「現場管理者は職人より上」は間違っている

「現場管理者は職人より上」は間違っている

現場に響き渡る声 「ふざけんなよ!」

昨年まで、私は畑違いのプラント現場の中で、安全専任の仕事をしていた。建築の施工管理が本職だが、良い経験になるだろうと思い、安全専任の仕事を約2年間経験した。

この経験で、安全確保のためには何をどうしなければならないか、現場の人間にどう伝えるのが効果的かなど、以前よりアイデアが豊富になったのは自分自身でも良く分かる。

施工管理の仕事が長いからか、安全専任の仕事をしていても、どうしても施工のほうも気になってしまう。

昨年までいたプラントの現場では、施工指示を与えてる現場管理者の話を聞き、『それでいいのかな?あれが抜けてるんじゃないかな?』『もっと詳しく作業員に説明しないと、勘違いするのではないか?』と思うことも多々あった。

そんなことを感じていたある日、心配していたことが起きた。


若手管理者の大失態。職人が大激怒

「ふざけんなよ!」

ある日、一人の職人が、若い現場管理者に何やらすごい剣幕で怒鳴っている。

「あの時どうやるのか聞いて、このやり方でいいか?と聞いたら、アンタはそのやり方でいいって言ったよな?!それを2週間経って、ほとんど終わりかけてる今になって、やっぱりそうじゃない!こうしなきゃダメだ!って、あたかも俺たちが間違ったような言い方をするのは、あまりに滅茶苦茶でひどいじゃないか!全部やり直しになるぞ!それでもやるのか?ふざけんじゃね〜ぞ!」

今にも掴みかからんばかりの勢いだ。実は、この若手管理者と職人が2週間前に話していたのを、少しだけ私も聞いていた。

職人が、電気ラックに敷設するケーブルを場所別にどうやってラックに固定するのか質問をしたのだが、私の印象だと、この若手管理者は、職人の質問内容をよく理解できていなかったのではないかと思う。

これは往々にしてあることで、管理者が「よく分からないので詳しく教えてほしい」と、その場で作業員に聞いて理解しようとしていれば、問題は起こらなかったはずだ。

しかし、この若手管理者は、”この程度のことは知ってて当然”のような言い方を作業員からされ、ついつい見栄を張ってしまい、知ってるか如くその場でYES!と言ってしまったのだろう。

どうやら、今回はその返答が間違っていて、後々になって「前はこう言ったけど、やっぱりこうしてくれ!」と作業員に伝えるはめになってしまったようだ。

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自分のミスを謝りもしない若手管理者

訂正がすぐならまだいいのだが、時間が経てば経つほどその弊害は大きくなる。職人の言う通り、2週間はあまりにも遅すぎる。

更に、訂正する時の、若手管理者のモノの言い方にも問題があった

若手管理者が間違ったのは事実で、本来であれば素直にそれを認め、謝り、それから新たな指示をすべきだろう。しかし、この若手管理者は自分の過ちを認めず、謝りもせず、当然の如く新しい指示を出し始めたのだ。

そんな態度では、誰だってカチンとくる。こうなると、管理者と職人の関係は悪化していく一方だ。

どんな経緯があろうと、最終的には作業員側が折れる場合が多い。だが、それは気持ちが収まったわけではなく、それ以降、作業員は管理者を避け、話も一切せず、確認したいことがあれば別の管理者に聞くようなことが増える。

そんなことが多い管理者は、作業員からの信頼を失い、指示を出しても聞いてもらえなくなり、無理なお願いごとなどは、まず受け付けてもらえないだろう。

現場管理者側の人間はそうならないように、作業員に対して結論を出す時は、一言一言ゆっくり考えながら話をして欲しい。

こんな失敗は誰にだってある。もちろん私にもある。間違ったらすぐに謝って、訂正するしかない。もしそこで罵倒されることがあったとしても、それはそれで受け止めるしかない。

“新人いびり”で有名な職人

逆に、意地の悪い作業員がいることも事実だ。

若手でまだ仕事がよく分からない管理者に対し、わざと専門用語で話して話を難しくし、ベテランでさえも返事に困るようなことを聞いて来るような輩もいる。若手が返答に困ってるのを見て、それを楽しんでいるのだ。

そういう扱いを受けた若手管理者が、私に泣きついて来た時があった。私は、すぐにその作業員のところに行き、こう伝えた。

「○○さん、そんな難しいこと即決で答えろなんて無理言わないで下さいよ。誰だって新人の頃は何も分からないんだから、逆に知識が豊富な人が優しく教えてあげてもらえませんか?」

そう言うと、ちょっとしどろもどろしながら作業員はこう答えた。

「分かったよ!俺は別にイジめたわけじゃないよ!現場管理する人間なら、この程度のことは分かるだろうと思って聞いただけだよ!」

チラッと若手を見ながら、作業員はこう付け加えた。

「でもさぁ、そんなことでいちいち上の人間に言い付けて助けてもらうなんて、ちょっと情けなくね~か?」

この職人は、新人いびりで現場では有名人だ。鉄筋の職人で、確かに鉄筋や配筋、施工図面に関しては、並みの管理者より遥かに知識は上だ。言ってることも筋が通っている。

そこで、その新人には策を授けた。

「鉄筋のことは何でも知ってるくらい、知識が豊富な職人と知り合えたことに感謝し、これからは少し下手に出て、分からないので教えて下さい!と何でも聞いたらどうだろう。そして、あの職人がウ~ン!と唸って考えるような質問ができるようになれば、君も一歩前進したと思えるんじゃないの?だから、逃げずにやってみなよ!建築では、鉄筋とコンクリートの知識は本当に大切な基本中の基本。だから、これは逆にチャンスだぞ!」と。

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建設現場での役割が違うだけ

“現場管理者のほうが上”という意識が強すぎると、管理は上手く行かない。確かに、全てを知ったうえで結論を出すのが理想だが、その境地に達することはなかなか難しい。

私も見栄を張って、分かったフリをして、職人の質問に対して「じゃ明日答えだすから!」と伝え、その晩に一生懸命参考書を開いて調べた経験が何度もある。翌日は、さも当然と言った顔で、昨夜覚えたことを百年前から知ってたような顔で職人に伝えるのだ。

分からないことを自分で調べることも大切だが、実経験を積んだ人から得られるものはやはり大きい。それを実感してからは、この人と思える職人に出会ったらトコトン色々なことを質問し、自分の中に蓄え、それを裏付けるために資料を読み漁った。

冒頭に書いたような失敗は誰にだってある。また、新人の頃は、職人から信頼を得るために、コツコツと努力することも必要だ。

“管理者が職人より上”などと思わず、建設現場での役割が違うだけ程度の認識が一番良いのではないだろうか。

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アジア、アフリカなど海外の建築現場で長年、施工管理に従事している。世界中で対日感情が良好なのは、先人たちの積み重ねである。日本人として恥ずかしくない技術者でいたい。
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