道路陥没の様子 / メインマーク提供

道路陥没の様子 / メインマーク提供

【道路陥没のメカニズム】インフラの老朽化で年々増加、どう対策する?

道路はなぜ陥没するのか?

東京・調布市住宅街の道路が陥没した事故は、世間に大きな衝撃を与えた。だが、識者からは、国や地方自治体等の対策の甘さを指摘する声もある。1990年1月には東北新幹線の御徒町地下工事で突如、道路陥没し、通行人やクルマが巻き込まれた。また、2016年11月にも博多駅前陥没事故が起こるなど、道路の陥没事故は枚挙にいとまがない。

大小含めると道路の空洞に起因する陥没は珍しくなく、年間全国で1万件発生しているという。道路の空洞充てんに高い実績を持つメインマーク株式会社の三木偉信戦略部部長は「これから道路陥没は必然的に増加する」と指摘する。道路陥没のメカニズムと今後のあるべき対策を聞いた。

年間約1万件も発生している道路陥没

メインマーク株式会社 戦略部部長の三木偉信氏

――道路が陥没するメカニズムを教えてください。

三木偉信氏(以下、三木部長) 多くの場合、道路の地下にある下水管などの埋設管が破損することで、小さな豆のような空洞が生まれます。それがどんどん上部に上昇し、そしてある日、道路が陥没するわけです。

道路の陥没自体は、全国で大小含めて、年間約1万件発生しています。2017年度の内訳は、直轄国道が121件、都道府県道987件、市町村道が9,536件です。国土交通省としても、各地方整備局で概ね10年に1回のサイクルで、直轄国道の空洞調査を業務として行っています。しかし、地方自治体が管理する道路延長は膨大であり、空洞調査は実施しきれていないことが実情です。

私たちが日常で見かける道路の異常は様々です。車両が集中して通過する道路舗装に生まれる”わだち掘れ”や、今回の調布市で発生したような大きな陥没など、道路の異常は多岐にわたります。

道路には、思わぬ場所に空洞が発生する

――大きな陥没事故には、どのようなものがある?

三木部長 一番大きな陥没事故は、1990年に東北新幹線の東京駅と上野駅を結ぶ御徒町トンネル工事で、掘削中にトンネル内部から圧縮空気が大量に噴出するとともに道路が陥没したケースです。これはクルマや通行人を巻き込んだ事例です。また、同時期に銀座で何十か所も道路陥没が発生しました。

他には、博多駅前の陥没事故は記憶に新しいですね。これは地下鉄七隈線延伸工事で、周囲を補強しながら硬い岩盤を掘り進む「ナトム工法」を導入していました。その際、地下約16~18mにある岩盤層に何らかの原因で穴が開き、地下水が岩盤層下のトンネル内に流れ込んだことで一気に崩落、陥没となりました。このように、過去をさかのぼると、大規模な陥没事故は幾度となく発生しています。

道路陥没で4億円の損害賠償も

――東京・調布市の住宅街での陥没事故は衝撃的だった。

三木部長 東日本高速道路の有識者委員会では、早稲田大学の小泉淳名誉教授が委員長となり見解を発表しています。当初は「もともと空洞が存在した」「工事により土砂を吸出し、空洞ができた」、さらにその他の要因として「下水管がもともと老朽化しており、そのタイミングで空洞が発生した」などの可能性が浮上しました。

最終的には、「シールド工事によって、想定外の軟弱層が存在した」か、もしくは「通常とは異なる土砂を吸出した」ことで道路陥没が発生した可能性があるというのが、有識者委員会での結論です。

私個人としても、当初から、経験的に見ればシールド工事に起因する可能性が高いと考えていました。関東ローム層は火山灰が堆積した粘土層であるため不確定要素があります。「この地域は固い層だろう」という推定のもとにシールド工事で掘削していった先で、ピンポイントで軟弱層に当たると、通常とは異なる土砂を吸い出して、今回のような事故が発生する可能性があるわけです。

――道路陥没で訴訟が起きたケースはある?

三木部長 アメリカのカリフォルニアでは、道路陥没が理由で4億円の賠償を求められた案件があります。日本国内では、道路陥没が人命に関わる案件は少ないのですが、クルマが壊れた、タイヤがパンクしたことで、地方自治体などが賠償を求められたケースはありますね。

例えば、高級車を運転していた方が、道路陥没でタイヤを取られ、修理代金や代車の費用などの出費が生じたため、地方自治体に訴訟を起こしたこともあります。ただ、訴訟よりも示談で済ますケースが多いです。


インフラの老朽化で、道路陥没は必ず増える

――大深度地下の利用により、道路直下でのシールド工事も多いですが、陥没防止対策は。

三木部長 2007年に国土交通省 近畿地方整備局から、道路下のシールド工事に対し、事前、施工中や事後で空洞調査を実施することを示した「シールド工事占用許可条件と解説(案)」を策定していますが、道路陥没しないよう、常に良好な状況を担保するような試みは、国の一部の機関等では実施されていても、全国的に展開されていないのが実情です。

――道路インフラは高度経済成長期に建設されたものが多く、老朽化で道路陥没が続々と発生するのでは?

三木部長 増えていくでしょう。日本は前回開催の東京五輪の少し前、つまり50年以上前に道路や埋設管の整備をスタートしています。公共構造物の耐久年数は50年のため、これから水道管やガス管といった埋設管の損傷等に起因する道路陥没の発生は必然的です。ですから、道路陥没対策は待ったなしの状況と言えます。

――地震などの災害により、道路陥没の発生例も増える?

三木部長 2004年に発生した新潟県の中越地震の事例によれば、震度5強以上の地震では、震度5弱以下の地震よりも道路下の空洞発生件数が増えることが明らかになっています。巨大地震が発生すると、地下に潜在していた空洞が揺れによって道路上層部に押し上げられ、結果として道路陥没が発生する確率も高まるわけです。

今後、首都直下地震や南海トラフ地震などが予想されていますが、地震により道路陥没が発生すると救急車や消防車は迂回しなければならず、人命にも関わる問題になります。このような意味でも、道路は国民にとって重要な社会インフラですので、道路陥没は社会的な問題です。

道路の空洞充てんの切り札

――道路の陥没には、どのように対応すればいい?

三木部長 博多のような大規模な陥没を早期に復旧させるためには、従来工法で言えば、流動化処理土のように流し込みながら、固めて補修する方法がベターだと思います。

しかし、膨大な数の空洞を、安価に充てんしていくためには、従来工法のモルタルや流動化処理土での充てんでは難しい面もあります。例えば、モルタルでの充てんでは、一日1か所あたりの施工になりますし、重量があるため、再空洞が生じる可能性もあります。またカチカチに固まるため、別の水道工事などをする際の道路掘削の障害になり、このモルタルの塊を除去するのに一日は掛かります。

そこで、当社では小規模の道路陥没をより早く、安価に補修するため、「テラテック工法」を提案しています。この工法は、道路面に十円玉くらいの穴を2~3個あけ、空洞に「テラテック樹脂」という硬質発泡ウレタン樹脂を注入し、空洞を充てんしていきます。

「テラテック工法」の施工イメージ

硬化時間は約30分と短く、一日当たり200m2ほど施工可能です。また、1m2当たり最低19tの耐荷重で、施工後すぐに大型トラックの通行も可能です。また、テラテック樹脂は、1m3あたり約50kgと軽量なので、次の工事の障害にならず簡単に除去することもできます。こうした施工性の高さなどから、現時点で年間約300件のや建築工事などで実用化されています。

テラテック工法による施工のようす

――空洞は、どのように見つける?

三木部長 有名な技術では、路面下空洞調査などを手掛けるジオ・サーチ株式会社が、道路・港湾・空港施設等の路面下に発生した空洞などを独自開発した「スケルカ(透ける化)」技術を用いて、探知しています。同社の冨田洋社長は私にとって恩師であり、懇意にさせていただいております。まずジオ・サーチが正確に空洞を探知し、そして当社が的確に充填すれば、社会が求めている道路陥没防止対策が実現できると考えています。

――今後、国や地方自治体は、道路陥没対策をどう進めていくべき?

三木部長 博多や調布などの事例によって国民の関心度が高まり、「道路陥没」のキーワードに極めて敏感になっています。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」も閣議決定されましたが、当初案では道路や港湾の陥没対策も入っていましたが、現状では道路について明記はされていません。

予算自体は恐らく、それほど多く割かれてはいないでしょうが、今は解決する方法も順調に積み上げていますので、まずは空洞探知と充てんを紐づけて各担当課が予算取りを行ってほしいですし、補助金についても検討をしていくべきだと考えています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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