったく行政のメスが入っていないんです。
バブル崩壊以降、デフレになり、消費者に安く住宅を提供するトレンドが続き、我々も職人も仕方なくそれに付いてきた状態です。職人の高齢化は20年前から予測できたことでもあり、何の対策が取られていません。根本的な話をすれば、今は住宅自体が安すぎる印象です。デフレ下で予算は削られていく一方で、高品質な仕上がりを要求されている。職人はこの二重苦で悩んでいます。
――職人の賃金が上がらないことは問題ですね。
仲本 純さん 私は25歳で独立しましたが、それ以降、値上げを経験していません。たとえば、戦後復興や高度成長時代は、建設業界全体が盛り上がって職人の給料も上がっていったのですが、今、サイディング業界が値上げをしますといえば、仕事がなくなるだけです。
でも、仕入れの材料費は上がっているんですよ。職人が不足しているのだから、職人の賃金や請負単価は上がるべきです。職人の賃金が上がらないメカニズムが理解できません。
私は最終的には消費者に負担してもらうしかないと思っています。職人は消費者でもあるという観点をもっと照らしてほしいんです。消費者が豊かにならない限り、家を購入することも難しくなるんです。
サイディング施工会社の大廃業時代、用途拡大で生き残りへ
――見切りをつけて廃業、倒産の道を選ぶ業者も多い?
仲本 純さん 先月も、私の仲間の会社が辞めました。今、職人の年齢層はおおよそ50~60代が多い。職人や経営者の高齢化とともに、会社を畳む選択する人も多いですし、特にこのコロナショックでより事業継続が難しくなっている。サイディング業界の休廃業、解散・倒産はこれからも増えるでしょう。
私は、「このままの状態を後の世代に引き継がせてよいのか」と強く思っています。多くの若者が入職せず、不足した分は技能実習生に頼っている。現状のままで未来はあるのかと、深い懸念を抱いています。
少なくとも、サイディング業界はこれからも繁栄すべきであり、そのためには何らかのアクションは必要です。自分に白羽の矢が立ったのであれば、その責任を担いたいと、会長を引き受けたわけです。
――サイディング業界の最近の動向は?
仲本 純さん 窯業系サイディングは木造住宅向けの製品ですが、少子高齢化による市場縮小が到来しているため、サイディングの用途拡大を考えています。中小建築や商業施設への採用が進めば、サイディングの出荷量も維持でき、今まで通りの事業が継続できます。
つまり、お客さんが「町場」限定だったところを「野丁場」にも広げる動きです。これまでハウスメーカー、パワービルダーがメインでしたが、地場ゼネコンにもユーザーを拡大し、戸建て住宅の市場縮小に対応して、生き残りをかけていきたいと考えています。
また、職人不足はこれからも続くでしょうから、サイディングのプレカット化にシフトしていくと考えています。プレカット化が進展すれば、施工の生産性は向上します。実際、私の知り合いの会社でも商売としてサイディングのプレカットを行い、施工会社に供給しているところもあります。
――サイディング施工技術の継承については?
仲本 純さん 建設職人の教育機関である(一社)クラフツメンスクールを設立しました。現場の親方は教えるプロではないので、「あれやこれをもって来い」「終わったら掃除しろ」という言葉が現場で飛び交います。これでは若い人も萎えてしまいますよ。
しかし、この学校でのサイディングに関する授業では、10日間の合宿を通して、材料や道具の名前を教えるほか、研修棟で裸の家に外装材を張るところまでを行います。そのため、「材料・道具の名前、一連の作業工程」も理解でき、”一人前の見習い”になれるんです。
“セメントを固めた板”を取り扱うことが夢だった人はいない
――仲本会長はどのように経緯でサイディング業界に?
仲本 純さん 小学校の頃からずっと音楽をやっていたのですが、バンド仲間がみんな進学したこともあり、20歳の頃に挫折しました。バーテンダーなどもやりましたが、夜の仕事も長続きできないとも思い、その後、バックパッカーとなり、4カ月ほどインドに旅に出たりしていましたね。
帰国後、当時バブルではありましたが、なかなかバイト先の面接も受からかったのですが、そんな私を受け入れてくれたのがサイディング業界だったんです。1995年にはガイズカンパニー株式会社を設立して、代表取締役を務めています。
――なぜ、サイディング業界だったのでしょうか。
仲本 純さん 私もそうでしたが、サイディング業界を選択した人は、みなさん偶然だったんではないでしょうか。私は1986年にこの業界に入りましたが、当時、大卒の初任給は14万4000円ほどでした。詳しく調べてはいないですが、最低賃金は500~600円ほどで、700円であればいいほうだったでしょう。体を使う仕事は最初から日給で7,000~8,000円ほどもらえますから、賃金は魅力がありましたね。
賃金と偶然の要素でサイディングの仕事に就きましたが、それまで建設業界は選択肢にはなく、アルバイト関連雑誌でも建設業の項目は開いていませんでした。
――バブルの時は、割のいい仕事でしたよね。
仲本 純さん 仕事を覚えると、手間請負という仕組みがあり、親方から少し日給を抜かれても、月換算に直すと50万円ほど入ってきます。初任給14万円の時代ですから、まあまあリッチですよね。だから当時、サイディング職人になろうという志よりも、お金目当ての入職者が多かったと思います。
私はサイディング業界、メーカー・問屋関係者の集まりでお話する機会が多いのですが、その席で「子どものとき、”セメントを固めた板”を取り扱うことが夢だった方はいますか?」と問いかけます。まれに父親がサイディングの仕事をしていたから、2代目として引き継いだ事例はありますが、この外壁材を取り扱いたい、普及したいと少年のころから夢を持った人はほぼ皆無だと思います。
私はサイディング業を礼賛すべき立場ですが、こういった本音を話していかないと信頼や共感は得られないと思い、あえてこういったことも公の場でお話ししています。
サイディングは日本の風土に合った外装材
――サイディング業界の社会的な役割をどうお考えですか?
仲本 純さん サイディングは日本の風土に合致した外装材です。たとえば、日本は高温多湿で温度変化が激しい気候風土で、しかも都心部では住宅が密集しています。
江戸時代は火災がしばしば発生したことから、瓦屋根として、外壁は木だったものをモルタルで防火しました。しかし、その結果、室内と室外の温度差が激しくなり、家が腐っていく現象が起こりました。昭和に入ってからもこの腐る家が立ち並びました。
そのうち、サイディングが出始めた頃に、木造住宅の外壁工法として、外装材の裏側に通気層を設ける「通気構法」が開発され、長寿命の家が安く担保されるようになりました。
サイディングは家に化粧を施す役割を担っています。サイディングがなければ家は丸裸の状態です。サイディングは服に例えられますが、施工職人は服を綺麗に着せる役割を担っているんです。
――サイディングの仕事の魅力はどこにある?
仲本 純さん やはり、自分たちの仕事がいつまでも残ることにあります。建設業界全般に言えますが、自分たちの仕事が人の命、生活や財産を守ることに直結していますし、特にサイディングはその努力が実ります。
最後にこれから来る未来のことに触れたいと思います。職人さんの不足が深刻化しているということは、これから職人さんを目指す若い人たちにとっては大きなチャンスが待っているということです。私たち全国連合会としても、夢を持った若い人たちを支援し、もっと素晴らしい業界創りを目指し、これからも努力を惜しみません。