「屋根屋を誰もが憧れる仕事にしたい」 3.11・消費増税を経て感じた屋根屋のあり方とは

「屋根屋を誰もが憧れる仕事にしたい」 3.11・消費増税を経て感じた屋根屋のあり方とは

「屋根屋を誰もが憧れる仕事にしたい」 3.11・消費増税を経て感じた屋根屋のあり方とは

【屋根屋を誰もが憧れる仕事にしたい】3.11・消費増税を経て感じた屋根屋のあり方 / YouTube(みんなの屋根の相談所|石川商店)

屋根屋の仕事ってこれでいいのか?

1940年創業の屋根工事会社である株式会社石川商店(東京都品川区)。代表取締役の石川弘樹さんは「屋根屋を憧れの仕事にしたい」と語りますが、その裏には3.11による被災現場で感じた屋根工事の実態、消費税増税の駆け込み需要で感じた安全性よりも利益重視の働き方への疑問がありました。

「屋根屋の仕事ってこれでいいのか?」という自問の末にたどり着いた「カッコイイ屋根屋」のあり方について、石川さんに話を聞きました。

屋根業界は専門的な分野なので嘘がまかり通ってしまう

――石川さんが大事にしていることを教えてください。

石川 仕事に限らず、嘘はつきたくないというのがありますね。昔の自分がすごく嘘つきだったと思っていて自戒の意味も込めてそう思っています。屋根の仕事は、嘘をつこうと思うといくらでもつけてしまうから余計に気をつけています。

お客様と自分たちとの知識量が違いすぎるのと、現実、お客様は屋根が見えないからです。もしも僕が、今の知識で悪い人になったらすごいことになってしまうと思います。

――石川商店が新しく家を建てるよりも、修理や予防のことを推奨しているのはなぜでしょうか?

石川 一番はじめのきっかけは「3.11」(東日本大震災)だったと思います。当時は、リフォームとか修理ではなくて、多くの屋根屋の仕事は、大手から新築工事の下請けで成り立っていました。

石川商店も変わらず、下請けをメインに仕事をしていたのですが、下請けつながりで3.11の震災によって被害を受けた現場の応援にいきました。同じ大手から仕事を受けている業者であれば、施工マニュアルがしっかりと整備されているから多少は大丈夫なのではと思っていたのですが、全然そんなことはなかった。被災している家の工事は9割がほぼ手抜き。

マニュアル通りに工事していれば被災しなかったのにと。その時に、今の仕事の意味って何だったのかと疑問を持ちました。大手の傘下に入っていると工事単価も一律で決まっています。石川商店は少なくとも(震災の現場と比べて)3割増しの仕事をしていたので、こんなにもマニュアル通りにやってなかったのならそれは儲かるだろうなと率直に思いました。そしてそれで被災してしまっている。

もちろん、現地の方が地震の威力は違うとしても、しっかりと工事をしていれば、もっと被害をおさえられたのではないかと思います。それで疑問を感じ、モヤモヤしだして、そこから色々と考え始めました。


消費税増による駆け込み需要で働き方が崩壊

石川 その後、消費税増税が2014年にあり、一番高い買い物といわれている家が駆け込み需要でたくさん住宅が建ちました。大手のハウスメーカーの下請けだったこともあり、工事数や売り上げは上がったけど死ぬほど忙しかったです。

期限を越えると消費税が上がるので、何があっても無理くりやらないといけないので、方々に応援を要請し対応しました。それで売り上げは過去最高になったものの赤字になってしまって。

――死ぬほど忙しかったのになぜ赤字に?

石川 それはもう社長の僕が完全に悪いです。ただ、そうなった時にこの仕事に僕は向いていないと思いました。やり方が悪かったのもあると思いますが、もうほんとに嫌になってしまって。

前の時(震災の時)にも思ったのは、この仕事で儲かっている人たちは、「工事を手抜きして経費に落としていたら、それは儲かるよね」って思ってしまい、気持ちは落ちるところまで落ちました。

「うちは一生懸命やっているから赤字なのか」と思うとバカみたいだなと。

――赤字になった理由は、どれだけ忙しくても、一つ一つの工事をしっかりやろうとした結果、売り上げ以上に出ていくものが多かったからですよね?

石川 そういうことだと思っています。当時の社員さんの人数は、事務が4人ぐらい、現場で作業する人が10人ぐらいだったので。

――「建設業界は人手不足」といわれていることがリアルに感じられました。

石川 その時に、社内も自分もかなり殺伐としました。とにかく、どうでもいいからやってこいっていわざるを得ないし、現実、無理だとしても上司や取引先にやってこいといわれる社員さんにとっては溜まったものじゃなかったと思います。ほんとに最悪の会社で最悪の経営者だったなと。

そしてその時にこれは違うなと気づき、大手の下請けをやめました。自分たちのやりたい仕事を、しっかりやっていこうとなってそれで「えいや」って感じで。

売上8割ダウンでも、大手企業の下請けをやめた

――大手の下請けを切るって相当大きな判断だったのでは?

石川 そうですね。売り上げを8割無くしています。

――経営的にも相当きつい時期が長く続いたのではないでしょうか。

石川 もちろん。ほぼ無計画でやめているのでうまくいくわけないですよ。

――屋根屋として、意味のあるをやりたいというのが根本にあるからだと思うのですが、災害予防の考えもそこから始まっているのでしょうか。

石川 そこの時点では、まだそんな発想はなかったです。その後、自分たちでお客様の声が聞こえる形にしたくて、一軒家で住んでいる人に対してリフォームや修理をする方に切り替えていきます。

訪問販売をすることは禁止しながら、ホームページやチラシなどで少しずつ広めていき仕事をいただくようになりました。そして、改めてお客様とやり取りするようになった時に、「誰も屋根のことに興味を持っていない」ということを知ります。


自分たちの仕事は修繕ではなく予防だと思った

石川 「雨漏りが年に3回ぐらい漏って、今回、天井が落ちてきたので修理をお願いします」という電話がありました。それってこちらとしてはすごく衝撃で、年に3回漏って、さらに天井落ちるまでほっとくのが普通なのかと驚いたのを覚えています。自分の感覚なら1回雨漏りしたら即電話するものだと思っていました。

「1回なら生活に支障ないし、たいした雨漏りでもないから害も無いでしょ」という感じです。しかもそれが一人ではなく、他の人も、ほぼ皆さんがそんな感じで話されていたので、これはヤバいと思いました。

予防やメンテンナンスをしないと屋根は当然傷むので、早いですが10年に1回はメンテナンスをするのがこちらは普通だと思っています。ですが、一般の人は「30~40年はほったらかしで問題ないでしょ」となり、酷い雨漏りさえしなければOKというのが普通の感覚なのです。

これは自分たちが仕事したいということではなく、単純にお客様がそう思っていると、よからぬことばかりが起るのでお客様が損をします。なので、こういったこと(雨漏りはほっとかずに、1回目から対処することで結果的に家にかかるコストは抑えられるということ)は知っておくとお客様が得できる、というか損はしない。

――そうですよね。

石川 雨漏りしてから修理するよりも、自分で計画的にメンテナンスをして予防することが経済的にも安心です。だからその方がいいと思って、予防のことを伝えていこうと思いました。

お客様のニーズとして「雨漏り修理」があったとしても、現状だと「それってほんとに良いことしてるんだっけ?」と思います。少なくともお客様は損しているわけですから。

――そうですよね。それ以上の情報が無いとそういうものだろうと思います。

石川 業者側としても、お客様に「雨漏りしているので修理してください」っていわれて「じゃあ100万です」っていって「わかりました」って修理できれば楽ですよね。言って通るなら(業者が)ほんとに楽です。

ただ、全部が全部そうなっているとは言いませんが、業者の言いなりになってしまっているお客様にたいして業者が甘えている。変な話、災害待ちになっていて、災害がくると屋根屋が儲かるってなってしまうとダメで、そうなってしまうと誇れる仕事なんかじゃない。

災害による被害が起らせないようにしないといけなくて、それが仕事として美しいと個人的には思います。

――災害になって喜ぶなんて、屋根屋が存続している意味って何だったの?とか、そんなことのために仕事しているの?という感じになりますね。

石川 もちろん、災害復旧そのものを悪いことをしているなんて全く思っていません。他の地方からわざわざ来て、現場に事務所を構える屋根屋さんもいるので、そういうことを否定するわけではないです。

――そういうことではなく、もっと平時の時にできたことがあったってことですよね?

石川 できたと思っています。そういったことを地元でやっていくのが本来の屋根屋の仕事のあり方じゃないのかなと。

屋根屋を憧れの仕事にする

石川 色々考えた時に、屋根屋の仕事って何の意味があるのだろうって。この先、続けて良いのかみたいなことを考えていました。今でもこれっていう結論は出ていないですが、屋根を守ることはとても大きな意味があると思っています。

そもそも、一軒家の役割って家に雨漏りをさせないというのが一番大事な機能です。そしてそれを屋根が担っているということは、屋根が家を守っていることになり、では家が守るものは?となったら「その中の家族」を守っていることに繋がる。

その数が増え、街が安定して大きくなると考えたら、屋根屋の仕事というのは「街作り」をしているのかもしれないと思うようになりました。

――すごいですね。屋根をしっかり作ることで街を作っていると。

石川 街を作っているというかは、街を守っているということかもしれませんね。ただそういうことなのかなと思って、その時にやろうと思ったのが「屋根で困っている人の役に立つ」と「地元の役に立つ」という2本の柱です。

そうして地元で予防に取りかかった時に、例えば自分の地元の戸越銀座で、1,000戸の一軒家が、大きな台風で一件も被災しないとなったらそれは屋根屋として「最高の結果」です。それこそ誇れることではないかと思っています。

そしてそれを僕たちだけではなく、他の屋根屋さんもやってくれたらその屋根屋さんがいる町も被災しなくなる。それが、本来の屋根屋の仕事なのでは?ということを模索し続けています。

――なんかカッコイイですね(笑)

石川 (笑)。根本的な理由は「屋根屋カッコイイ」といわれたいと思っているだけです。

なんていうか、子どもから「お父さんって仕事何しているの?」って聞かれた時に「屋根屋」っていったらと「おお!すげーマジで!」みたいなことですね。儲かっているだけではなく、医者やIT関係の社長やっていますというレベルで屋根屋が認識されて欲しいと思っています。

そんな風になったら、例えば僕も三代目なので、四代目が自分の意思でやりたいといってくれるかもしれない。また、僕に限らず屋根屋の後継者問題はあるので、他でも「屋根屋の息子に生まれたなら超ラッキーだよね」ってなったらいいなと。

そんな個人の願望を叶えるためにやっているだけなので、全然すごいことではないと思います。

――共感して「俺らも街を作ろう・守ろう」と思ってもらえるかもしれませんよ?

石川 他の屋根屋の皆さんも、既に考えていると思いますので僕だけではないと思います。

※この記事は、『石川商店ブログ』の記事を再編集したものです。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
屋根防水工事で建屋全焼!? 職人の予想外すぎる行動で大惨事
屋根養生の新提案! 法面屋が教える「雨にも風にも負けないブルーシートの掛け方」とは?
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
フリーライター。
話しやすいと評判のインタビューと、コンテンツマーケティングの知識を活かしたライティングを得意とする。
建設系やHR系の業界で主に活動。読まれ愛されるコンテンツ作りを目指して日々精進。
Twitter:@takashi_okb313
モバイルバージョンを終了