公共施設、企業の社員寮などにも適用を
――公共もしくは準公共的な施設への導入する意欲は。
大久保 考えています。「脱炭素社会」というキーワードがより響く相手は、国や地方自治体、企業だからです。
世界的にも、環境面を意識しないと大手企業は淘汰されていく時代になっているので、たとえば社員寮を「LCCM」で建設することで、脱炭素をアピールする企業も出てくるのではと考えています。
――こうした環境配慮型住宅開発も、一朝一夕ではなかったと思います。
大久保 国の建築物省エネ法に基づき、当社は2016年に省エネ基準100%適合し、賃貸住宅は標準で「断熱等性能等級4」、「1次エネルギー消費等級5」の省エネ性能を実現しています。2017年には日本初の「ZEH」賃貸集合住宅を完成させました。
当社のアドバンテージは、木造2×4工法に強いことにあります。木の熱伝導率は鉄と比較して、1/300~1/500と熱が逃げにくい。さらに工法は床、壁、天井の接合面を密着させる気密性が高い壁式構造となっている点も、木が本来持っている断熱性を活かした住宅に強みがあると言えます。
さらに2010年には、遮熱・断熱性の高い「Low-E複層ガラス」を全棟標準導入し、外壁もグラスウール、防湿シート、石膏ボード、通気層、構造材面材、透湿防水シート、防火サイディングなど多層構造としているため、四季を通じても快適な住環境を保全しています。ほか、省エネでの取り組みも外構を含めてすべての住宅設備でLED照明を標準装備するなどの取り組みをしてきました。
――その中でも「ZEH賃貸集合住宅」の開発・完成は大きなトピックスですね。
大久保 そうですね。「ZEH賃貸集合住宅」では、省エネ開発の取り組みに、太陽光発電による創エネルギーをプラスし、「生活時の省エネルギーをゼロ」としました。現在、累計204棟1,400戸の契約実績があります。
「ZEH」でも「LCCM」でも同様ですが、戸建て住宅と比較すると1住区あたりの面積が集合賃貸住宅のほうが不利になります。たとえば、戸建て住宅ですとおよそ4LDKですが、集合賃貸住宅であれば最大2LDKとなり、どうしても屋根面積も小さくなります。これが3~4階建てになるとさらに不利になりますから、国も共同住宅向けの「ZEH-M」という基準を設けています。
こうした背景から、戸建て住宅の基準である「ZEH」を満たすことは非常に困難でしたが、屋根面に最大限、太陽光パネルを設置し、達成できことは大きな意味がありました。
――オーナーの声は。
大久保 私としては、オーナー様から「ぜひ省エネ賃貸住宅を建設したい」というお声が上がることを望んでいますが、みなさん不動産賃貸業として行っていますので、あくまで着目されるのは事業性です。「ZEH」も費用対効果が上がれば自然にニーズは高まると思います。トータル的には事業性の観点からは効果がありますが、賃貸住宅の総工費がアップすると金融機関からの借り入れも増えますので、「やるかやらない」のジャッジもあります。
これが自宅であれば自身の判断によって決めますが、賃貸であればイニシャルコストなどの計算も複雑になりますから、オーナー様も即決というわけにはいかないと思います。
大東建託グループの環境戦略
――今回の取り組みにより、環境戦略としても前進したと言えるのではないでしょうか。
大久保 大東建託グループでは2050年までを視野に入れた新・環境経営戦略を策定しています。この中核となる「DAITO環境ビジョン」の具体的な展開として、建築、暮らし、ごみ、企業、自然や人の6つの領域の取り組みを推進しています。
世界的な環境的な取り組みでは「SBT」企業版2℃目標)があり、この認定を当社グループが受けたのが2019年です。次に、企業の再生可能エネルギー100%を推進する国際ビジネスイニシアティブで、世界的な大企業も参加している「RE100」や、2017年度比で事業のエネルギー効率を倍増することを目標に掲げる「EP100」、それを投資家に一定のルールに基づいて公表する「TCFD」にも加盟しており、この4つに加盟・宣言している企業は、非常にまれです。「SBT」を2.0℃基準から1.5℃基準に見直したという部分も評価していただけるのであれば、4冠は国内企業唯一と言えます。
これらを宣言したからには達成する必要がありますので、環境への取り組みを強化しているところであり、今回の「LCCM」の件はまさにその一環です。
――今回、県立広島大学の小林准教授の評価は。
大久保 やはり第三者的な評価をしていただくことの意味は大きいと思います。小林准教授とは、新築から解体廃棄までの建物の一生を通して発生する環境負荷量を評価する手法である、「LCA」(ライフサイクルアセスメント)に関する知見や蓄積について共同研究を重ねており、この研究を経て、高気密・高断熱などの省エネルギー、材料の生産方法の工夫、太陽光発電システムの導入などにより、「LCCM」の達成が可能と評価いただいたことは大きな意味を持ちます。
また、本件は『集合住宅におけるライフサイクルカーボンマイナス達成可能性に関する検討』として、小林先生から日本建築学会の論文誌に投稿いただき、査読も完了して、2022年2月号に掲載されることが決定しています。
――今後はいかがでしょうか。
大久保 「ZEH」の目指すところは脱炭素社会ですが、省エネ基準の計算はエネルギーベースです。一方、「LCCM」はエネルギーではなく、炭素量ベースの計算であり、これこそが国の目指すところの到達点です。
今回の集合住宅で前例をつくったことをきっかけに、簡単に計算できる仕組みを作成していけば、集合住宅でも「LCCM」は一気に普及するのではと考えています。
当社での計算方式も、国土交通省に開示しているので、脱炭素社会の実現に寄与できれば幸いです。