河川付け替えが完了した赤谷川

河川付け替えが完了した赤谷川

災害復旧工事で奮戦する現場監督さんらに話を聞いてきた【福岡県朝倉市】

災害復旧の最前線で日々汗を流す土木屋さん

平成29年九州北部豪雨から4年が経過した。被災した福岡県朝倉市では現在も、国土交通省、福岡県、朝倉市による復旧復興に向けた工事が進められている。

先日、国土交通省の復旧工事を所管する九州北部豪雨復興センターを訪れた。その際、河川や砂防の復旧工事に当たる現場監督さんらに話を聞く機会を得た。

災害復旧の最前線で日々汗を流す土木屋さんの方々に、現場の進捗や苦労話などを聞いてきた。取材には、九州北部豪雨復興センターの職員の方にも加わってもらった。

取材協力者 ※6月下旬取材

  • 松永 篤悟さん 江上建設株式会社建設部長
    (赤谷川流域改良復旧(15号)工事ほか)
  • 工藤 悦史さん 若築建設株式会社福岡支店博多統括作業所工事課長
    (赤谷川流域災害改良復旧及び付帯市道能勝田橋橋台設置外工事)
  • 中村 幸雄さん 飛島建設株式会社赤谷真竹橋作業所長
    (赤谷川災害改良復旧附帯県道真竹橋架替外工事)
  • 住田 知己さん 株式会社森組乙石川上流砂防堰堤工事監理技術者
  • 森山 清司さん 株式会社郷原組課長
  • 川邉 英明さん 国土交通省九州地方整備局筑後川河川事務所技術副所長
    九州北部豪雨復興センター長

河川復旧工事は、降雨による増水に注意が必要

最近の赤谷川。青線はもともとの河川線形(画像提供:九州北部豪雨復興センター)

――河川復旧工事を担当されている監督さんに伺います。それぞれどのような現場ですか?

松永さん(江上建設) ウチが請け負っているのは、松末地区を流れる赤谷川の河川工事で、施工延長約300mの水路工事を行っています。それと、乙石川では、125mの護岸工事をやっています。赤谷川のほうの進捗は、水路内は完成しており、土羽、法面の整形を行っているところです。乙石川のほうはブロック積みが半分ほど終わったところで、あと1〜2ヶ月ぐらいといったところです。

赤谷川のほうについては、もともとの川と水路の線形が、一緒になったり離れたりしているので、川を流れている水を「どうかわすか」に施工管理上、水路の施工中に水が入るリスクがあると感じました。そこで、護岸のウラ側に、仮水路として、1mのコルゲート管を2本埋設して、その中に水を通しながら、水路を施工していきました。施工ヤードが比較的狭かったのですが、仮水路の中から両方の護岸をつくることにしました。

工藤さん(若築建設) ウチは、赤谷川の河川改修工事と、赤谷川に架かる能勝田橋の橋台設置工事をやっているほか、乙石川の河川工事もやっています。赤谷川のほうは、設計の変更がありましたが、比較的順調にきています。

赤石川の施工箇所は、乙石川と合流する地点より500mほど下流の場所なので、降雨があると、水量が増え、現場が水没することがあります。水没を考慮しながら、工事を進める必要があります。自分たちの身も守りながら、工事を進めなければならないのが、苦労しているところです。

乙石川の施工箇所は、川幅は赤谷川の半分程度ですが、勾配がより急なので、雨が降ると、水かさが一気に上がります。降り始めてから逃げていては、全然間に合いません。こちらの現場でも、雨に注意する必要があります。すぐに逃げられる準備をしながら、工事を進めています。

中村さん(飛島建設) ウチの現場は、赤谷川と乙石川の合流部に架かる真竹橋の復旧がメインの現場です。真竹橋とそれに付随する橋2橋を架けています。その前は、乙石川では500mほどの護岸、赤谷川では400mほどの護岸について、復旧工事を請け負っていました。最初は、応急復旧工事のため現場に入っています。

川邉さん(九州北部豪雨復興センター) 飛島建設さんは、一番最初に被災地に入っていただきました。

――そうなんですね。

中村さん(飛島建設) 日本建設業協会のメンバーから選抜されて、朝倉に派遣されたわけです。私は最初に派遣されたメンバーにはいませんでしたが、後で監理技術者として入りました。発災したのが7月上旬で、8月中旬には現場に入りました。一応砂防ということで入りましたが、堆積した土砂の撤去なので、砂防も河川も両方やりました。応急復旧工事では、とにかく「早くやる」ことに主眼をおいて、設計施工というカタチで進めていきました。

川邉さん(九州北部豪雨復興センター) 赤谷川流域は福岡県管理の河川なので、国土交通省には土地カンがありませんでした。権限代行で国土交通省が災害復旧をやることになったので、国土交通省から日本建設業協会に対して、「朝倉の災害復旧工事をできる企業はありますか?」と問い合わせたんです。それで飛島建設さんが現地に入られたんです。

中村さん(飛島建設) 今の真竹橋などの現場も「早くやる」のは当然ですが、「安心安全」にも配慮するよう、前回とは考え方を変えて、工事を進めているところです。昨年11月に受注した現場なので、進捗率はまだ20%ほどです。とくに苦労したということは今のところありません。地元の住民の方も顔見知りの方が多いので、気軽にいろいろ話をさせていただいています。

一目でどこの現場のダンプか特定できるようにする

国交省のゼッケンをつけて疾走するダンプ

――現場で工夫、配慮していることなどはありますか?

松永さん(江上建設) 散水養生は常にやっています。あとは、振動騒音には注意しています。地元の方々には良く話しかけてもらっているので、お話をお伺いしながら、その都度対応していることもあります。

工藤さん(若築建設) 基本的には江上建設さんと同じです。ウチの現場がというよりは、災害復旧に携わる業者全体として、小学生の通学時間帯は、大型車両を入れないようにするとか、周りの安全や環境に配慮した現場づくりを心がけています。

中村さん(飛島建設) 被災地では、国交省以外にも、福岡県や朝倉市発注の現場が動いています。私が「スゴイな」と思うのが、他の発注者の現場も含めて、国交省さんがリーダーシップをとりながら、安全や環境に配慮した現場づくりをされているのですが、それが非常に徹底されていることです。

例えば、国交省発注工事のダンプは、フロントに番号をつけています。その色や番号を見るだけで、「あれはどこの現場のダンプだ」というのが、わかるようになっているんです。私が最初に被災地に入ったときは、そういうのはありませんでしたが、途中で工夫されたんだと思います。地元の住民の方々も安心しているようで、素晴らしい取り組みだと思っています。

砂防復旧工事では、土砂崩れなど二次災害対策が必須

建設中の砂防堰堤

――砂防復旧工事の監督さんに伺います。それぞれどのような現場ですか?

住田さん(森組) 現場は、乙石川の一番上流に位置しており、本川の中に砂防堰堤をつくる工事をやっています。本川内に砂防堰堤をつくるのは、赤谷川流域では初めてです。乙石川は急勾配なので、雨が降ると一気に水が出てくるので、水の切り回しに非常に神経を使います。口径1000ミリのパイプ4本で水を切り回して、堰堤を半分ずつつくっています。

現在は左岸側(上流から見て左側)の半分の堰堤が天端まで上がっています。現在、右岸側の山の状態が不安定になっているので、その部分の斜面対策工について、国交省さんのほうで設計していただいているところです。対策が完了した後、右側半分の堰堤をつくることにしています。なので、今堰堤工事は止まっている状態です。

川の上流の左岸側に大きな崩落地があります。その崩落地を100mほど上がったところで法面対策を行っています。モノレールを設置して、ロックボルトを485本打設しました。あとは、砂防堰堤のさらに100mほど上流で、管理用道路の施工も行っています。全体の進捗率としては63%ほどになっています。

森山さん(郷原組) ウチでは、小河内川の小河内地区で砂防堰堤をつくっています。この場所は地盤があまり良くないので、コンクリートやセメントなどではなく、2717個のメガタンブロックを使って堰堤を製作しているところです。今のところ、1650個の設置が完了しており、堰堤自体は78%ほどの進捗となっています。

小河内地区の奥のほうも、変位が見られ、あまり地盤が良くないということで、斜面対策として1640mの排水ボーリングを5箇所で行っています。これまで925mの削孔が完了しており、進捗率は60%となっています。堰堤完成後、管理用道路として利用する工事用道路の整備も行っています。

被災した箇所での作業になるので、現場に入るときに、まず作業員さんなどの避難場所を選定しました。それから、どういった基準で警報を出すかとか、土石流などが発生したことを知らせるセンサーをどこに設置するかといったこともやりました。出水期に合わせて、水をかわすとか、水を流す作業を前に持っていくため、工程変更の検討を行いました。

あとは、昨年度にコンクリートの砂防堰堤をつくったのですが、クレーンでコンクリートを打設する際、作業員さんの頭上をクレーンが旋回すると危ないので、コンクリートポンプ車での施工を国交省に提案し、承諾していただきました。

砂防工事に精通した監督職員を招集

――過去に砂防堰堤をつくったことはあるのですか?

住田さん(森組) 以前、和歌山で災害が起きたときに、砂防堰堤をつくったことがありますが、それだけです。工事そのものがあまり出ないんです。

森山さん(郷原組) 福岡県発注の砂防ダムを数件つくったことがあるぐらいです。住田さんがおっしゃった通り、九州では、砂防工事はあまり出ません。

――あまり経験がない中で、砂防工事をするのは大変ではないですか?

森山さん(郷原組) 監督職員さんが砂防堰堤の施工に関するノウハウをかなり持っておられるので、工事できているところがあります。かなり親身になって、ご指導いただいており、感謝しています。

住田さん(森組) 施工手順はもちろんですが、災害復旧で砂防工事を行う場合、現場自体が二次災害の危険を常に抱えており、非常に危ない場所での作業になるわけです。どういう危険があるのか、先読みできるだけには、ある程度の経験がないと難しい面があると思っています。

――砂防工事のノウハウを持った職員さんを招集したのですか?

川邉さん(九州北部豪雨復興センター) 中国地方整備局で災害復旧の現場にずっといた職員が今、こちらの現場を担当しています。その他にも、ずっと砂防をやっていた職員が何名がいて、そういった職員をココに集めているんです。

砂防工事でも周辺住民とのお付き合いは大事

――砂防工事の場合、周辺に住民などが暮らしていることはあるのですか?

住田さん(森組) 今、人は住んではいませんが、現場近くに住宅があったりはします。住宅は解体することになっているそうです。その住宅のそばに祠があって、それを解体するときは、住民の方々にちょっとしたお食事を出したりして、お付き合いしたことはあります。住民の方からは「祠があったから、住宅は助かった」というお話を伺いました(笑)。住宅を解体するので、「少し道をつくって欲しい」などいろいろな要望を出されることもあります。そこはすべて協力することにしています。

森山さん(郷原組) ウチも森組と同じ状況で、現場の近くに解体待ちの住宅があります。たまに住人の方々が家にモノを取りに帰りに来られたりしています。その一家のお墓も近くにあって、掃除に来たりしていらっしゃいますので、そういうときに世間話をさせていただくことはありました。一昨年現場に入ったときは、現場の近くに公民館のような施設があって。そこで地元の秋祭りが開かれたので、祭りのために工事を止めたことがありました。

――お忙しいところ、貴重なお話ありがとうございました。

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