中規模非住宅も対象に。建築業界への影響は?
「パリ協定」を踏まえた温室効果ガス排出量の削減目標の達成等に向け、住宅・建築物の省エネルギー対策が喫緊の課題となっている中、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」(以下、改正建築物省エネ法)は2021年4月1日から本格施行する。
最大のポイントは、省エネルギー基準への適合義務の適用が、これまでオフィスビルを中心とする大規模非住宅(床面積2,000m2以上)に限定していたが、新たに中規模非住宅(同300m2以上2,000m2未満)も対象に加わった点だ。
建築業界にも大きな影響を与える改正建築物省エネ法の各措置の内容とポイントについて、国土交通省住宅局住宅生産課建築環境企画室の上野祥平課長補佐(役職は取材当時)が解説する。
建築物省エネ法が改正された背景
2015年12月、COP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、すべての国が参加する2020年以降の温室効果ガス排出削減等の新たな国際枠組みとして、パリ協定が採択された。これに先立ち同年7月には、2030年度に2013年度比で温室効果ガスを26%削減目標に位置付けた「日本の約束草案」を地球温暖化対策推進本部で決定、国連気候変動枠組条約事務局に提出している。
パリ協定を踏まえ、「日本の約束草案」で示した2030年度削減目標達成に向けて、地球温暖化対策計画を策定し、2016年5月に閣議決定された。産業部門等では様々なCO2排出量の削減目標が設定されているが、住宅・建築物分野の13年度実績では、480万t。これを2030年度には290万tとし、40%の削減率を目指す。
今回の改正趣旨は、住宅・建築物市場を取り巻く環境を踏まえ、規模・用途ごとの特性に応じた実効性の高い総合的な対策を講じることになった。このような背景があり、このほど2段階で建築物省エネ法が施行される。まずは2021年4月1日からの改正点から整理する。
4月1日からの改正点は省エネに効果大
建築物省エネ法では、建築主は大規模非住宅を対象に、省エネルギー性能確保計画を所管行政庁か登録省エネルギー判定機関に提出し、省エネルギー適合性判定を受ける必要がある。適合判定通知書が交付された後、建築主は建築確認を申請している特定行政庁か指定確認検査機関に適合判定通知書等の必要な書類を提出し、建築確認済証を受領すれば着工する流れとなっている。竣工し、完了検査を申請する際、対象建築物の省エネルギー基準が適合しているかについても検査が行われ、問題がなければ検査済証が発行され、建物は使用できる流れが一般的だ。
ただし、工事の途中に省エネルギー関係の計画の変更を行った場合、変更の内容に応じて、その工事着手前に変更後の計画を所管行政庁や登録省エネルギー判定機関に提出し、再度省エネルギー適合性判定を受けるか、完了検査時に軽微変更説明書等の図書の提出が必要となる。
このように大規模非住宅は、省エネルギー基準への適合が義務化され、手順も示されている。省エネルギー基準の適合が確認できない場合、着工・確認ができないことが適合義務制度のポイントであり、これまでは大規模非住宅に適用を限定してきた。
改正建築物省エネ法では、制度内容そのものを変更してはいないが、中規模非住宅にも適用範囲を拡大することになった。建築物全体に占めるエネルギー消費量割合が高い中規模非住宅の対策を強化した形だ。適合義務となる建築物は新築着工棟数全体の2.8%であるものの、エネルギー消費量では全体の大規模非住宅と合算すると52.2%を占めるため、効果の大きい法改正といえる。
2017年度の用途・規模別の省エネルギー基準適合率のアンケートによると、中規模非住宅は実態としては約91%、小規模非住宅(床面積300m2未満)は約75%、住宅では62%がそれぞれ省エネルギー基準に適合している。そのため、中規模非住宅については現時点でもほぼ省エネルギー基準適合率は9割以上を超えており、法改正しても大きな混乱はないと国は判断した。