「職人流会議」に参加しろ!大工職17年の経験を捨て、施工管理者へ転身した破天荒男

今日も「職人流会議」に出向く。大工職17年の経験を捨て、施工管理者へ転身した破天荒男

大工職の経験を捨て、施工管理の道へ

私は、大工職の経験を17年間積んできた。普通はここで大工職について話すところだろうが、その経験は昨年あっさりと手放した。本格的に、施工管理の道に進み始めたからだ。未練はない。我ながら破天荒な男である。

あっさり手放したとはいえ、17年間の道のりは長かった。大工として木造戸建から職人の門を叩き、親方にしばかれながら建方から造作を覚え、約3年で独り立ちをした。一人親方となり、建築をもっと知るために本格和室や古民家再生も手掛けた。

奥深さを知ったことで、さらに色々な経験をしたい!と好奇心は膨れ上がった。それからは、コンクリートを相手にマンションリフォーム、リノベーション、軽鉄を相手に店舗改装や新店造作などを手掛けた。木やコンクリート、鉄、どれを相手にしても戦える経験を17年間、死に物狂いで手に入れてきた。

そんな私が、施工管理の道に進むと職人仲間に打ち明けた時は、まさに寝耳に水の状態だった。惜しむ声も多かったが、職人が嫌いになったわけではない。職人の生き様が好きで、カッコよくて、そういう生き方を一生続けていくのも悪くないと思っていた。

施工管理職へ転身した理由

では、なぜ転身したのか。

職人には、自分のこだわり世界がある。私にももちろん、その世界があった。しかし、17年間の経験で、その自分の世界にも限界があることに気づいた。限界を知った私は、自分の世界を出て、職人の十人十色のこだわりの世界を覗きたくなったのだ。これが、私が職人から施工管理へ転身した大きな理由である。

職人としての自分の世界を飛び出してみると、大工職だけではなく、これまで関わることもなかった基礎工事や内装仕上げ、外構工事など、他業種の職人たちのこだわりの世界が見えてきた。

そんなこだわりの世界を持つ職人たちが各工程を繋ぎ、家を完成させるまでのストーリーを、間近で見ることができる幸せな仕事が「施工管理」だ。


嫌だった現場監督ベスト3

17年間のキャリアを捨て、大工職から施工管理に転身した私だが、実体験から思うことは、職人としての施工経験やノウハウは、施工管理で必ずしも役に立つわけではないということだ。

施工管理の新任として、現場に挨拶回りに行った時のこと。行く先々で、職人から開口一番に言われた言葉は、「あまり細かいところは見過ぎないでね」「大工が来るなんて、なんか仕事しづらいなあ」だった。

納まりや段取りを知っている、元大工の施工管理者が現場に来るというだけで、現地の大工はやはり「やりづらい」という感覚を抱くようだ。できれば、現場を知っている施工管理者より、あまり現場を知らない施工管理者のほうが、職人も自由に気持ち良く仕事ができるのかもしれない。

私の場合はどうだっただろうか。職人だった頃のことを思い返してみた。使えない監督や、無茶苦茶なことを言う監督もたくさん見てきた。職人時代の気持ちに戻り、『嫌だった現場監督ベスト3』を挙げてみた。

第3位 堅物で臨機応変な対応ができない監督

  • 安全帯やヘルメットが必要のない場所で、かえって施工の妨げになるのに徹底的な装着を執拗に指示する
  • マニュアル通りでは納まらないのに、マニュアル通りに強引に納めさせられ、歪な納まりにさせられる
  • 納まりが分からないから、これどうします?と聞いてもすぐ答えを出せず、会社に持ち帰って一向に返答がない

第2位 仕上がりよりも、現場を早く終わらせたいと思っている監督

  • 最後はコークや補修屋を入れるから、そんな細かいところ適当に納めてと指示する(コークは魔法じゃないよ)
  • いつ頃終わる?と、煽り立てる感じで工期のことばかり何度も聞いてくる

第1位 段取りが悪く、後手後手の監督

  • 設計との打ち合わせ不足、図面チェック不足により指示がなく、結局壊す羽目になる
  • そもそも、職人の図面と監督の図面が違う。変更点が伝わっていない
  • 材料が入ってこない。そもそも発注していない

共通していることは、監督のミスで「作ったものを壊す」「工程を逆戻り」「待たされる」「急かされる」ことが、職人にとって一番嫌ということ。職人をやっていたからこそ、痛いほど気持ちは分かる。

私はそうならないように、反面教師にして努力することを心に誓った。施工管理者の皆さんは、このどれかを3回でも繰り返したら、「ダメ監督」のレッテルを貼られるので注意しましょう。

職人が喜びを感じる瞬間とは

施工管理者として、工程管理や施工時の正しい判断、トラブル時の迅速な行動など、これらは職人に喜ばれるという以前に、プロなのだから出来て当たり前のことだろう。同じように、職人にとっても納まりを褒められたところで、職人自身は出来て当然と思っているので、ヘタに持ち上げる必要もない。

では、職人たちは何に喜びを感じるのか。職人時代の嬉しかった出来事を思い出してみた。

自分の工程を終え、無事に次の職人に引き継いで数日したある日、監督から「あの職人さんの後はとてもやりやすいと、○○さんが言ってたよ」と伝えられた。同業種の職人に言われることはもちろん嬉しいが、特に、次工程の職人からの評価は非常に嬉しかった。職人冥利に尽きる瞬間だったし、喜びもやる気も倍増した。

そして施工管理者となった今、私が元職人だっとはいえ、施工管理者の立場で評価をしても、あまり説得力も効力もない。むしろ、褒めるのは失礼な話だとさえ感じる時もある。職人同士だから響くのだ。

職人は、次工程の職人からの評価を聞く機会はほとんどない。だからこそ、施工管理者である我々が、次工程の職人の作業のはかどり方や顔色を見ながら情報を集め、その評価をそっと前工程の職人に伝えてあげる。これが、職人のモチベーションを保つうえでとても大事になる。ちなみに、間違っても悪い評価は伝えないように(笑)。

建築は、完成までのリレーなので、口伝を繰り返し、喜びを連鎖させるようなイメージで家づくりをしたいものだ。職人同士が讃えあっていけるような環境をつくるために、重要な鍵をにぎっているのが「施工管理職」ではないだろうか。


家づくりのための「職人流の会議場」

施工管理者として入社して以来、上司に言われ続けていることがある。それは、「10時と15時を狙って現場に行ってこい!」ということだ。そう、皆さんの大好きな一服の時間である(笑)。

作業の邪魔をしてしまうからという理由もあるだろうが、最大の目的は「親交を深めてこい!」という意味だと認識している。上司に言われた通り、徹底してその時間に現場に行き、職人たちから「暇なの?」と冗談を言われるくらいまでの関係になった。

一服の時間は、正直、仕事に関係のない冗談話が大半を占めているが、その時にしか見れない職人の素顔や、その時にしか聞けない重要な情報や噂が飛び交っているのも事実だ。

近年、必要以外は現場に赴かない施工管理者も多いと聞く。業務連絡は、もっぱらラインやメール、電話で済ませ、業務外のことは関わらないというスタンスのようだ。そもそも、人とのやり取りが希薄になってきている時代の中で、コミュ障の監督も増えているようにも感じる。

若い世代の方々には、考え方が古いと言われるかもしれないが、一服の場は親睦を深め仲間意識を深める場でもあり、情報戦を先取りする場でもある。無駄な話も多いが、家づくりのための「職人流の会議場」なのだ。私は、上司からはそれを教えてもらったことを感謝している。

とはいえ、毎回行っていたら精神も体力ももたないと思うので、毎回とは言わないが、1工程に最低でも2~3回は顔を出さないと信用問題に関わる…と、私は勝手に思っている(笑)。

もっと「職人流会議」を大事にし、無駄そうな話によく耳を傾け、よく笑い、よく語り、時にいじられながらも、職人たちがリレーをして作り上げる、家づくりの世界に施工管理者もしっかり加わることが重要だ。

これは、職人の世界にしか存在しない独自のコミュニティだと思うし、この伝統はどんな時代になっても変わることはないだろう。そんな温かな「職人流会議」に、私は今日も出向き、元職人として現職人たちと共に家づくりに励んでいる。

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大工職から施工管理職へ転身。住宅ハウスメーカーにて、施工管理と外国人大工技能実習生の教育、現場メディアを担当している。
「施工管理に取り組む姿勢」や「施工管理は楽しい」を発信する。
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