長期的視野に立った「土木の俯瞰図」を市民とともに描く
公益社団法人土木学会(谷口博昭会長)は9月6~10日の5日間、「これまでも、これからも生活経済社会の礎を築く土木~市民と連携し、土木のビッグ・ピクチャーを描こう~」をテーマに、オンライン形式で開催する2021年度の全国大会のプログラムを決定した。
8月23日に、大会実行委員長をつとめる国土交通省関東地方整備局の若林伸幸局長と、幹事長をつとめる東海大学の杉山太宏工学部土木工学科教授の両者がさいたま市内の関東地方整備局内で詳細なプログラムを発表した。
会場は神奈川県平塚市の東海大学湘南キャンパス1、2号館。クリエイター向け動画共有サイト「Vimeo」で生配信し、視聴は無料。
若林委員長は、「人口減少・少子高齢化、経済再生・脱デフレ促進、国土強靭化など、時代の要請に対応したインフラの整備・保全を進めていくためには、長期的な視野に立ったビッグ・ピクチャー(全体俯瞰図)を市民の理解や協力を得ながら策定しようというメッセージが込められている」と語った。
オンライン開催で、土木学会員以外の参加促進
谷口会長は、8日の午前9時35分から、「これからの暮らし、経済とインフラのビッグ・ピクチャー ~開かれた魅力あふれる土木学会を目指して~」をテーマに基調講演する。
人口減少や少子高齢化、グローバル化やIT、DX(デジタルトランスフォーメーション)、地球環境問題、エネルギー制約など大きな変化がみられる中、開かれた魅力あふれる土木学会を目指し、経済とそれを支えるインフラのビック・ピクチャーを策定する必要性について講演を行う。
土木学会全国大会のポスター
同日午前10時50分から、特別講演として涌井史郎氏(東京都市大学特別教授・造園家)による「持続的未来を確かにするグリーンインフラへの展開」、同日13時から、梅澤和夫氏(東海大学医学部救命救急医学)による「災害派遣医療現場及び新型コロナ感染症の現状」について講演を予定。
また全体討論会では、同日午後2時10分から、新型コロナウイルスが社会に及ぼした影響や新しい生活様式、市民との協働などを考慮した上で、今後のインフラのビッグ・ピクチャーと社会に果たすべき役割について、コーディネーターである福田敦氏(日本大学理工学部交通システム工学科教授)と5人のパネリスト・五十嵐秀氏(小田急電鉄株式会社常務取締役執行役員)、佐藤亮一氏(神奈川県庁県土整備局技監兼都市部長)、浜田沙織氏(株式会社ワーク・ライフバランス執行役員)、浜田誠也氏(パシフィックコンサルタンツ株式会社プロジェクトイノベーション事業本部顧問)の各氏が議論する。
さらに、オンライン見学会として、同日午後12時から「令和元年東日本台風」で被災した箱根登山鉄道及び国道138号の復旧までの状況を現地での事前収録動画等を用いてオンライン配信する。
2020年度の「土木学会全国大会 in 中部」もオンラインで実施されたが、今年もコロナ禍でもあり、同様の形式となった。昨年はウェブでの参加が3万3,000人。「土木学会員だけではなく、一般の市民の皆様にも土木を理解していただくために、なるべく多くの方が視聴いただけるようにしっかりとPRしたい」(若林実行委員長)
「オンライン形式でもメリットがある。通常、遠方で参加しにくいことも、オンラインであれば入りやすい」(杉山幹事長)
幹事長をつとめる東海大学の杉山太宏工学部土木工学科教授
また、今年の全国大会で大きなテーマは『ビッグ・ピクチャー』だ。
「今、コロナ禍で閉塞感が漂っている。しかし土木やインフラの重要性が失われることなく、現場でもハード・ソフトの業務を進めている。こうした中で将来的にどういったものを目指すのかについて具体的に提示することが必要であり、それがビッグ・ピクチャーにつながる」(若林実行委員)
「この大会のテーマをどうするかという点について谷口会長にご相談を申し上げた時に、まず一言目に”ビッグ・ピクチャー”と仰られた。趣旨としては、国、まちの将来像に基づくインフラ計画では、効率的な整備保全を行うことが肝要だ。その内容を市民に事前にオープンにして、みんなで考えていくことが重要であることを谷口会長は発信している。
それはイメージだけではなく予算面、投資額も加えて一緒に議論することについても言及されているので、その点がビッグ・ピクチャーに込められた思いだろう。大きい仕事をする上では、まずはビッグ・ピクチャーから始めていくことが重要であると認識している」(杉山幹事長)
ビッグ・ピクチャーの思想は日本全体へと
ビッグ・ピクチャーは土木学会に限らず、日本全体で今後、重要な役割を持ってくるのではないだろうか。個別の詳細な議論から始めるのではなく、まずは全体的な俯瞰図の構成がありきだ。さらに、ビッグ・ピクチャーは個別の学会や行政に留まることなく、国のあり方全体へと拡大していくことになろう。
関東地方整備局内で開催された全国大会に関する記者会見
「”流域治水”プロジェクトや”防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策”は、我々国土交通省としてもあらゆる機会を通じてしっかりとお示しすることで、市民の皆様がインフラの重要性についてご認識いただけると思う。
特にこれだけ毎年、災害に襲われている中、市民も漠然とした不安をお持ちではないか。我々としては、ビッグ・ピクチャーの思想、具体的な国の施策や成果も含めて、将来像を明確にしていくことで、建設業者も将来を見渡せる経営計画が可能になる。
ビッグ・ピクチャーの思想については本大会一回、限りではなく、さらに進化させるために国土交通省としても継続的に取り組んでいきたい」(若林実行委員)