現場管理者として働く2代目アラフィフ社長
“建設業の未来”、このようなテーマはよく耳にします。いろんな観点からの意見がありますよね。今回は、私の視点から考える建設業の未来や、それに対する思いを文章にしてみました。
私は雪の降る地方都市で、建設会社の2代目アラフィフ社長として日々、土木工事に精を出しています。
会社の規模は、従業員20名弱(うち役員は営業2名、管理者1名、現場作業員1名)で、公共工事と民間工事を合わせて3億から4億の受注高があります。官公庁の元請け工事をメインに行っており、社長である私も現場管理者として働いています。
受注工事は平均で1億未満の単独受注が多いですが、1億オーバーのJV工事も行うこともあります。工事成績は平均で80点程度、2~3年に一度くらいは土木工事表彰を受けています。
長年、建設業界を取り巻く”負のイメージ”
建設業には祖父の代から携わっており、戦後の高度経済成長、バブル期、建設氷河期、震災復興、国土強靱化、東京オリンピックでの異常な繁忙期まで、建設業の浮沈を肌で感じてきました。その中で、うまれてくる会社、辞めていく会社、倒れてしまう会社などもたくさん見てきました。
どの時代においても、建設業のイメージは決して良いとは言えません。威勢の良いイケイケドンドンの人達、政治家の汚職に絡み、談合や利権絡みで不要ではないかと疑われる工事発注や手抜き不正工事、犯罪を犯した場合には会社員で良いはずが土木建設作業員と報道されるなど、ますますイメージは悪くなっているように感じます。
一部の人のイメージだけで、建設業界の全てが悪く見られることはよくありますが、良くないことの比率が多いのも正直否めません。
ただ、私の周りは祖父の代から見ても、反社に見えなくもないが決してそうではなく、しっかり家庭を持ち、子を育て真面目に働いている人しかいませんでした。そのため、上記で述べたような汚職や不正工事には、私の会社は無関係だと胸を張って言えます。
日当が上がっても結局、建設業界は選ばれない
近年の超繁忙期あたりから、施工管理者不足や職人不足が危惧され始め、国も「コンクリートから人へ」の方針から、建設系の人件費を上げてきました。普通作業員の日当が11,000円台から20,000円弱まで上がりはしたものの、働く人は一向に増えませんでした。
長年、建設業に身を置いてる立場から見ても、単価は上がったけど、まあ働く人は増えないだろうなというのが所感です。
理由は、現場作業になるため暑い寒いなど労働環境が厳しく、体力が必要、かつ危険で汚く世間からの目も冷たい、そのうえ驚くほどの収入でもないからです。(収入に関しては、学生時代の努力や自分のスキルを冷静に見れない人の意見に近いと思ってください)
また、取り柄がなければ、とりあえず健康な体と体力でお金を稼ごうという人も、昔と比べるとめっきり少なくなったように思います。
休みについても、国が盛んに週休二日制を!と叫んでいますが、年度繰り越し不可工事の工期末には、そんなことは一切関係ありません。何とかしろ!で話し合いは終わりです。これは、自らの工程管理不備での遅れでなくともです。
正直、休めばお金が増えるというのもいかがなものかと思います。それに加えて、政治の方針変換で、また建設不況が起こるのでは?と不安もあります。
周囲の同業経営者からは、子供に会社を継がせようという話は全く聞きません。「来たる時に財産を処分して会社を畳もう、借金が残らなければ幸いだ」と暗い話ばかりです。こうなるともう、建設業界のお先は真っ暗だ…と思ってしまいます。
ですが、大好きだった祖父が礎を築き、尊敬できる父が会社を起こし成長させ、私を育ててくれたこの会社を消滅させたくありません。
土木工事は国の根幹と思い仕事をしていますし、インフラが充実し新設工事は減りましたが、老朽化してきたインフラのリノベーションもあります。世の中に必要な業種ですし、多少なり感謝されるやり甲斐のある仕事です。
本来は、もう少し感謝されてもいいのでは?と思っていますが(笑)。
地域にとって無駄な工事なんてない
突然の道路陥没、下水道管の破損閉塞、水道管の破裂、土砂崩れ、強風による街路樹の倒壊、そのどれもが人々の生活に深刻な影響を及ぼすトラブルです。最近は、このようなトラブルにも早急柔軟に対応できる業者は減ってきているように思います。
自然災害が発生した際には、我々土木業者ではなく、自衛隊に出動要請が掛かり対応しているニュースをよく目にします。情けないです。これは違うのでは…と思って見ています。本来は、地域の土木業者が向かうべきだと思います。
自衛隊は、地方自治体の維持が困難になりうる状況の場合に助けてもらう、最後の砦ではないでしょうか?そう思いながらも、それだけの余力が建設会社になくなっているというのも現実です。
近年の大雪でも、除雪車のオペレーターは人手不足が続いています。年度末の工期に追われ人手が足りず、日中も仕事をし、夜は除雪出動が掛かる。それを2~3人で回すとなると、疲れも溜まり体調を崩します。それでも休めないし、休まないのです。
このような状態で働き続けると、日中に雪がちらつくだけで、除雪車の運転席から見る夜中の景色がフラッシュバックして恐怖に駆られます。これは病名がつくほどでしょうか?気にしていませんが…(笑)。
土木業者の仕事は、体力的にも精神的にも大変なこと、辛いことがたくさんありますが、それでもこの仕事をやっていて良かったなと思える瞬間もあります。以前、夜中の道路陥没修繕工事が難航し、原因がなかなか分からなかった時の話です。
役所の課長が見かねて「このまま速乾コンクリートで周囲を固めて補強し埋戻しましょう」と言ってくれたのですが、「今やめるとまた陥没を起こすかもしれないので、原因が分かるまでやめません。大丈夫です。」とお伝えし、最終的に陥没を原因から解決し、とても感謝されたことがありました。
この時、現場状況を見かねて、助け船を出してくれた課長さんへの感謝の気持ちは忘れません。優先順位の判断はできませんが、普段行ってる工事も地域にとって無駄な工事は見たことがありませんし、ないと信じています。
公共工事に対する負のイメージも一部の影響ではないかと思っていますが、私が関わってきたレベルの工事で後ろめたいことはないと断言できますし、だからこそ、これからも続けていきたいと思っています。
今までできていた工事が、人手不足でできなくなる
そもそも、なぜ人手不足になるのでしょうか。先述しましたが、理由はたくさんあると思います。
私も地域の建設業協会に加盟しているので、色んな会合に出ます。その中で、担い手不足や工事期間の集中による人手不足、稚拙な設計のあおり、設計変更の過不足など、不満をあげだしたらキリがないほど出てきます。
会合の中には、発注者との意見交換会もあり、色んな不満や改善要望を出していますが、反映されたことはほとんどありません。毎年、同じ要望事項の一覧に判を押したように「部内で協議検討します」と書いてあります。
何かの決まりで、意見交換会をやらなくてはいけないのでやってるだけなんだろう…と思い、バカらしくなります。
その会合で出てる議題、内容は確かにその通りで、改善されるとありがたいことばかりですが、協会内で会合に出席するのはある程度、規模が大きく施工管理者はいるが作業員のいない会社ばかりです。当然、作業員を抱えてる会社の苦しみや苦労が全く議題に上がらず、仮に上がったとしても職人が確保できないなどです。
私の会社は、出席してる会社の中で底辺です。作業員を抱えてるのはうちだけです。確かに施工管理者不足も深刻ですが、熟練の作業員不足も深刻です。しかし、その声は私がいる地域の建設業界にさえ届かないし、響きません。
一昔前であれば、軽量矢板と水中ポンプなどで施工していた開削工事が、今では本矢板締切りや薬液注入がないとできない状態です。工事経験者であればどのくらい金額に差があるか分かると思います。仮設が大きくなれば、工事費も上がってありがたい。そんな声もありますが、それでいいんでしょうか?
もちろん、必要なお金は使うべきだと思います。予算を削り危ない工事を行うのは間違いです。しかし、今までできていた工事が、担い手不足でできなくなることには危機感を覚えます。もうすでに取り返しがつかないのでは…とも、うっすら思ったりもします。
事実、私のいる市町村では、ある一定の条件を超えた開削工事を頼めるのは、うちしかないと役所の人に言われています。頼むから今の規模、レベルを維持して欲しいと…。とはいえ、世に言う、焼け跡世代や団塊世代がいなくなってきた我が社のレベルも、どんどん落ちているのは実感しています。危機感しかありません。
通常工事であれば、本格的な仮設をして工事を進めていくこともできるでしょう。しかし、突発的な事故が起きた場合、仮設だ薬注だと悠長なことは言ってられません。機動力、ある程度の資機材、技術者の知恵と土木技術が必要です。それが日々衰退していっているのです。
ここまで長々と書いてきましたが、建設業で働く人間としてやるせない気持ちになります。上記で述べた問題は、私個人(会社)の力でどうこうできる問題ではないということも分かってます。「結局、愚痴だな~」と自分で嫌になります(笑)。
それでも私は、この業界で働く一人間として、建設業界の未来をより良いものにしていくことはできないかと考え、「なにかできることはないか?」「これで良いのか?」と、日々、自問自答を繰り返しています。
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本当に欲しいのは「働ける場所」
作業員を確保し続けるうえでネックとなるのは、閑散期の人件費です。弊社の請負う公共事業は、夏頃から秋にかけて発注され、その年度の3月頃の完成を目指します。
つまり、実質4~9月頃までが暇、10~3月まで忙しいということです。発注時期を半年ほどずらして、4月から着工とならないものかと思っています。
着工が春にずれれば、季候の良い時期に仕事ができて、寒中コンクリート対策に使う費用も減り、雪に苦しめられることがなくなり、除雪作業の人手不足もかなり解消されるように思います。このようにメリットはたくさんあるのですが…。
できないのかな?と疑問になりますが、おそらく現実的ではないのでしょう。デメリットがあるとすれば、水田の農耕期に関わる工事は対策が必要になりますね。その他は何かあるでしょうか?
少し話が脱線しましたが、つまり”半年間は暇”ということです。暇な時期は長年、民間工事を拾いなんとかやり過ごしてきましたが、民間工事は、バブルの崩壊、リーマンショック、コロナ禍と世の中の動きに敏感に反応し、ピタリと止まります。
21年度の民間造成工事は、0件でした。営業力低すぎでしょうと笑われるかもしれません。しかし、その前年や前々年は何件か受注し、閑散期の赤字を最小限に抑えていました。このような状況が数年おきに起きると思うと、持ちこたえるだけで精一杯で、人員の確保や技術の継承などは夢のまた夢です。
1990年代からこのような状況が続き、比較的大きな会社は徐々に作業員を減らし、固定費が少なく売り上げが大きい施工管理だけの会社に変化していったのだと思います。
そのような流れの中でも、先代の社長である父は、「土木会社が泥から離れてどうする!汗をかいて稼がないでどうする!」の精神で作業員を減らさず、長年頑張ってきました。しかし、この状況が変わらなければ徐々に会社が衰退し、仕事ができなくなり、我が社の火が消えるのも時間の問題です。
巷で騒がれているコロナ。ある業種では、街の人出が減った、客が来ない、補助を出せと訴えているようですが、そのお気持ちはよく分かります。原因がなんであれ、苦しいのは一緒です。行政だけが悪いとも思いませんが、補助をくれと言いたくなるのも分かります。
土木も同じように、閑散期には補助をくれという動きが出てもおかしくないと思っています。国に貢献したい気持ちはもちろんありますが、補助は欲しいです。しかし、本当に欲しいのは補助金ではなく「働ける場所」です。
建設業者のできることなどは限られてしまうとは思いますが、仕事が暇になる時期などに、ある程度の期間で自由に出入りしながら仕事ができるような現場があれば、国や地方にとってもプラスになり、閑散期を助けるいいアイディアにはなるのではないか?と思っています。
同じ建設業でも、会社の規模が変われば考えや思いも違ってくると思います。施工の神様は、建設関係、設計士、公務員や異業種の方々など、色んなコメントを目にするので、きっとたくさんの方が記事を読まれているのだと思います。
この記事を読んでいる方々がどんな意見をお持ちなのか、ぜひ色んな意見を聞いてみたいです。
そして、この記事から議論が起き、どこかの地域で実践されるようになり、それが他の地域や全国にも広がっていき、最終的には、建設業が少しでも維持しやすく、無駄なことをせず、世の中の役に立てるような未来になっていくことを私は夢見ています。