20代後半のオタク系男性が、ゼネコン現場事務所にやってきた

20代後半のオタク系男性が、ゼネコン現場事務所にやってきた

オタク系男性が施工管理として入社してきた

高速道路の補修工事を請け負っているゼネコン現場事務所に、建設業の経験が少なく、アニメ好きのオタク系、いわゆる”陰キャ”の20代後半の男性が、施工管理の派遣社員として入社してきた。

建設業界に入るくらいなので、陰キャに見えて実は結構明るいタイプか?なんて甘い期待を抱いていたが、すぐに打ち砕かれた。

まず、挨拶の声が信じられないくらい小さい。ほとんど聞こえない。。。挨拶だけでわかった。明らかに建設業に向いていなさそうだ。

派遣就業初日は誰でも緊張する。顔もひきつるし、声もこわばってしまうのもわかる。とはいえ、挨拶の声が異常に小さく、終始うつむき加減で不安そうな表情をしている。

揃えた制服やヘルメット等を手渡ししながら、「この人は長続きするのかな?」と初日から心配になるほどだった。

このゼネコンの現場事務所は、現場管理をする正社員が2~3人と、現場事務の私、あとは施工管理を派遣で3人くらい補充しながら回していく体制なので、複数の派遣会社から人が入ってくる。

地元を離れ、県外から来る人も多い。縁もゆかりもない場所・環境で働くことになるため、生活面でわからないことも多々あるだろうと思い、地元民の私は、情報提供も兼ねて彼らの相談に乗るようにしていた。

特にこの陰キャ男性が気がかりだった。初日から、社用車に鍵を置きっぱなしにしたり、買ってきたコンビニ弁当に箸がついていないと騒ぐということがあったからだ。

アニメ動画を見るため、昼食時は自席で黙食

入社してから1ヶ月くらいは、仕事に慣れてもらうため、現場事務所の掲示物を作ったり、安全関係の書類作りや整理をやることになっている。最初は事務業務だけなので、陰キャくんも落ち着いていた。

昼食時になると、男性社員たちはみんなでテーブルを囲んで楽しそうに歓談している。陰キャくんを除いては。

「このテーブルで食べれば?」と社員が声をかけても拒否し、いつも自席でスマホを見ながら食事をしていた。現場の仲間との会話よりも、アニメ動画を見るのに夢中そうだった。

事務的な仕事はそれなりにこなしていた彼も、当たり前だが、徐々に現場に出なくてはいけない。次第に、新規入場者への説明や、朝礼・安全大会など、人前で発言しなければならない場面でつまづくことが多くなってきた。

元々、口数の少ない陰キャくんだったが、現場仕事が始まるとさらに無口になり、顔つきが暗くなっていった。さすがに心配になり、「仕事はどう?」と声をかけてみた。

陰キャくんの秘めたる「嘆き」

辛そうな表情で、彼はこう話し始めた。

「自分とは別の派遣会社から就業している30代後半の男性が、ゼネコン社員より僕にキツく当たってくる。社員のほうはコンプライアンス遵守なのか、あからさまに侮辱してくることもないのに…。派遣社員同士で仲良くできるかな?なんて甘いことを考えていたわけでもないが、僕の些細なミスも社員に大げさに吹聴して、必ず所長など役職のある社員の前で”こんなことも知らないの?”と周りに見せつけるように言ってくる。権限のある社員の前では、僕がいかに使えない奴かということを印象づけるように問い詰めてくる。」

その30代後半の派遣社員は、正社員とも仲が良く、昼食時はいつも楽しそうに社員と歓談している。建設業経験者で、バイクが趣味で全国各地を巡り、多趣味で話題が豊富な、いわゆる「陽キャ」だ。作業員や警備員からもよく声をかけられていて、たばこ休憩で話が盛り上がっている場面もよく目にしていた。

現場仕事も段取りよくこなしていく陽キャな彼のことを、社員も信頼していて、「俺らの気づいてないことも見つけてくれて、助けてくれる」と評価も高い。

さらに辛そうな表情で、陰キャくんはこう続けた。

「飲み会にいっても彼のまわりは盛り上がっているが、僕は定番のボッチ飲み。仕事面でわからないことがあっても、社員から○○くん(陽キャ派遣社員)にまず聞いてと指示されていた。尋ねると教えてはくれるが、早口で一気にまくしたてるように説明するので理解が追いつかない。現場の雑用(仮設トイレの掃除他)はほとんど自分にまわってくるし、でも任された業務はきちんとこなしていかなければと焦って失敗する。社員に、○○くん(陽キャ派遣社員)の説明がわからないと訴えたこともあるが、余計に使えない奴と認定されてしまった。とにかく、色んなことが空回りして、すっかり職場で孤立してる。プライベートでも超ボッチ状態で、全部が嫌になってくる。」

派遣社員は契約更新されなければ仕事を失う。自分自身の契約更新のためか、別の派遣会社からきた人間を潰して、自分が生き残る(契約更新される)手法は、私自身、過去にやられた経験がある。陰キャくんには申し訳ないが、「仕事ができて使える奴になるしかないよ」と言うしかなかった…。

【PR】忙しい施工管理技士がキレイに退職するための辞め方・交渉術

陰キャの人間が建設業界で生き残るためには

それから数日後。ミスマッチといえばそれまでだが、結局、陰キャくんは契約途中で退職してしまった。

そもそもなぜ陰キャくんは施工管理を選んだのか?彼に応募理由を尋ねたところ、派遣会社の求人広告を見て応募したらしい。そこには、「施工管理=事務仕事がメイン」と思わせるような内容が書かれていたそうだ。

いくら事務仕事がメインと書かれていたとはいえ、業界未経験であれば事前に下調べしそうなものだが(そこが彼の甘さでもある)、スーツを着た男女が楽しそうに歓談し、建設業界未経験でも大丈夫!とうたっている求人広告は、彼にはギャップがありすぎたようだ。

「陽キャ」と呼ばれる人たちの就職先や活躍の場はたくさんあるのだろうが、「陰キャ」と呼ばれる人たちにとって、人と関わりながら当たり前に働くこと自体、至難の業なのだろう。

人材不足の建設業にとっては、そんな「陰キャ」であっても、働き手になってくれるなら喜んで受け入れたいところである。「陰キャ」の彼らが建設業で安定して働くために、何かできることはないだろうか。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「土木女子が仕事をしない問題」勃発。建設現場の実態は…
入社1年目の部下の嘆き。現場で教わったのは、「見て覚えろ精神のみ」
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
大手ゼネコンや中小地元ゼネコンで、派遣・契約社員として働いてます。
モバイルバージョンを終了