土木出身の私が自衛隊で体験したジレンマ
私は現在、自衛隊を退職し、建築士として工事監理業務を主体として生計を立てています。もともとは土木、主に港湾土木に携わっていました。なぜなら、海上自衛隊の施設という職域で飯を食ってきたからです。
海上自衛隊には、基地基盤が護衛艦用の港湾施設と航空機の活動拠点となる飛行場の2つがあります。そのため、海上自衛官は基本的に土木の教育を受けることが習わしとなっていました。しかし、土木だけでは当然施設の建設や維持管理はできません。建築、電気、機械の知識技能も必要となるのです。
今回は、土木出身の私が自衛隊で体験したジレンマのお話と、建築・土木技術者に対する提言をさせていただきたいと思います。
「土木はすべての基本」と上司は言うが・・・
海上自衛隊に入隊して施設職域として勤務していた際に、上司から「施設職域というのは土木が基本だ」とよく聞かされていました。
しかし、実際に基地施設の維持管理や新たな施設(港湾施設や弾薬庫等)を建設する際には、当然ながら土木だけの知識では何もすることができません。
当時の私は、土木こそ建設の世界でNo.1だと思っていましたが、実際に施設事故や不具合が出るのは電気、機械、建築の順で多く、土木はそれほどの不具合はありませんでした(土木は規模が大きいので不具合があっては困るのですが)。
職場では、電気や機械を専門とする隊員は技官が主であり、自衛官はほとんどいません。自衛官と異なり文官である彼らは危険を伴うような命令ができませんし、対応できる人工も限られています。
老朽化した施設が増えるほど、建屋や構造物よりも電気、機械のトラブルが立て続けに起こるのはどこの施設も同じだと思います。勤務を重ねるたびに電気、機械、建築の重要性を認識せざるを得ませんでした。
技術者が少ないわりにトラブルが多い、電気や機械
先ほども述べましたが、電気、機械を専門とされる技術者の数は、土木・建築と比較すると非常に少ないと感じます。このことは自衛隊を退職し、民間で勤務する限りでも感じるところです。
人が少ないわりにトラブルが多いので、自然と担当者の負荷は増加します。私個人としては、苦労が多い割には建築・土木の後行程となることから、あまり適切な表現ではないかもしれませんが、ぞんざいに扱われている印象がぬぐえません。
また、電気や機械はあって(動いて)当たり前という認識を施設使用者が持っているため、不具合が生じた際には批判の標的となる傾向が多いようです。
実例としては、某航空部隊において6月下旬に空調機の試運転の際に故障が判明、修理の入札から工事完了まで約2か月の期間を要することがありました。工事の内容は部品の交換だけでしたが、当時は随意契約が認められておらず、経理から一般競争入札しか認められませんでした。
経理としては、空調機の故障に関しては緊急性が認められないことと、旧防衛施設庁談合事件の名残で随意契約を自粛していたことから、私たちの力ではどうすることもできませんでした。指揮官には、修理が遅くなるのは契約上の手続きの問題であると説明をしたものの、批判の矛先は機械担当者に・・・。
指揮官いわく「最も暑い時期に、自分の部下を劣悪な環境に置くことは断じて許容できない。なぜ夏直前に試運転するのか。もっと早く試運転すれば故障も早く直せるだろう。職務怠慢なのではないか。もっと早く修理できるよう経理に言え」と批判は止まりません。
そして、その場で経理部長に電話をかけ始めました。指揮官は先ほどの批判を繰り返し、最後に「早く修理できるよう手続きを進めてくれ。よろしく」と言って電話を切りました。
その後、私と機械担当者は経理部長に呼ばれ、「なんで指揮官にちゃんと説明しないんだ。無理なものは無理と言っておけ」とこっぴどく叱られました。なすすべもなく、うなだれるしかありませんでした。
電気、機械技術者にもっと光を
本当は良くないのでしょうが、結局、空調機の件については、懇意にしている工務店にサービスという形で応急処置をしてもらいました。
指揮官は空調が動いていることを確認することもなく、知らない間にほかの書類に紛れている空調機の修理に係る調達要求書に印鑑を押していました。8月に行われた入札結果は、サービスしてくれた工務店が落札しました。私と機械担当者としては、そのことが唯一の救いでした。
それにしても電気、機械担当者というものは、なかなか建設業界の中でも光が当たらない職域だとつくづく思い知らされます。これは民間でも同じであると、私は感じています。建築の図面を渡された時点で、締め切り間近であることを知らされる電気、設備設計に携わる技術者の方は多いのではないかと思います。
建築・土木の設計者が口癖のように言う、「私は電気(機械)については知識がないので・・・」という言葉は、軽々と口にすべきではないと思います。電気、機械技術者は、建築・土木についてよく勉強しています。それは、彼らの設計は建築・土木を知らないとできないからです。
建築・土木技術者は、このことを肝に銘ずるべきではないかと私は思います。少なくとも、建築・土木の設計や施工のしわ寄せを彼らに押し付けないように、基本的な知識を身に着けるべきであると僭越ながら提言させていただきます。
すべてはお客様のために。ご安全に!!