グループ横断で建設技能者の育成へ
ハウスメーカーにとって、工事店・施工店は施工力を確保する点では最重要パートナーと言える。
建設業就業者の高齢化が進む一方で、29歳以下の若年層の入職が少なくこのままでは生産体制を維持する点で課題も多い。
建設業界の各社とも注力しているのが「担い手確保・育成」だ。そこで教育プログラムを確立し、豊富な実技研修により、質の高い技量を持つ建設技能者を育成し続けることが最重要課題と言ってもいいだろう。
そんな中、「へーベルハウス」を提供している旭化成ホームズ株式会社がこのほど、グループ横断で建設技能者を育成する自社施設「旭化成ホームズ建設技術教育センター」を茨城県つくば市に開設した。
今回、このセンター開設の狙い等について同社施工本部の吉田耕司施工技術部長と施工本部教育センター担当の浜田稔氏に話を聞いた。
施工従事者の確保・育成が最重要課題
旭化成ホームズ株式会社施工本部の吉田 耕司施工技術部長
――教育センター開設の経緯からお願いします。
吉田耕司氏(以下、吉田) 「旭化成ホームズ建設技術教育センター」の立ち上げは、施工従事者の確保を目指したものになります。現在、高齢化に伴いリタイアされている方が増えていますが、新規に入職される職人も多いんです。ですが、彼らがなかなか定着せず、数年で退職される方も多い。これは同業他社も同様の傾向だと考えています。野村総合研究所の調査でも今後、住宅着工戸数は減少していくと予想されていますが、現在の職方の増減を見ても、早め早めの対策を講じなければならないと判断しました。
他産業と比較して年々、高齢化が進行している建設業従事者。建設業就業者の高齢化の進行(資料出所 総務省「労働力調査」)
もともと、2015年から木工技能工の早期育成と定着を主な目的とした技能研修所を川崎市に設立し、以降5年間で計80名を受け入れてきました。木工技能工の早期戦力化の実現、年間250棟程度の施工力を確保するなど、着実に成果を上げていますが、これを大きく発展させるため、木工技能工にとどまらず、基礎・躯体、設備配管、そして施工管理と、多岐にわたる建設技能者に対応できる施設へと拡充したものが「旭化成ホームズ建設技術教育センター」となります。
6棟のヘーベルハウスが立ち並ぶ、延床2,500m2の施設
――研修施設はどのような内容になっているのでしょうか。
吉田 延床面積約2,500m2からなる研修施設には、木工事や設備工事の施工研修、施工品質検査などの訓練ができる6棟のヘーベルハウスと、基礎配筋や鉄骨建て方などの実技研修ができる4棟分のスペースを配置した実習ゾーンと、1階に事務所や会議室、サニタリーを、2階に約100名が座学で学ぶことができる研修室を配置した研修棟とを併設しています。
整然とヘーベルハウスが並ぶ実習ゾーン
また、基礎・躯体・木工や配管、そして施工管理まで、様々な工程・職種の技能訓練に対応するほか、当社を含め関連会社、協力工事店など、ヘーベルハウス・へーベルメゾンに関わる幅広い人財をカバーする研修施設であることも大きな特長です。初年度は木工大工50名程度を含む約80名を受け入れるほか、施工管理者などの研修も計画的に実施していく予定です。
しかし、このコロナ禍ですから、現時点では当初の計画を変更し、一部オンラインでの研修を実施しているところです。
さらに技能の習得だけでなく、コンプライアンスやCSなどを含む総合的なコンテンツを座学で学べる充実した教育プログラムを用意することで、新卒者も安心して建設業へ入職できる体制を整えています。
60名収容の研修用ホール
――現在の状況は?
浜田稔氏(以下、浜田) 4月初頭から、旭化成住宅建設株式会社、旭化成ホームズの設備工事店・旭化成ライフライン株式会社、外構工事を担当するAJEX株式会社と関連会社3社の新人研修を受け入れています。新人研修では、木工事以外に配属されるメンバーもいるため、基礎や鉄骨建て方などのさわりの部分について実習を実施しました。5月以降の配属では各グループ会社での育成になりますから、実現場で教えてもらいながら、成長させるカタチで新人指導は進めていくことになります。
5月以降は新人木工担当16名が残っており、引き続き来年の3月までの実習を実施していきます。また、コロナ禍が落ち着き次第、一般工事店の新規大工の育成研修を受け入れる予定です。
旭化成ホームズ株式会社施工本部教育センター担当の浜田稔氏
――研修の期間は。
浜田 木工研修期間は、実習で4週間ほど掛け、石膏ボードなども含めた仕上げまでのワンサイクルを実施します。また、こうした実技に加えて、座学も合わせて実施し、木工事のカリキュラム全体で5週間になります。
建物内部では木工事研修などを実施
技能研鑽だけでなく、人格形成の場でもありたい
――広くて充実した施設ですが、協力会社からも期待が掛かっているのでは。
吉田 このセンターを立ち上げるにあたり、協力会社とも意見交換をしました。その中で、工事店が新規に雇い入れした方を教育することで、長期に渡り会社で勤務してほしいといった具体的なご意見も出てきましたし、5~6月の募集でも多くの協力会社に応募いただき、期待の高さを感じています。
――講師はどのような方が?
吉田 私が施工本部で施工技術部の責任者をつとめていますが、基本的には私の部署から基礎、躯体等それぞれに精通した技術者を派遣しています。
ただ、仕様の考え方などはわれわれで教えられますが、大工となると難しいため、旭化成住宅建設のベテラン社員工に応援に来てもらいます。刻み方や細かな手順など、施工の詳細についてはベテラン社員工ならではの講義をお願いしています。
――これからは多能工の時代という声もあります。
吉田 施工の合理化・省力化を考えた時に、多能工による施工は有効ですし、1人の職方で色々とできれば、着工戸数や物件が減少していく中でも、仕事量を確保することができます。また、管理する工事店からしても管理費も圧縮できる効果もあります。
多能工化は、職方、工事店、旭化成ホームズにとっても有効な手法であると考えます。今、さまざまな職種がある中で、このいくつかの工程をつなぎ合わせることで工期を短縮できるのではないかと検討を開始したところです。
――どのような人材を養成したいですか。
吉田 具体的なプログラムで言えば、基礎、躯体、大工、鉄骨鳶が主要の職種になりますから、基本の教育を徹底したいですね。
また、人格形成も重要で、旭化成ホームズが「へーベルハウス」に対してどのように向き合っているか、このポリシーで我々は仕事を進めることもしっかりと伝え、工事店の職人のモチベーションやロイヤルティーの向上につとめていきたいと思います。
たとえば、高卒で工事店に職人として入社すれば、社会人経験はありません。技能の研鑽だけではなく、人格形成を涵養する場でもありたいですね。