リノベーション業界最高峰の教育機関をつくる
営業から多能工まで本格的に学べる場として、一般社団法人リノベーション専門学校がこのほど開校した。人材育成や構造的な課題を持つ企業に対し、営業職からリフォームアドバイザー、多能工やメンテナンス技術に特化した技術習得まで、各企業それぞれに合わせた中長期的な人材育成や組織構造改革、研修制度のコンサルティングを行っている。
代表理事を務める飛田恭助氏は、リフォーム・リノベーションを手掛ける株式会社OKUTAに23年間勤め、過去最高額の売上や完工粗利高を達成。営業の最高位の称号も与えられ、執行役員を担いながら人事採用や社員教育面で活躍してきた。
リノベーション業界の地位向上の底上げをはかるため、「リノベーション業界最高峰の教育機関をつくろう」という志を掲げるリノベーション専門学校。開校したばかりの同校の今後の方向性などについて、飛田代表理事に話を聞いた。
トップセールスマンから人事教育へ
――飛田さんのOKUTAでのご経歴から。
飛田 恭助氏(以下、飛田さん) 1997年にOKUTAに入社し、約20年間営業畑を歩み、エリアマネージャーや執行役員営業部長を歴任しました。自分で言うのも恥ずかしいですが、社内表彰にて営業職として3年連続を含む5度のMVP(年間最優秀営業)も受賞し、初代「グランドマスター」という称号もいただきました。
これはキャリアパス上にはない営業の最上位で、殿堂入りのイメージです。営業の売上、完工、利益、契約率、お客様の満足度、会社のミッションに従っているかなど総合的な能力(スキル)と功績を認めていただいたものです。
その後、営業部部長を拝命していましたが、当社の奥田イサム会長から「グランドマスターを活用した教育事業に力を入れてほしい」と2018年4月に打診をいただき、人事教育部を預かることになりました。
――人事教育部長に異動された経緯は。
飛田さん 営業部員の中でも、理論・体系立てて教えられる人もいれば、「オレの背中を見て覚えろ」という方もいて様々でした。自分はもしかしたら前者かもしれないと考え、営業部の責任者でいるよりも、広義の意味でいろんな育成や教育に携わった方に向いているのではと思いました。
もちろん、営業は会社の要ですから、そこに軸足は置きつつ、より多角的に広い視野での教育ができれば、営業部にいなくとも、営業はできると思い、奥田会長の拝命に対して「是非やらせていただきます」と回答しました。
リノベーション専門学校
――リノベーション専門学校の設立のキッカケは?
飛田さん 私が在籍していたOKUTAでは、メンテナンススタッフや多能工を内製化しています。そのため、作業効率は向上し、クレーム・トラブルの防止や最終的には利益のアップにつながっていました。また、OKUTAには、「OKUTAカレッジ」という充実した研修制度があり、教育・育成をしっかりやると企業の足腰が強くなることを経験上理解していました。この教育システムをさらに進化させ、より育成や訓練に特化した”リノベーション業界最高峰の教育機関”を結成しようというのがキッカケです。
職業訓練は厚生労働大臣と埼玉県から認定を受けており、営業職からリフォームアドバイザー、多能工やメンテナンス技術に特化した技術習得まで、幅広くより専門性の高いスキルを身に付け、活躍できる人材の養成を目指しています。
講演で説明する飛田代表理事
――こうした総合的にリノベーションを学べる専門学校はそうそうないと思いますが。
飛田さん ありそうでなかったですね。OKUTAにはしっかりとした教育スキームがあり、それを専門学校に移管した形にし、よりリノベーション業界に広めていくミッションを追っています。
営業こそ技術者という理念
――営業職では埼玉県初の職業訓練の認定を受けているが、営業人材の育成にも力点を置いたワケは?
飛田さん リノベーションは、異業種からの参入も増えています。競争が激化すれば、技術力も向上すると考えてはいますが、その途中のプロセスで怪しげな業者にお客様が捕まってしまう課題もあります。実際、そういう声も届いていました。
私は図面を描いたりする技術畑出身ではありません。しかし、各社でリフォームアドバイザーやリノベーションコンサルなど様々な呼称があるように、営業ではお客様に正しい情報を、正しく伝えることがとても大事になります。
施工管理やインテリアコーディネーターは技術者ですが、私は”営業こそ技術者”と認知しています。当初は感覚で営業をやってきましたが、途中から理論的に学び、お客様にしっかりと伝えるには感覚と理論の両輪が必要だったことに気が付きました。
OKUTAには、「営業を科学する」というスローガンがありますが、営業には根拠があり、理論立てられているものです。営業職を中心に、またそれを束ねるマネジメント職も営業力です。
――リノベーション業界は、一般的に育成が得意ではない?
飛田さん そう思います。決められたモノを決められた通りに販売する営業は、台本やマニュアルでトレーニングすれば一定の成果は残せます。例えば、大手企業は数千人もの社員を抱えていますから、このスタイルとなりますね。しかし、リノベーションは一つひとつ中身が異なりますから、営業の中でも最も難しい職種ではないでしょうか。
リノベーション業界でキャリアアップ・チェンジを目指せ
――リノベーション業界は離職率も高い?
飛田さん 一般的に、新卒は3年間で3割離職すると言われていますが、リノベーション業界は4割と高いんです。その理由は、仕事の継続が難しいことと結果が後からついてくるためです。リノベーションの場合、お客様からの評価は住んで使っていただいた後になるため、直接感謝の言葉を聞くことが少ないんです。また、「ものづくり」の現場なので、いろんなトラブルも発生します。出来上がった時には「イメージと違う」であったり、「言った、言わない」の話もあります。
結局、バーチャルの段階でお客様は契約します。しかし、出来上がった成果物がお客様の思いと一致するかについてはシビアな世界で、うまくいかなかったときにはお客様から辛辣な言葉を投げかられることもあるでしょうし、するとプレッシャーに耐えきれなくなり、辞めてしまうこともあるでしょう。だからこそ、営業として正しいお客様との打ち合わせの仕方、向き合う方法や完成物の作り方を学んでほしいという気持ちが強いです。
――定着率の向上も、リノベーション業界全体のテーマのように思えますが。
飛田さん そうですね。会社からすれば、大枚をはたいて結婚資金を蓄え、結婚が成立したと思ったら、離婚されてしまうようなものですから。また、学生さんにとってもそういう形で退職することはプラスに働きません。
採用の段階から、企業側も「この学生が欲しい」と真剣に思い続け、学生の側もこの会社で真剣に働く未来が見えるという双方のマッチングが大事です。ですから、数合わせの採用を避けることが肝要です。人材開発は採用から始まると言っても過言ではありません。
――営業手法の伝授も大切ですが、職人の育成についてはいかがでしょうか。
飛田さん OKUTAは、職人を内製化することで収益を確保しています。特に、リノベーションに特化した多能工育成に取り組んでいます。古いタイル張りのお風呂からユニットバスに変えると、職人も7~8工種必要になります。2人の職人でその工種をこなせば、工期も2日間短縮でき、コストカットも可能です。
また、住宅のメンテナンスでは、OKUTAで行っている住まいの便利屋「Handyman(ハンディマン)」のシステムを広めていきたいと考えています。これは、簡単な住宅リフォームをはじめ、屋根や外壁の塗装・メンテナンスハウスクリーニング・水まわりのサポートまで、幅広くお客様の生活をより便利で快適にするサービスを提供するものです。多機能工や家のちょっとした困りごとを解決する技能も身に付けてもらえます。。
好敵手が存在することで業界も健全化する
――リノベーション業界全体を活性化する志はどこから生まれたのでしょうか。
飛田さん 奥田会長は昔から教育に力を入れ、「OKUTAカレッジ」を年々充実させてきました。今回、私は社団法人で独立しましたが、、OKUTAへの研修はもとより、自分のつくったカリキュラムをより広めていくことで、リノベーション業界を盛り上げていきたいと思っています。
奥田会長は、好敵手が存在する業界は健全であると考えています。健全な競争がないとリノベーション業界が廃れます。好敵手がいてもOKUTAのブランディングが尖っていれば、負けることはありませんし、仮に好敵手が成長しても、さらにその上を行けば良いわけで、お互いに競い合う業界を目指したいんです。だからこそ、私の身分も社団法人の代表理事であり、独立した組織となっています。
――比較的新しいリノベーション業界は、まだ整理整頓ができておらず、課題も山積みとなっている
飛田さん お客様が共働きですと普段、施工の様子を見ることはありません。それをいいことに、中には水洗いをせずに外装をする業者もいるんです。高圧洗浄で外壁の汚れをしっかりと落として、しかるべき下地の処理を行ってから、正しい外壁施工をしないといけないにもかかわらずです。
すると、出来上がったばかりならそれなりに綺麗でも、3~4年でおかしくなる話もあります。おかしいなと思って業者に電話しても、「現在使われておりません」と連絡が取れなくなったという話もあります。
これは確信犯の話ですが、業者自身が技術について理解せずに施工するケースもあります。誤解を恐れずに言えば、塗装を特に勉強しなくてもローラーを持てば、「今日からオレは塗装工」と言える世界ですから。
OKUTAがただ一度だけ赤字を出した年がありましたが、それは2005年に悪徳リフォーム会社が、全国の高齢者を騙し、不要な工事契約をさせるリフォーム詐欺事件が発生したときです。大手業者は影響を受けませんでしたが、真面目な中小の業者はその風評被害で潰れたところも多かったですね。
――これからの目指す研修は。
飛田さん 研修は、単発で良い話を聞いただけで終わってしまう傾向にあります。1週間も経つと2割ほどの内容も覚えていないというデータもありますが、それでは研修の意味がありません。結局、研修が実地に活かされていないケースが多いんです。
そこで少し費用をかけて頂いても、企業側に見返りの多い研修やOJTもしっかりできることを実施してこうと考えています。
――最後に改めて開校での思いを。
飛田さん 新築が年々目減りしていく中、大手企業もリノベーションに参入しています。リノベーションが文化となるよう、古き良きものを大切にしながら、長く使っていくという長期優良住宅の考えに基づいて、20年に1回メンテナンスすれば200年持つような世界を目指していきたいと思います。
そのためにはOKUTAだけではなく、いろんな企業に正しいノウハウを提供していきたいという思いがあります。エビデンスのあるノウハウを提供するので、結果は必ず出ます。安心してお任せください。