国土交通省関東地方整備局は2023年1月1日付で、「流域治水推進室」を設置した。局内の河川部局とまちづくり部局間の連携を一層強化し、関東管内の関係者との連絡調整、その他流域治水の取組みを強力かつ円滑に推進することが目的。関東地方整備局管内では、流域の関係者が協働して2021年3月に13の流域治水プロジェクトを策定・公表。翌2022年3月に内容を更新し充実化を図っている。
これらのプロジェクトを推進していくためには、河川対策に加えて、まちづくりなどと一体となって取り組むことが不可欠であり、整備局内の関係部局が一層連携し、河川事務所、地方自治体、関係省庁と調整を図っていく必要があり、今回の設置に至った。関東地方整備局の初代流域治水推進室室長には、国土交通省関東地方整備局河川部河川調査官である藤本雄介氏が兼務することとなった。今回、初代室長に就任した藤本氏に話を聞いた。
関東地方整備局「流域治水推進室」の初代室長に藤本氏が就任
――まず、今回流域治水推進室長に就任された抱負からお願いします。
藤本室長 河川整備が進んできた近年でも、気候変動の影響による気象は激甚化・頻発化しております。現在の施設能力を超える大雨により、毎年全国各地で水害が発生しています。この関東地方整備局管内でも「令和元年東日本台風」により、大規模な水害が広域に渡り発生したことは記憶に残るところです。
われわれ河川管理者は河川整備をスピードアップするため、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の予算などを用いて取り組んでおりますが、ハード面での対策はどうしても一定の時間がかかります。
この「流域治水」は、いま申し上げた状況でも洪水による被害を少しでも減少させるため、堤防整備などによる治水対策を加速することに加えて、「降った雨をなるべく河川に流れ込ませない取組み」や「浸水が発生してもその被害を回避できる住み方をする取組み」など、川の外側の地域も含めた流域全体で、あらゆる関係者が協働して洪水に対する安全・安心を確保していく考え方です。
昨今の災害が全国各地で毎年のように頻発していることを踏まえると流域治水を推進していくことは必須であり、その室長を拝命したことは気が引き締まる想いです。地域ごとにできることや求められることはさまざまなため、好事例を1つでも多く積み重ねていきたいと思います。

「令和元年東日本台風」で都幾川が決壊 / 荒川上流河川事務所Twitterより
部局間をまたぎ、河川部と建政部が一層の連携
――流域治水推進室の活動と狙いについて、改めて教えてください。
藤本室長 関東地方整備局は、2023年1月1日付で「流域治水推進室」を設置しました。治水計画・河川整備を担う河川部23人と下水道・まちづくりなどを担う建政部12人の計35人で、本来の部局間をまたぎ組織されていることが特徴です。
流域治水を進めていくためには、河川での対策だけではなく、まちづくりなどと一体となって取り組むことが不可欠なのです。もとより推進室が設置される以前から連携は図られてきましたが、より一層の連携を図るために今回設置する運びになりました。河川行政だけではできなかったことを実現するため、外形的にも新たな組織を設置することで思考の幅を広げたい。そのためには従来の担当業務と切り離して取り組むのではなく、延長線で新たな選択肢を取込んでいくことが重要です。
一方で、推進室はあくまで河川行政と都市行政の一層の連携強化のために設置したものですが、流域治水はもっと幅広い概念であるため推進室だけでなく、室員以外のメンバーも取り組んでいく必要があります。そのためにまずはワンストップ窓口のように問い合わせや相談がしやすい体制を構築していきます。
氾濫域の都市行政との連携は不可欠
――河川部と建政部の連携内容はいかがでしょうか。
藤本室長 流域治水はその名のとおり、川の中だけでなく、川の外側の地域も含めた流域全体で、あらゆる関係者が協働して行う必要があります。流域と言っても対象は広く、求められる対策は地域の特徴によりさまざまですが、その中でも集水域、氾濫域となる都市行政との連携は不可欠です。
具体的には、流出抑制をはかる下水道や雨水貯留などの取組み、氾濫した際の被害を軽減させるために「防災集団移転促進事業」や「土地区間整理事業」と連携した河川事業など、住まい方を工夫する取組み、被害が生じても人命を守る災害時の避難場所などの整備を図る取組みなどが考えられます。これらの効果を上げるためには河川行政と都市行政の両面から検討する必要があるのです。
関東地方整備局の各河川事務所や各地方自治体が各地域でこれらの検討を進めるにあたり、両者の法令、予算制度などを活用することで各地域の課題についてより良い結論を得られるよう助言や好事例の提供に取り組みます。

「流域治水推進室の設置」について / 関東地方整備局
――河川事務所、民間団体、NPOとの連絡内容はどのようなものになるのでしょうか。
藤本室長 関東地方整備局内の各河川事務所は、根幹となるハード対策をしっかり進めることは当然ですが、各地域での水害リスク情報を提示した上で、地域で取り組むべき課題についても議論、検討をしてほしいと考えています。
次に、民間団体はまず自主防災やBCP(事業継続計画)に取り組んでいただきたい。一方、近年は社会的責任に加え、SDGs(持続可能な開発目標)など企業が社会的課題の解決に取組むことも増えています。地域の状況や利用形態にもよりますが、とくに新規の開発の際には流出抑制などの取組みにも期待しています。さらにNPOは防災教育や環境保全にかかわる取組みをされている団体も多い。流域治水は、自然環境が持つ多様な機能を活かすグリーンインフラの考えも重要で、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりにも繋がります。各河川事務所、地方自治体、民間団体やNPOがお互いに連携すれば、さらにグリーンインフラが普及していくと考えます。