若い所長が圧倒的に少ない理由
考えてみてほしい。この業界の「所長」と呼ばれる人間は、どの年代が多いか。恐らく、ほとんどが40~60代ではないだろうか。何より、20~30代の所長の少なさに驚かされる。
若手技術者が少ないことは承知の上だが、業界で働いている若い人間がいないわけではない。では、なぜ若い所長が少ないのか。それは、下積み時代が圧倒的に長いからだ。
現場経験が少ないと所長になれない?
現場経験が少ないと、現場で所長を任せてもらえないことがほとんどだろう。多くの人が、現場経験が少ないと所長になれないと勘違いしている。確かに現場経験が多いに越したことはないが、下積みを何十年したところで現場は毎回異なるので、その時々での応用力が必要となる。
まず思い通りに進む現場など、ベテランであっても存在しないと考えてよいだろう。そう考えると、下積みを何十年もする意味が果たしてあるのかと思えてくる。下積みを何十年しても、結局は現場で頭を捻らせる。
もちろん、経験値がある人間は、過去の経験から問題を解決する能力が備わっているため、解決スピードが速い。では、経験の少ない現場所長は問題を解決できないのか。私の答えは、「ノー」だ。
所長として現場に出ると、問題解決をしなければ工事が進まないため、率先して自分で調べたり聞いたりするようになる。そうすると、自分で実際に見たり聞いたりして現場体験ができるため、下積みよりも良い経験ができることがある。
私の場合も、会社の人材不足により、若くして現場所長として現場に配属された。当初は右も左も分からず、本当に大変だった。しかし、1年後には自分の成長を確かに感じることができた。
下積み中は、分からないことは基本的に先輩が行ってくれるため、教えてもらえる機会もほとんどない。自分で体験するという機会を奪われるため、自分は成長できているのかと不安に感じることも多いはずだ。
分からなくても、まずは現場に出す
賛否両論あると思うが、若い人材が育たない理由は、まさにここにあると私は考えている。
現場所長として現場に出れば、確かに辛いことが多い。書類の山、日々の現場管理、材料の調達など、時には頭がパンクすることもあるだろう。しかし、そういった経験は、若いうちにしておくべきだ。
現場管理とはそういうものだと肌で感じることで、学ぶことも多いと思う。書類の作成方法、現場の段取りや工程の組み方、協力会社とのコミュニケーションの取り方などの実践的なスキルは、悩みながら体験することで圧倒的に早く身につく。
“現場に出して経験を積ませる”という考え方は、絶対的に必要だと思う。分からないなりに、現場でもがきながら1つずつ課題を解決していくからこそ、施工管理の面白さを味わうことができるのだ。
下積みは大事だが、何十年もする必要はない
ここまで、現場経験が浅い若手技術者でも所長として配属し、現場に出て経験を積ませるべきだと述べてきたが、企業目線で考えるとそう簡単ではないことも理解している。
企業側からすれば、経験不足から現場の協力会社や発注者に迷惑をかける恐れがあるため、実践的なスキルが身につくまでは、若手技術者を所長として配属することは確かに難しい。企業である以上、工事はサービスであり、協力会社や発注者に迷惑をかけることは絶対にあってはならない。
それは重々承知の上だが、基本的なスキルがある程度身につくであろう3年目で、現場所長として実践的なアウトプットをさせることは、本人の成長を考えても重要だと思う。
中には、資格を取得してから10年間下積みをして所長になる人もいる。私が3年で現場所長になった頃、ちょうど10年目にして所長デビューをした現場監督と飲みに行く機会があった。そこでの会話で、その現場監督が「所長になって、また分からないことだらけだよ」と言っていた。
そこで私は思った。10年下積みをしたとしても、所長として現場を回すスキルは全く身についていないと。現場監督が現場を回すことができないのは、もはや致命傷である。下積みを何十年しようが、重要なスキルが身についていないなんて、ザラにあるということだ。
施工管理者として、現場所長になることが1つの目標だという人も多いだろう。この記事を読んでいる人の中には、所長になるために今必死に下積みをしている、という人もいるかもしれない。
下積み時代は、もちろん大切である。しかし、何年下積みをしても、不安は絶対に襲い掛かる。基本的なスキルを身につけた時点で、現場所長として飛び出す覚悟と勇気を持つことだ。
今の会社にそういった環境がないのであれば、自ら環境を変えて、所長としての実践スキルを磨くべきだ。下積みは大事だが、何十年もする必要はない。