NTTドコモ 常務執行役員 法人ビジネス本部長 坪内恒治氏(左)と、竹中工務店 取締役 専務執行役員 篠井大氏(右)

NTTドコモ 常務執行役員 法人ビジネス本部長 坪内恒治氏(左)と、竹中工務店 取締役 専務執行役員 篠井大氏(右)

“デジタル朝礼”に”デジタルKY”… 5Gは建設現場をどう変えるか?【NTTドコモ×竹中工務店】

建築現場の業務最適化でオープンイノベーション

株式会社NTTドコモと株式会社竹中工務店は、建築現場の「人」の活動に焦点をあて、生産性向上を目的とした、デジタル変革の共同検討に着手することに合意した。両社は、建築現場の最前線の働き方の新たなスタンダードモデル構築を目指している。

「デジタル技術を活かした建築現場の業務改革」による生産プロセスの最適化を実現していくという。まもなく突入する5Gの時代は建築現場をどう変容させるのかに注目が集まる。

「両社が協業した成果についてはオープン化し、現場のイノベーションにつなげていく」と語るNTTドコモの5G・IoTビジネス部の仲田正一ビジネスイノベーション推進担当部長と同部の中島厚生建設イノベーション担当課長に話を聞いた。

現場の働き方の新たなスタンダードをつくる

株式会社NTTドコモの5G・IoTビジネス部の仲田正一ビジネスイノベーション推進担当部長(右)と同部の中島厚生建設イノベーション担当課長(左)

――今回、竹中工務店と協業することについては。

中島さん ともに生み出した内容を建設業界全体に広げ、新たなスタンダードを目指していくという思考が一致した点について大変嬉しく思いました。どこの業界や会社でも得られた知見を自社の中で囲い込むことはよくありますが、業界全体に広げていくという姿勢が画期的だと思います。

NTTドコモと竹中工務店の協業の概念

仲田さん 加えて申しますと、今回は人を中心としたDX(デジタルトランスフォーメーション)をする視座に立ち、両社のやりたいことがそれぞれ一致しました。

竹中工務店は、建設業界に若い人がなかなか入職が進まない現状に対して、より魅力的な現場にしていきたい、現場で働く人を幸せにしたいという思いから、人が中心になり、助け合いながら、大きなことを成し遂げていきたいという思いをお持ちです。当社としても、人を中心とするDXを通して、現場をより良くしていくという思いは一緒です。


「デジタル朝礼」や「デジタルKY」で現場を効率化

――今回の協業で、どのような現場を目指していく?

中島さん  建設現場の大きな課題である、週休2日制や4週8閉所を実現していくためには、建設業界全体で生産性を20%高めていく必要があります。この課題に対して、人と人とをコミュニケーションでつなぐ当社としては、人を中心とした生産性向上に寄与していくつもりです。

建設現場にはたくさんの人が集まり、一つの集合体を築いています。人が集まるところでのコミュニケーションエラーやロスなどをなくし、必要な情報がタイムリーに伝わる現場の構築を目的としています。

――具体的には?

中島さん 朝礼の状況を拝見すると、たくさんの人が集まっているため、後方にいる作業員には朝礼の声が聞こえず、前の方は見えていなかった状況がありました。にもかかわらず、全員集まって朝礼を行うことが効率的なのか、疑問に感じたんです。

色々な方に「朝礼はなんのために行っているのですか?」とヒアリングすると、皆さんから「安全に対する注意事項をしっかりと伝えること」と回答が返ってきました。それなら、本質である”注意事項の伝達”ができれば、やり方を変えることができると考えたため、今回「デジタル朝礼」を提案しました。

デジタル朝礼

スマートフォンや、デジタルサイネージによる動画で注意事項を伝達できるため、朝礼の時間と場所の制約を取り払うことができました。作業開始前の準備時間が減りましたし、朝礼終了から持ち場に移動するまで時間もなくなりました。

対面でのコミュニケーションの減少にもつながりますが、月曜日の週1度だけ従来通り全体朝礼を行うことも考えられます。一つの手法のみで運用するのではなく、現場に則した運用をしていく観点は持っておかなければなりません。

説明する仲田担当部長(右)と中島担当課長(左)

――デジタル朝礼は、大きな現場のほうが効果が高い?

仲田さん そうですね。人が増えれば増えるほど、ネットワークも同様に増えていきます。一定程度集まった場所でのコミュニケーションは対面では難しく、デジタルのサポートが必要になります。

そのため、デジタル朝礼は人が多く集まる建築現場、とくに複数の業者が同時に入場する仕上げ・後工程では、より効果が高いという検証結果が出ています

――デジタル朝礼以外には、どのような取組みを。

中島さん 新たなKY活動の構築を進めています。たとえば、過去の事故事例を活用し、より事故再発防止に効果が高いKY活動を目指していきます。

デジタルKY

また、タスク管理やTodoリストをより具体化したいと考えています。現場監督には、朝の時間帯にも多くの電話が掛かってきます。そこで、スマートフォンで仕事の依頼から完了の報告までできるようになれば、作業に抜けや漏れがなくなります。

タスクの管理と共有

とくに若手の技術者には、依頼が集中する傾向があります。そこで、誰がどういうタスクをお願いされているかを主任、班長クラスがスマートフォンで確認できれば、「これ少し重要だから先にやったほうがいい」「仕事を抱えすぎだから、ほかの人に手伝ってもらったほうがいい」と、上長が仕事の分散や整理もできるようになります。

5Gは建設現場をどう変えるか?

――これから5Gの世界が到来しますが。

仲田さん これから、現場でさまざまなデジタルデータが行き交うことになるでしょう。5Gによって、音声だけではなく、動画やBIMのデータもスマートグラスで見られるようになり、生産性も上がっていきます。

土木の世界では、建設機械の進化が生産性向上に大きく寄与しましたが、建築の世界では、人がメインです。ですが、人に関するデジタル情報はまだ不足しています。たとえば、作業員の歩掛りも標準コストで計算されていますが、歩掛りも科学的に見える化をしていかないと、その現場を最適化していくのは難しいと考えています。

そこで今、人間行動モデルの領域にも挑戦しています。建築という一品生産の中でプロセスの一元化は難しいですが、専門工事業者の観点から見た場合、たとえば鉄筋組立工は、鉄筋を組む行動には反復性があると考えます。この仮説に基づいて人間行動モデルを検討しています。いろんなデータから人間の行動モデルを指標化し、それを歩掛りの可視化につなげたいと思います。

人間行動モデル×プロセス管理

ただし、いきなりデジタルであるべき姿を突き詰めてしまうと、現場に抵抗感も生まれてしまいます。なので、まずは現在アナログで実施している部分の本質をしっかりと見極めた上で、デジタル朝礼のようにステップを踏みながら、現場の運用に合わせた支援をしていく必要があると考えています。

――NTTグループは、これからどのように建設業界に関わっていく?

仲田さん NTTグループと建設業界は、より深い関わりになっていくと想定しています。これからは建物を建てたり、道路やインフラを整備していくにもICT化が必須ですから。

今、NTTとしても日比谷再開発等の大きな案件も抱えておりますし、また建設業に限らず、トヨタ自動車とは実験都市「Woven City」(ウーブン・シティ)で協業しています。こうした案件を通じて、スマートシティやスーパーシティの構築を支援できるよう、ICTによる現場の改革をゼネコンさんとともに行いたいと考えています。

そして今回、竹中工務店と取り組んだ内容についてはオープンプラットフォームとし、他社にも利用可能なカタチにしていく予定です。スタートアップ企業や新技術を保有されるベンチャー企業にも、今回の協業の枠組みに参画いただき、ともに進歩を加速させていければと考えておりますので、ぜひお声がけください。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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