「上司ガチャ」に失敗した苦い経験
建設業界は、現場が変わるごとに直属の上司も変わります。そして、その上司のやり方で現場全体も動きます。
特に建設業界には変わった性格の上司も多いので、その上司の性格次第で、現場のやり方は大きく異なります。
運悪く面倒な性格の上司にぶつかると、工事が終わるまでの1~2年間は毎日、嫌な思いをするハメに…。
部下を育てる上司には、それぞれの教育方針や教育方法がありますが、なかには、常軌を逸した上司も多く、そのせいでもがき苦しんでいる新人が多いのも事実です。
私も新人の頃、最低な上司にぶつかった苦い経験があります。「親ガチャ」ならぬ、「上司ガチャ」に失敗したわけです。
その上司のヒミツを知ったときには、ビックリしてアゴが外れたのも、今となっては笑える思い出です。
若いのに誰よりも頭が固い上司
建設業界に限らずだと思いますが、新人というのは、良くも悪くもだいたい教育係のカラーに染まって成長します。
新人時代の上司だったOさんも、今でこそ施工管理のベテランですが、昔は新人で誰かに育てられたわけです。
Oさんは、30代で物静かな男性でした。会社内では若いほうでしたが、誰よりも頭が固く、現場の進め方もかなり古臭い人でした。
他の社員に話を聞くと、その上司の教育係は部長のKさん。この人も全く同じタイプの堅苦しい人間でした。
OさんもKさんも、基本的には「自分でなんとかしろ!」という方針で、口で説明することはほとんどなく、私が上司Oさんの現場に配属になった時、教えてもらうのはおろか、ほとんど口さえ聞いてもらえませんでした。
必至に書いた施工図をゴミ箱にポイッ
当時の私は、施工図もまともに書けなかったので、上司Oさんが図面のほとんどを仕上げて現場を進めていました。
ですが、ある日、「お前が簡単な施工図を書いて職人に指示してみろ」とOさんに言われました。これがまた小さい低い声でボソボソと喋るのでよく聞き取れない(笑)。
私は言われた通り、分からないながらも施工図を必死に書きました。なんとか完成させ、施工図をOさんに見せました。
すると、10秒ほど眺めて、無言でゴミ箱にポイ。
上司Oさんは、自分で書いていた同じ場所の施工図をパソコンから印刷し、私には目もくれず、そそくさと職人さんのところへ行ってしまいました。
なるほど…。
「俺の図面でおさめた現場をその目で見て、お前の図面の何がダメだったかを確かめろ」ということか、と私は察しました。
しかし、それは私の勘違いにすぎませんでした。
『背中を見て学べ』という古臭い教育方法
私は、上司Oさんの古臭い教育方法を理解したつもりでいました。『背中を見て学べ』ということなのだと。
図面の書き方など、直接聞かなければ分からないことも沢山あったのに、Oさんは自分の書いた図面のデータなどは一切見せてくれませんでした。
これが彼が考えるベストな教育方針なのだとしても、あまりにも古臭くて効率が悪いのではないかと内心思っていましたが、新人で20代の女が反論を言える立場ではありません。
私は必死に本を読んだり、他の現場の先輩に聞いたりしながら、施工図の書き方を覚え、職人さんたちに指示を出していました。
やがてOさんは口もきいてくれなくなり、何を聞いても無視されるようになりました。まだ入社して間もない頃だったので分からないことも多く、聞きたいことが山ほどあったので、とても苦労しました。
もはや、私への個人的な恨みでもあるのではないかと思うほどでした。
しかし、Oさんの態度の原因は、数年後、別の現場で判明することになったのです…。
再び一緒の現場になって知った、上司のヒミツ
なんとか上司Oさんとの現場を終えると、私は他の現場に配属され、別の上司の下で働くことになりました。
こうして現場をわたり歩いて数年が経ったある日、またOさんと一緒の現場になってしまいました。できれば一緒になりたくなかったのに(涙)。
とはいえ、数年が経っているのでOさんも変わっているはず!と、淡い期待を抱いて現場に入りました。が、やっぱり私が甘かった。
Oさんは相変わらず、私の書いた図面を片っ端から捨てるのでした…。
さすがにそこそこ現場監督として成長していた私は、悔しくて、その上司から図面を渡された職人さんを捕まえて、その図面を見せてもらいました。
すると、捨てられた私の図面と、ほぼ同じおさまりだったのです。
『なるほど。やっぱり上司Oは単に私が気に入らないのか…』とそう思ったのですが、後日、意外な真実を知らされました。
この堅い職人気質の上司Oさんは、実は一度も女性の部下を持ったことがなく、私が初めての女性部下で、女性の扱いが分からなかったそうです。しかも、ウワサによると、お付き合いの経験もないとかどうとか。
数年越しに、ようやく上司Oさんの正体を理解しました。
建設業界には案外ウブな男性も多いことを学んだ、けんせつ小町の体験談でした。