松永 千晶さん(公立大学法人 福岡女子大学 国際文理学部環境科学科 准教授)

松永 千晶さん(公立大学法人 福岡女子大学 国際文理学部環境科学科 准教授)

土木とは無縁な福岡女子大で、なぜ土木の教員になれたのか?

福岡女子大学で働くようになった理由とは

以前、九州大学土木系OG会「乙未(いつび)の会」に関する記事を書いた。なかなか興味深いお話が聞けたと思っているが、リモート取材だったため、いろいろ物足りなさみたいなものが残っていた。

「やっぱりリアルな取材がしたい」ということで、同会事務局を務める松永千晶さん(福岡女子大学准教授)に取材を申し入れたら、ご快諾いただいた。

ということで、ドボジョである松永先生に福岡女子大学で働くようになった理由、ふだんの仕事ぶりなどについて、リアルにお話を聞いてきた。(記事内容は昨年8月末時点)

そろそろどこか外に行こうかな

――福岡女子大学は歴史のある大学のようですね。

松永さん そうですね。2023年に創立100周年を迎えます。

――ただ、土木とは無縁そうですが。

松永さん 土木とは、まったくと言って良いほど縁がありません。私が所属する環境科学科は、理学系に環境や衛生、情報など、いろいろな分野が混ざった学科です。

――なぜ福岡女子大学の先生になったのですか?

松永さん 私自身、教員の公募に応募する前まで、福岡女子大学について、ほぼなにも知りませんでした(笑)。今思えば、私が通っていた九州大学箱崎キャンパスと福岡女子大学のキャンパスは近いですし、一緒のサークルなんかもあったようですが、ご縁がない状態でした。

私が福岡女子大学の存在を知ったきっかけは、夫でした。私の夫は、企業研修など人材育成の仕事をしているのですが、たまたま本学の女性トップリーダー育成研修に関わっていて、それで知ったわけです。夫からは「小さいけど、いい雰囲気の学校だよ」といった話は聞いていました。

福岡女子大学の前は、けっこう長い期間、九州大学で助教をしていたのですが、数年前から「そろそろどこか外に行こうかな」という気持ちがありました。そんなとき、たまたま福岡女子大学で教員の公募があったんです。ただ、それは住環境学分野の教員、建築系の科目を教えるものでした。

私の専門と分野は違いますが、まったくかけ離れているわけではない思ったのと、なにより職場が近いのに惹かれて、とりあえず受けてみました。そしたら、運良く採用されたという感じでした(笑)。

住環境研究室で土木計画学を教える

――大学のホームページの松永先生の教員紹介には、「土木計画学」と書いていますが。

松永さん 研究室の名称は、住環境のまま残しているのですが、私個人の専門分野は土木計画学なんです。それは正直に書いて良いはずなので、そうしています(笑)。住環境を広くとらえれば、都市環境といった領域も含まれるので、余計な混乱を招くよりは、住環境研究室のままのほうが良いと考えました。

――そこまでして土木を「主張する」必要もないと。

松永さん まあ、そうですね。私のもともとの専門は交通計画学でしたが、九大の助手時代の最後の5年間ぐらいは環境経済学の研究をしていました。退官された私の元ボスの先生のポストに環境経済学の先生が新しく着任されたので、一緒にやらせて頂くことにしました。振り返ってみれば、九大助教のころから、土木以外の分野に片足を突っ込んでいたような気もします(笑)。

そういう意味では、福岡女子大学に来たことは、自分の研究分野について、ゼロベースで考えを巡らせる良いきっかけになりました。また交通計画学をやってみようかなとか、いろいろ考えました。

ただそうは言っても、なにも知らない福岡女子大学の学生相手に、いきなり土木、しかも交通計画学を教えるのは、なかなか厳しいところがありました。そもそも、私が2020年4月に研究室に来たときの学生は、前の先生がいたときに研究室を決めてたので、学生と相談しながらなにをやるか決めていく必要がありました。

――前の先生は住環境を専門とする先生だったのですか?

松永さん そうです。建築関係の民間企業出身の先生で、光環境とか照明がご専門でした。私の専門分野とはまったくの別分野です。

本当に女子しかいない(笑)

――土木の先生ということで、学生さんの反応はどうですか?

松永さん 最初は当惑したと思います(笑)。前年の11月ごろ、内定をもらった後に学生と会い、自分の研究内容などについて説明しましたが、たぶんよくわからなかったと思います。研究室に来てからも、ちょうどコロナが重なった時期だったので、学生とリアルに会う機会がほとんどないままでした。なにが正解かわからないまま、いろいろなことを手探り状態の中でやっていました(笑)。

――実際に福岡女子大学で教えてみて、どうですか?

松永さん 昨年1年間、1年生を対象にした入門講義を担当したのですが、初めてリアルな講義をして、「本当に女子しかいない」と改めて思いました(笑)。

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モデル式の話をしたら、学生からドン引きされた

――福岡女子大学の学生さんについて、どう見ていますか?

松永さん それは人によってマチマチなので、一概には言えないですね。私の所属は、環境科学科の中でも生活コースでして、家政と建築みたいなコースになっています。例年、3年生を対象にした先生による研究室紹介があるのですが、そこで聞いた話を参考にして、研究室を選ぶのが一般的だと思います。

――松永先生はどういうプレゼンをしているのですか?

松永さん ざっくり、「まちづくりや都市計画、土木計画なんかをやっています」という話をしています。たとえば、キャンパス内のバリアフリーに関する研究をやりましたという話をすると、学生の反応が良かったということがありました。内容的にはシンプルな調査だったのですが、車椅子に乗ったり、色覚アプリなどを使いながら、積極的にやっていました。自分たちが通うキャンパスなので、身近だったというのが大きかったと思いますね。あとは、コミュニティバスの話なんかも反応が良かったです。

ただ、今の4年生を相手にモデル式の話をしたら、ドン引きされてしまいました(笑)。アクセシビリティ指標をつくる際に、重力モデルを使うという話をしたら、ゴリゴリの数学モデルを使ってやるんだと勘違いされてしまったようです。モデル式の変数に数値を入れるだけの話なのですが、おそらく、コースが違うので、そういう授業をあまり受けたことがないからだと思います。ただ、何人かはコミュニティバスの研究をやりたいと言っているので、実は興味を持っているのかもしれませんが、よくわかりません(笑)。

今年秋の土木計画学研究委員会の研究発表会で論文が採択されたので、学生を連れて行く予定です。

土木の人間として、私自身はあまり変わっていない

――学生さんの就職先はどんな感じですか?

松永さん 就職については、私はほぼノータッチです。福岡女子大学では基本的に、大学の事務局を通して企業の求人が来るので、それぞれの学生が独自に活動しています。就職先は、公務員、製薬会社、金融、小売業、IT関係といった感じで、バラバラです。強いて言えば、最近は公務員志望の傾向があるように思います。

――九大から福岡女子大学に来て、なにか変化はありましたか?

松永さん 土木の人間として、私自身はあまり変わっていません(笑)。もちろん教える場所や内容は変わりましたが、九大や土木学会、国や自治体の審議会といった外部との付き合いは以前のままです。ただ、外部から頼まれる機会は増えました。女性のメンバーが必要というケースもあるからです。

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