土杭を巻き込んだ工事現場の近くにある愛宕神社

「またかよ!」都市土木工事で“未確認物体”に遭遇して大型連休を返上した件

東京都港区で土木工事が中断したワケ

昔、東京都港区の現場施工で、こんなことが起こりました。

施工場所は、有名な戦国大名の屋敷跡に近接した道路。その直下に管路径約2メートル以下の管路を、推進工法(元押し工法)によって埋設する工事でした。管路を埋設していく途中で、推進機の先端が“何か”を巻き込み、工事を中断せざるを得なくなったのです。

つい先日まで大林組が施工していた「東京駅丸の内駅前広場」でも、身元不明の埋設物(土留め)が発見されて工期を延長する事態になったそうですが、私の経験上、東京都心の地下には「未確認物体」がよく埋まっています。

大型連休もみんなで仕事

ご存知の通り、東京の町づくりは徳川家康の入府に伴い、現在の千代田区を中心に墨田区、中央区、港区の入江などを埋立てることで進められてきました。

当時、江戸幕府から参勤交代を義務付けられていた大名たちは、そうした土地に屋敷を構えて、江戸在府における宿泊施設としました。場所によっては、地盤の悪い埋立地もあり、屋敷の沈下等を防ぐために、建物を支える土杭を密に打ち込む対策がされております。

私が経験したこの現場では、その江戸時代に打ち込まれたと考えられる土杭(木杭)を推進機が巻き込んだのでした。そのため、これ以上工事を進めることが出来なくなり急遽、推進機の先端に絡まった土杭の取り出しに取り掛かることになりました。

ちょうど大型連休の前であったことから、元請社員の方々や現場作業に従事されていた作業員の方々が、休日返上で土杭の取り出しに尽力しました。そして大型連休明けには、推進機を使用することが出来るようになり、引き続いて管路埋設工事を再開しました。

しかし、埋設物を目視確認することが出来ない状況の中での施工が続き、「再び土杭に当たるのではないか」という心配が、竣工まで消えることはありませんでした。


工期厳守のプレッシャーと戦う土木工事

土杭を巻き込んだ現場付近の今

この工事では、土杭を取り除くことが可能だったので、無事に工事を竣工させることができましたが、万一、推進機中の後続設備を解体して、土杭の処理ができなかったとしたら、施工途中の推進機と施工済みの管路を残置させて、新たに段取り替えをしなければなりませんでした。もしそうなっていたら予算も膨らみ、工期も厳守することが困難になっていたことでしょう。

また、地上から10メートル以深まで開削して、推進機と埋設管を掘り出さなければならない状態だったら、近接建物の沈下や、クラック発生等の影響、それに伴う保証問題等も発生するという2重、3重のリスクも配慮しなければならなかったかもしれません。状況によっては、その場所での工事自体が不可能になり、計画の見直しをせざるを得ない可能性もありました。

都市土木工事で注意すべきこと

土杭自体は、道路よりもかなり下の方に埋設されていたことから、江戸時代の地盤をさらに埋め立てて整備されていたと推定することができました。

後日、港区図書館で調べたところ、この工事現場は江戸時代に、三万石以下の大名並びに幕府直参の旗本屋敷跡地であることが確認できましたが、江戸時代に施工された土杭が具体的にどのようなものであったかまでは、残念ながら確認することができませんでした。

工事発注の前段として、外注による設計委託業務を実施したわけですが、都内や旧埋立地における比較的浅い場所での推進工事、シールド工事を予定する場合には、委託業務の中に古地図等による地形確認業務等を含めて実施することが必要だと思われます。

実際、隣接する建築現場でもかなり多くの土杭が出てきて、その処理に苦労されていました。また伊達家下屋敷周辺における遺跡調査等でも土杭が出ています。

その他の埋立した場所でも、工事中に江戸時代の川を埋立た場所であることがわかり、船着き場跡で船を停泊するための木杭が残されていたという事例や、貴重な井戸遺構が工事中に出てきたという事例があります。

私も旧東京都庁の跡地に建設した東京国際フォーラムの現場では、工事中に江戸城の石垣遺構が広範囲に発掘され、調査のために長期に渡り工事を中断せざるをえなかった経験があります。私が経験した今回のケースは、ちょとした配慮がトラブルを救うということを経験できた恰好の事例でした。

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工業高校土木科卒業後、某有名企業にて土木・電気の仕事に約30年間従事し、その間に爆発事故と過労で4度死にかけたが、どうにか“九死に一生”を得た。その経験から宗教に興味を持ち、社会人入試で大学に入り神道を学ぶ。 卒業後、再び土木関係の仕事に関わるが、現在は健康管理も兼ねて自由気ままに全国を旅して回っている。現場復帰するか検討中。神職資格を持つ土木技術者。
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