埼玉県・草加市に建設された初の「LCCM賃貸集合住宅」

埼玉県・草加市に建設された初の「LCCM賃貸集合住宅」

【大東建託】日本初脱炭素住宅「LCCM賃貸集合住宅」が完成。国の基準制定に弾み

「LCCM」普及のきっかけとなるか

大東建託株式会社は、京セラ株式会社の太陽光発電システムを採用した、脱炭素住宅「LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)賃貸集合住宅」を開発。2021年6月に埼玉県・草加市で完成した。大東建託によると、LCCMの基準を満たす賃貸集合住宅は、日本で初めてのことだ。

LCCMの基準や認定制度がある戸建て住宅とは異なり、集合住宅ではLCCMの基準は整備されていない現状にある。そんな中、集合住宅でもLCCM基準を達成した意味は大きい。

今回、ハードルも高い賃貸集合住宅でLCCMを完成したポイントについて、大東建託の技術開発部環境企画課の大久保孝洋課長に話を聞いた。

CO2排出量をマイナスにする脱炭素住宅

大東建託株式会社の技術開発部環境企画課の大久保孝洋課長

――日本初となった脱炭素住宅「LCCM賃貸集合住宅」の概要について教えてください。

大久保孝洋(以下、大久保) この「LCCM賃貸集合住宅」は、建設、居住、解体の時点でCO2削減に取り組み、さらに太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーの創出により、建物のライフサイクルを通じて、CO2排出量をマイナスにする脱炭素住宅です。創出された再生可能エネルギーは電力会社を通じて、当社の建築現場に供給することで、事業運営に使うエネルギーの100%を再生可能エネルギーのみで調達する試みです。

「LCCM」住宅概念図

ちなみに、この「LCCM」は戸建て住宅にしか基準がありません。その理由は、賃貸住宅は出資者と受益者が異なりますから、ニーズが一致しない面があります。当社では集合賃貸住宅にもいずれは基準が波及すると考えている一方、国の判断を待っていては、なかなか進まないと思い、集合賃貸住宅でもLCCMが可能であることをまずは実績として作ることをまずは目標としました。

普及させるためには、「LCCM賃貸集合住宅」を実証することが重要であり、国も「LCCM賃貸集合住宅」への基準設定をはじめとする取り組みも加速するのではないかという期待のもと、今回、埼玉県・草加市で建設し、このほど完成しました。

とはいえ、戸建て住宅の基準をそのまま集合住宅へ転嫁する計算方式では論拠が乏しいため、2014年より建物の一生を通して発生する環境負荷量を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)の共同研究を行ってきた県立広島大学生物資源科学部生命環境学科の小林謙介准教授にも加わっていたただき、精密に算定を進めていきました。

今後は、「LCCM賃貸集合住宅」の普及に積極的に取り組み、2030年までに当社の賃貸住宅の居住時に排出されるCO2排出量の16%削減をめざします。


コストは太陽光を除き約10%増

――コストアップの部分は。

大久保 太陽光パネルを除いて、およそ10%弱増しで、金額にして350万円増です。断熱工事やサッシ工事についてはほぼ変わりはありませんが、2階の天井のグラスウール量を2倍にしていること、屋根形状も構造変更しており、太陽光パネルを設置する金具などにもコストが掛かりました。

建設で導入した資材も、リフォーム時を見据えて、耐久性が高く交換しやすいものとし、炭素量発生の軽減をめざしています。代表的なものはフローリングです。修繕時ではすべて張り替えるのではなく、部分的で済むようにしています。

また、当社グループのサブリース契約では、賃貸集合住宅35年間一括借り上げで、太陽光発電のパワーコンディショナーは2回交換を考えておりますが、ソーラーパネルの交換は見ていません。

――国土交通省には報告はされましたか。

大久保 計画当初から国土交通省と情報共有をし、完成後にも報告に上がりました。ただ、私が報告した国土交通省の別の部局からも質問があり、詳細な資料もあわせて同様に情報共有しました。その中で補助金や制度設計についても関心を寄せられたことの意味は大きいと感じました。

国土交通省からは、この草加市の建物をどういう定義づけで「LCCM賃貸集合住宅」としたのか、さらに建物の着工費用についてもヒアリングされましたので、お答えしました。

「LCCM」で建設業界の先陣を切る

――「ZEH」(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)や「LCCM」賃貸住宅での施工はいかがですか。

大久保 両者とも、施工が難しいということや気を付けることはほぼありません。ただし、「LCCM」の場合は、材料を細かく指定しています。たとえば、外壁の種類は製造過程で、木質を含んでいるかいないかにより、CO2の発生量が異なります。

ですから、現場監督も材料は通常メーカーのものと考えると間違えますから、外壁種類のリストを明確に指示したことが施工面の注意点と言えます。

――今回、草加市で1件建設しましたが、次の展開は。

大久保 現段階は、この草加市の物件でも「LCCM」と当社では発表していますが、公的機関のお墨付きはまだありません。国の基準が戸建て住宅かそれとも「ZEH-M」レベルかで取り組みやすさは変わっていきます。とはいえ建設業界では先陣を切りたいとの自負は持っています。

再エネ100%で建設した北名古屋市の物件

――ほかの改善点はありますか。

大久保 次に経済産業省です。住宅用の太陽光発電などの再生可能エネルギーで作られた電力を国が定めた価格で電力会社などが一定期間買い取るというルールを定めた「固定価格買取制度(以下、FIT制度)」が導入されています。

しかし、2020年度から全量売電ができなくなりました。10kw以下であれば一部自家消費するだけで余剰売電ができますが、10~50kw以下であれば、30%を自家消費しなければなりません。そこで「LCCM」で太陽光パネルを最大限設置すると、自家消費割合は下がるためFIT制度は使えません。

ビジネス化のためには電気を売っていくことが大切です。今回は、FIT制度を使わずに実施していますが、今の段階では、太陽光パネルを搭載する量が増えれば、自家消費の割合も増加しますので、この問題をクリアしないといけません。


公共施設、企業の社員寮などにも適用を

――公共もしくは準公共的な施設への導入する意欲は。

大久保 考えています。「脱炭素社会」というキーワードがより響く相手は、国や地方自治体、企業だからです。

世界的にも、環境面を意識しないと大手企業は淘汰されていく時代になっているので、たとえば社員寮を「LCCM」で建設することで、脱炭素をアピールする企業も出てくるのではと考えています。

――こうした環境配慮型住宅開発も、一朝一夕ではなかったと思います。

大久保 国の建築物省エネ法に基づき、当社は2016年に省エネ基準100%適合し、賃貸住宅は標準で「断熱等性能等級4」、「1次エネルギー消費等級5」の省エネ性能を実現しています。2017年には日本初の「ZEH」賃貸集合住宅を完成させました。

当社のアドバンテージは、木造2×4工法に強いことにあります。木の熱伝導率は鉄と比較して、1/300~1/500と熱が逃げにくい。さらに工法は床、壁、天井の接合面を密着させる気密性が高い壁式構造となっている点も、木が本来持っている断熱性を活かした住宅に強みがあると言えます。

さらに2010年には、遮熱・断熱性の高い「Low-E複層ガラス」を全棟標準導入し、外壁もグラスウール、防湿シート、石膏ボード、通気層、構造材面材、透湿防水シート、防火サイディングなど多層構造としているため、四季を通じても快適な住環境を保全しています。ほか、省エネでの取り組みも外構を含めてすべての住宅設備でLED照明を標準装備するなどの取り組みをしてきました。

――その中でも「ZEH賃貸集合住宅」の開発・完成は大きなトピックスですね。

大久保 そうですね。「ZEH賃貸集合住宅」では、省エネ開発の取り組みに、太陽光発電による創エネルギーをプラスし、「生活時の省エネルギーをゼロ」としました。現在、累計204棟1,400戸の契約実績があります。

「ZEH」でも「LCCM」でも同様ですが、戸建て住宅と比較すると1住区あたりの面積が集合賃貸住宅のほうが不利になります。たとえば、戸建て住宅ですとおよそ4LDKですが、集合賃貸住宅であれば最大2LDKとなり、どうしても屋根面積も小さくなります。これが3~4階建てになるとさらに不利になりますから、国も共同住宅向けの「ZEH-M」という基準を設けています。

こうした背景から、戸建て住宅の基準である「ZEH」を満たすことは非常に困難でしたが、屋根面に最大限、太陽光パネルを設置し、達成できことは大きな意味がありました。

――オーナーの声は。

大久保 私としては、オーナー様から「ぜひ省エネ賃貸住宅を建設したい」というお声が上がることを望んでいますが、みなさん不動産賃貸業として行っていますので、あくまで着目されるのは事業性です。「ZEH」も費用対効果が上がれば自然にニーズは高まると思います。トータル的には事業性の観点からは効果がありますが、賃貸住宅の総工費がアップすると金融機関からの借り入れも増えますので、「やるかやらない」のジャッジもあります。

これが自宅であれば自身の判断によって決めますが、賃貸であればイニシャルコストなどの計算も複雑になりますから、オーナー様も即決というわけにはいかないと思います。

大東建託グループの環境戦略

――今回の取り組みにより、環境戦略としても前進したと言えるのではないでしょうか。

大久保 大東建託グループでは2050年までを視野に入れた新・環境経営戦略を策定しています。この中核となる「DAITO環境ビジョン」の具体的な展開として、建築、暮らし、ごみ、企業、自然や人の6つの領域の取り組みを推進しています。

世界的な環境的な取り組みでは「SBT」企業版2℃目標)があり、この認定を当社グループが受けたのが2019年です。次に、企業の再生可能エネルギー100%を推進する国際ビジネスイニシアティブで、世界的な大企業も参加している「RE100」や、2017年度比で事業のエネルギー効率を倍増することを目標に掲げる「EP100」、それを投資家に一定のルールに基づいて公表する「TCFD」にも加盟しており、この4つに加盟・宣言している企業は、非常にまれです。「SBT」を2.0℃基準から1.5℃基準に見直したという部分も評価していただけるのであれば、4冠は国内企業唯一と言えます。

これらを宣言したからには達成する必要がありますので、環境への取り組みを強化しているところであり、今回の「LCCM」の件はまさにその一環です。

――今回、県立広島大学の小林准教授の評価は。

大久保 やはり第三者的な評価をしていただくことの意味は大きいと思います。小林准教授とは、新築から解体廃棄までの建物の一生を通して発生する環境負荷量を評価する手法である、「LCA」(ライフサイクルアセスメント)に関する知見や蓄積について共同研究を重ねており、この研究を経て、高気密・高断熱などの省エネルギー、材料の生産方法の工夫、太陽光発電システムの導入などにより、「LCCM」の達成が可能と評価いただいたことは大きな意味を持ちます。

また、本件は『集合住宅におけるライフサイクルカーボンマイナス達成可能性に関する検討』として、小林先生から日本建築学会の論文誌に投稿いただき、査読も完了して、2022年2月号に掲載されることが決定しています。

――今後はいかがでしょうか。

大久保 「ZEH」の目指すところは脱炭素社会ですが、省エネ基準の計算はエネルギーベースです。一方、「LCCM」はエネルギーではなく、炭素量ベースの計算であり、これこそが国の目指すところの到達点です。

今回の集合住宅で前例をつくったことをきっかけに、簡単に計算できる仕組みを作成していけば、集合住宅でも「LCCM」は一気に普及するのではと考えています。

当社での計算方式も、国土交通省に開示しているので、脱炭素社会の実現に寄与できれば幸いです。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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