藤本雄介氏。2021年7月から関東地方整備局河川部河川調査官に。2023年1月1日からは、流域治水推進室室長を兼務。

藤本雄介氏。2021年7月から関東地方整備局河川部河川調査官に。2023年1月1日からは、流域治水推進室室長を兼務。

【関東地方整備局】「流域治水推進室」を設置。藤本初代室長が就任の想いを語る

国土交通省関東地方整備局は2023年1月1日付で、「流域治水推進室」を設置した。局内の河川部局とまちづくり部局間の連携を一層強化し、関東管内の関係者との連絡調整、その他流域治水の取組みを強力かつ円滑に推進することが目的。関東地方整備局管内では、流域の関係者が協働して2021年3月に13の流域治水プロジェクトを策定・公表。翌2022年3月に内容を更新し充実化を図っている。

これらのプロジェクトを推進していくためには、河川対策に加えて、まちづくりなどと一体となって取り組むことが不可欠であり、整備局内の関係部局が一層連携し、河川事務所、地方自治体、関係省庁と調整を図っていく必要があり、今回の設置に至った。関東地方整備局の初代流域治水推進室室長には、国土交通省関東地方整備局河川部河川調査官である藤本雄介氏が兼務することとなった。今回、初代室長に就任した藤本氏に話を聞いた。

関東地方整備局「流域治水推進室」の初代室長に藤本氏が就任

――まず、今回流域治水推進室長に就任された抱負からお願いします。

藤本室長 河川整備が進んできた近年でも、気候変動の影響による気象は激甚化・頻発化しております。現在の施設能力を超える大雨により、毎年全国各地で水害が発生しています。この関東地方整備局管内でも「令和元年東日本台風」により、大規模な水害が広域に渡り発生したことは記憶に残るところです。

われわれ河川管理者は河川整備をスピードアップするため、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の予算などを用いて取り組んでおりますが、ハード面での対策はどうしても一定の時間がかかります。

この「流域治水」は、いま申し上げた状況でも洪水による被害を少しでも減少させるため、堤防整備などによる治水対策を加速することに加えて、「降った雨をなるべく河川に流れ込ませない取組み」や「浸水が発生してもその被害を回避できる住み方をする取組み」など、川の外側の地域も含めた流域全体で、あらゆる関係者が協働して洪水に対する安全・安心を確保していく考え方です。

昨今の災害が全国各地で毎年のように頻発していることを踏まえると流域治水を推進していくことは必須であり、その室長を拝命したことは気が引き締まる想いです。地域ごとにできることや求められることはさまざまなため、好事例を1つでも多く積み重ねていきたいと思います。

「令和元年東日本台風」で都幾川が決壊 / 荒川上流河川事務所Twitterより

部局間をまたぎ、河川部と建政部が一層の連携

――流域治水推進室の活動と狙いについて、改めて教えてください。

藤本室長 関東地方整備局は、2023年1月1日付で「流域治水推進室」を設置しました。治水計画・河川整備を担う河川部23人と下水道・まちづくりなどを担う建政部12人の計35人で、本来の部局間をまたぎ組織されていることが特徴です。

流域治水を進めていくためには、河川での対策だけではなく、まちづくりなどと一体となって取り組むことが不可欠なのです。もとより推進室が設置される以前から連携は図られてきましたが、より一層の連携を図るために今回設置する運びになりました。河川行政だけではできなかったことを実現するため、外形的にも新たな組織を設置することで思考の幅を広げたい。そのためには従来の担当業務と切り離して取り組むのではなく、延長線で新たな選択肢を取込んでいくことが重要です。

一方で、推進室はあくまで河川行政と都市行政の一層の連携強化のために設置したものですが、流域治水はもっと幅広い概念であるため推進室だけでなく、室員以外のメンバーも取り組んでいく必要があります。そのためにまずはワンストップ窓口のように問い合わせや相談がしやすい体制を構築していきます。

氾濫域の都市行政との連携は不可欠

――河川部と建政部の連携内容はいかがでしょうか。

藤本室長 流域治水はその名のとおり、川の中だけでなく、川の外側の地域も含めた流域全体で、あらゆる関係者が協働して行う必要があります。流域と言っても対象は広く、求められる対策は地域の特徴によりさまざまですが、その中でも集水域、氾濫域となる都市行政との連携は不可欠です。

具体的には、流出抑制をはかる下水道や雨水貯留などの取組み、氾濫した際の被害を軽減させるために「防災集団移転促進事業」や「土地区間整理事業」と連携した河川事業など、住まい方を工夫する取組み、被害が生じても人命を守る災害時の避難場所などの整備を図る取組みなどが考えられます。これらの効果を上げるためには河川行政と都市行政の両面から検討する必要があるのです。

関東地方整備局の各河川事務所や各地方自治体が各地域でこれらの検討を進めるにあたり、両者の法令、予算制度などを活用することで各地域の課題についてより良い結論を得られるよう助言や好事例の提供に取り組みます。

「流域治水推進室の設置」について / 関東地方整備局

――河川事務所、民間団体、NPOとの連絡内容はどのようなものになるのでしょうか。

藤本室長 関東地方整備局内の各河川事務所は、根幹となるハード対策をしっかり進めることは当然ですが、各地域での水害リスク情報を提示した上で、地域で取り組むべき課題についても議論、検討をしてほしいと考えています。

次に、民間団体はまず自主防災やBCP(事業継続計画)に取り組んでいただきたい。一方、近年は社会的責任に加え、SDGs(持続可能な開発目標)など企業が社会的課題の解決に取組むことも増えています。地域の状況や利用形態にもよりますが、とくに新規の開発の際には流出抑制などの取組みにも期待しています。さらにNPOは防災教育や環境保全にかかわる取組みをされている団体も多い。流域治水は、自然環境が持つ多様な機能を活かすグリーンインフラの考えも重要で、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりにも繋がります。各河川事務所、地方自治体、民間団体やNPOがお互いに連携すれば、さらにグリーンインフラが普及していくと考えます。


各河川で「流域治水プロジェクト」の策定進む

――改めて流域治水の意義についてお願いします。

藤本室長 当然ながら古く歴史をさかのぼってもハードによる治水対策は人命や社会経済活動を守り、国土づくりでも貢献してきました。そういった意味で治水事業をより一層スピードアップする必要があります。一方で、ハード対策は一定の時間を要する中、気候変動の影響は顕在化している今、災害は待ってくれません。そこで人命・資産・社会経済活動を守るため、「河川の流域のあらゆる関係者が協働して流域全体で行う」ことが大切です。つまり水害への備えを「我が事」として認識し、社会全体で共有することで流域治水の施策の意義があると考えます。

――現在の関東地方整備局における流域治水の進行状況を教えてください。

藤本室長 関東地方整備局管内では、流域の関係者が協働して2021年3月に1級水系を対象に13の流域治水プロジェクトを策定・公表し、翌22年3月には内容を更新・充実化し、2級水系でもプロジェクトの作成が進んでいます。

各水系で取組みが着実に進む中、ハード面やソフト面で新たな取組みも進み始めていると認識しています。ハード面では、やはり「令和元年東日本台風」による被害を受けた地域の対応が喫緊の課題です。関東地方整備局では、これらの地域で緊急治水対策プロジェクトを進めていますが、このプロジェクトには流域治水プロジェクトに先行して流域治水の思想が盛り込まれているのです。

具体的には、那珂川・久慈川では霞堤の整備に加え、土地利用・住まい方の工夫が、荒川では高台の整備や遊水地整備について議論が進められています。また、ソフト面では、流域首長からのメッセージ発信や関係団体との流域治水に関する意見交換などが活発になっています。

関東地方整備局の流域治水プロジェクト策定状況 / 第3回 関東地方流域治水連絡会議資料

入間川流域緊急治水対策で多重防御治水を実施

――荒川上流河川事務所の事務所長時代のお話を改めてうかがいます。「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」を展開した意義を教えてください。

藤本室長 入間川流域でも「令和元年東日本台風」により甚大な被害が発生しました。そこで治水対策を「国・県・市町」と連携の上、「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」を策定し、「ハード・ソフトの両対策」をとりまとめ、短期的・集中的に再度の災害防止に向けて取り組んでいく道筋を地域の方々に示しました。

この「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」には、当時はまだ全国的に打ち出されてはいなかった流域治水の概念を先行的に取り組んでまとめた点に大きな意義がありました。ポイントとしては、「多重防御治水の推進」。これは今まで行ってきた堤防整備や河道掘削などの河道からあふれさせない対策は当然行います。それに加えて遊水地などに計画的に貯める対策、土地利用・住まい方の工夫により浸水被害が生じても家屋浸水を発生させない流域の対策を組み合わせて大洪水への備えとしていくものです。

藤本氏は入間川流域緊急治水対策のプロジェクトを荒川河川上流事務所の事務所長時代に手がけた / 第3回 関東地方流域治水連絡会議資料

入間川流域は明治時代では連続堤だけでなく、洪水を一部で遊水させるという霞堤を組み合わせて地域を洪水から守っていました。その後、流域の開発、治水対策の能力アップに伴い、連続堤整備に転換してきました。「令和元年東日本台風」では、現行の施設の能力を超えることで同じエリアで浸水被害が発生しました。昨今の激甚化する災害に対しては、このような経緯も踏まえて、新たな対策を考える必要がありました。

昨今は「流域治水型災害復旧」という取組みも出てきていることは注目すべきことです。激甚化する災害、一方で一定の時間を要するハード対策の効果を早期に実現することが重要な観点となっています。そのため、「流域治水型災害復旧」は今後、標準的な考え方になってくると思います。

国、地方自治体が連携し、実行に移す「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」 / 荒川上流河川事務所YouTubeより

治水事業はいまだ道半ば。着実に歩み進める

――治水の重要性について、市民の理解はいかがでしょうか。

藤本室長 まず、治水の重要性から話します。水害は一度発生すると人命・資産・生活・社会経済活動へ大きな被害を与えます。それらを防ぐことが出来るのが治水であるため、その重要性、求められる責務は非常に重いと感じています。被害が発生する中でも整備してきた治水施設は効果を発揮しており、治水を進めてこられた歴代の関係者の方々へは感謝や尊敬の念しかありません。ですが、まだまだ道半ばであることには間違い無いため、将来世代のためにも着実に対策を進めていきたいと考えています。

そして、市民への理解です。その水害への対策としての治水に総論で反対する方はいないと思うのですが、近年水害が発生していない地域では「我が事化」として考えることは難しいのが実情だと思います。近年の情報化社会や技術の進歩を踏まえ、よりリアリティのある情報を伝え、理解をいただく必要があります。

また、「流域治水」の取り組みの中には、「確実な避難を行う」ということも含まれます。具体的には、日頃から住まわれる場所の洪水に対する危険性を確認し、どのような行動をするかの準備をし、いざという時には、主体的に避難をすることです。ぜひ流域の住民の方々にも一緒に「流域治水」に取り組んでいただければと思います。

新たなチャレンジが必要な時代に

――流域治水の推進にあたり、建設会社に期待することは。

藤本室長 建設業関係の方々は、流域治水の推進にあたり、施設整備をスピードアップさせることが大前提として含まれることや地域の守り手でもあることから重要な関係者の一員であると認識しています。

「令和元年東日本台風」では厳しい現場条件の中、発災中の対応、発災直後の復旧など建設業界をあげてご尽力いただきました。その対応については感謝の言葉しかありません。引き続き、ご協力を賜れれば幸いです。

そのような中で現在、少子高齢化、人口減などの社会的変化を踏まえ、業界としても働き方改革や生産性向上、人材育成などの新たなチャレンジが必要なタイミングにあります。私自身、コロナ禍で強制的に使い始めたWEB会議ツールが今や手放せなくなったこともあり、生産性向上の大きなチャンスであると受け止めています。こういった経験も踏まえ、流域治水やDXも難しく考えずに出来ることから、好事例をまねる精神で取り組んでもらえればと思います。

東京23区内の荒川河川敷でドローンテストフィールドの社会実験スタート / 荒川下流河川事務所Twitterより

建設DXも今や広く使われているICT施工などからはじまり、CIM活用やUAV(ドローン)など可能性はまだまだ広がっています。いずれにせよ皆さまと一緒に勉強もさせていただきながら、魅力ある業界とするため、ご協力をお願いします。


藤本 雄介(ふじもと・ゆうすけ)氏

2002年3月京都大学工学部卒、2004年3月同大学大学院修士課程修了。2004年4月国土交通省入省(本省大臣官房技術調査課)、2007年4月本省河川局治水課係長、2008年大臣官房技術調査課係長などを経て、2014年9月に本省水管理・国土保全局治水課課長補佐に就く。2019年4月からの関東地方整備局荒川上流河川事務所所長では、「令和元年東日本台風」に対応する。2021年7月から関東地方整備局河川部河川調査官に。2023年1月1日からは、流域治水推進室室長も兼務。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
“流域治水” という巨大プロジェクトが始動「建設業界と行政が”一心同体”で立ち向かう」【東北地整】
【現場レポ】令和2年7月豪雨から1年。氾濫した球磨川、被災地のいま
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
西日本豪雨の災害復旧工事で感じた「施工管理のジレンマ」
「とりあえず全部回る」 中国地方整備局に”アツい男”がいたので、突撃インタビューしてきた
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
モバイルバージョンを終了