黒木 繁人さん 旭建設株式会社 代表取締役社長

黒木 繁人さん 旭建設株式会社 代表取締役社長

旭建設が目指す「疲れない会社」とは?

10年以上前から「残業禁止令」を掲げる会社

宮崎県日向市に本社を置く旭建設株式会社に取材する機会を得た。旭建設は、10数年前から「残業禁止令」を掲げ、建設現場も含めたいわゆる働き方改革に取り組んできている。

これに伴い、10年ほど前からICT施工にも対応してきている。いわゆるインフラDXをずっと前から実行しているというわけだ。

この先見の明はどこから生まれたのか、なぜ実行できたのか。一連の取り組みの仕掛け人である社長の黒木繁人さんのホンネに迫った。

現場仕事はオレにはムリ(笑)

旭建設本社が入る旭ビル

――ユニークな社屋ですね。マンション一体型で、テナントに美容サロンが入っています。

黒木さん そうですか(笑)。先代社長が昭和33年ごろに建てたのですが、どうせ建てるなら収益が入る社屋にしようということで、こういう社屋になりました。普通のオフィスビルより、マンションのほうが収益性が良さそうだと考えたようです。

――黒木さんが社長に就任したのはいつごろですか?

黒木さん 23年ほど前ですね。

――社長の前は旭建設で働いていたのですか?

黒木さん そうですね。学校を出てほどなく、旭建設に入社しました。40年ほど前のことです。現場に出たのは最初の4年だけで、あとはずっとバックオフィスの仕事ばかりやっていました。「現場の仕事はオレにはムリだな」と思ったものですから(笑)。現場はとにかくやることが多いので。品質管理に至っては数ミリレベルで管理しているわけでしょ。なので、「みんなよくやっているなあ」と今でも思っています(笑)。

――2代目社長ですか?

黒木さん そうです。

残業しないように知恵を出しなさい

――まず、お伺いしたいのは「残業禁止令」についてです。10年以上前に出したそうですが、そのココロはなんだったのでしょうか?

黒木さん 毎日朝8時から夕方5時まで仕事をすると、普通の人は疲れます。定時が来たら「家に帰りたい」と思うのは当たり前のことです。違う言い方をすれば、「仕事は時間内に終わらせるもの」ということになります。

会社としては、社員には定時に仕事を終えてもらい、ちゃんとリフレッシュしてもらって、翌朝には元気に出社してもらいたいわけです。ダラダラ残業した結果、翌朝疲れて出社する姿は見たくないんです。

――初歩的な質問で恐縮ですが、それだと仕事が回らなくなりませんか?

黒木さん そこは経営者の決心次第です。社員に対して「残業するな」とはっきり言えるかどうかという、非常に単純な問題なんです。「残業するな」と言い続ければ、残業しなくなるものなんです。

中には、会社に隠れて残業している社員もいるかもしれませんが、ほとんどの社員は、残業ができない以上、時間内に仕事を終わらせようと考えるようになるからです。

私が残業禁止令を出したのは、社員に対して「残業しないように知恵を出しなさい」と言いたかったということもあるんです。

――残業禁止令が社員に浸透するのにどれぐらい時間がかかりましたか?

黒木さん 1ヶ月ぐらいだったと思います。当時の総務部長は毎日、各職場に「帰れ」と電話で命令していました。

――「まだ仕事が終わっていないので、帰れません」という返事が返ってきそうですけど。

黒木さん そういうのはなかったと思いますよ。あくまで会社からの命令なので。

――社員の仕事に対するモチベーションに変化はありましたか?

黒木さん 私はモチベーションは上がったと思います。もちろん目に見えない部分ですが。残業しないほうが人間らしい生活ができる、私は単純にそういう話だと考えています。

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結局は経営者が決心できるかどうかだけ

――ワークライフバランスをどうとるかは、建設業界的にはいまだ現在進行形の問題になっているものと承知していますが、10数年前の時点でそれを実行に移したのは、かなり思い切った決断だと思われます。

黒木さん 私は「ライフワークバランス」という言い方をしています。仕事はたしかに大事ですが、生活のほうがもっと大事だからです。

――そういうお考えはもともとお持ちだったのですか?

黒木さん もともとですね。そっちのほうが人はイキイキするからです。ただ、どうしても残業しないといけない場合は当然あります。そういうときはそういうときで、これも経営者の決断が大事になってきます。残業することに対して経営者としてちゃんと価値をつけて、社員をしっかり説得するということをやれば良いと思っています。

べつにすべての会社が同じやり方をする必要はありません。それぞれの会社が、それぞれの持ち味や形態、仕組みに合わせて、生活と仕事のバランスをとっていけばそれで良いと考えています。

――同業他社からアドバイスを求められることもあったと思いますが。

黒木さん ウチはべつに特別なことは何もしていないんです。なにをするにしても、結局のところ、経営者が決心するかどうかだけなんです。「これをしよう」と号令をかけて、社員を従わせることができるかどうか。それだけの話だと思っています。

――一度「これをやる」と決めたら曲げないということですか?

黒木さん 曲げるかもしれません(笑)。

――あ、そこは柔軟に対応するんですね。

黒木さん ええ、自分が間違っていると思ったら、曲げます。

――ただ、残業禁止令に関しては曲げずにやってきたということですか?

黒木さん そうですね。その後、世の中の流れが近づいてきましたし、残業禁止については曲げずにやってきて良かったと思っています。

人が喜ぶ会社づくりができていれば人は辞めない

――建設業界的には、ここ数年来若い担い手の確保が問題視されていますが、どうごらんになっていますか?

黒木さん 「いないんでしょうねえ」と思っています。ただ、若い人、中途の方も含め、その人が思っている以上の会社づくりをしていれば、人が来ないということもないし、人が辞めることもないとも思っています。

ウチの会社がそうだと言っているわけではありませんが、人が喜ぶ会社づくりができている会社は、人はなかなか辞めないものです。会社づくりには当然、人間関係も含みます。ウチとしても、そこを目指して頑張っているというところです。

――残業禁止令はリクルーティングも考えて出したというわけではなかったのですか?

黒木さん とくに担い手確保を考えて出したわけではありません。ただ、会社を辞めていく人間になにがあったのかということは考えました。たとえば、宮崎県の県北には旭化成という大きな会社があります。この会社は、地場の会社に比べ、給料も高くて、休みも多いわけです。旭化成をマネるわけではありませんが、参考にしていろいろ取り組んできたということはあります。

――社員数はどれぐらいですか?

黒木さん 71名です。

――社員数は増やしていきたいとお考えですか?

黒木さん はい、増やしていきたいです。

――宮崎県内にいくつか出先があるほか、大分県内にも出先があります。エリア的に拡大していく方針をお持ちなのですか?

黒木さん そういうわけではありませんが、仕事があるところでは仕事をしようということで、出先を置いています。遠くても「来てください」と言われれば、どこでも行くつもりでいます。たとえば、地域建設会社は地域の守り手でもあるので、自然災害の復旧工事といった仕事は、ウチとしても大切にしたい仕事です。

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3Dのモノをつくるなら、2Dの設計図じゃダメ

――災害復旧では無人化施工の実績もお持ちですが、いわゆるICT施工に対して、積極的に取り組んでいこうというお考えですか?

黒木さん そうですね。建設業界が今後、いろいろな意味で変化していく、進化していくためには、非常に良い道具だと考えています。ICTの活用は世の中全体で盛んになっているので、建設会社としても、当然のこととして取り組まなければならないことだと認識しています。

ICTの活用はいわゆる働き方改革にもなる取り組みだと思っています。冒頭にも言いましたが、現場の施工管理の仕事はやることが多いので、ICTを活用することで、仕事がラクになったり、スピードアップが期待できます。これらは単純に良いことなので。

――地域建設業でICTが普及しない理由として、設備投資が高額になる、工事規模が小さいので、利益が出にくいといった理由があるようですが、この点どうお考えですか?

黒木さん 私の考えは逆で、小さな会社ほどICTを活用すれば大きなメリットが出ると思っています。設備投資にはそれなりの金額がかかるのは事実ですが、ヤル気次第では、投資額を取り戻すのは難しくないと思います。小さな会社ほどICTが良いというのは、人数を確保しなくても仕事ができるからです。

――小さい会社ほどICT施工が向いているというのは興味深いご指摘です。

黒木さん たとえば、大きな会社だと、ICT施工に関する教育費もそれなりにかかるわけです。パソコンなんかも、大量に買い替える必要が生じたりします。社内の伝達も複雑になります。小さい会社なら、教育もマンツーマンでできるかもしれないし、パソコンなどの買い替えもずっと少ない数で事足りるかもしれません。社内の伝達もシンプルにできそうです。

――旭建設のICT施工は、黒木社長が「やろう」ということで始まったのですか?

黒木さん ま、だいたいそうですね。私なりに情報収集して決めました。国交省からガイドラインがいろいろ出ていましたしね。これも経営者の決心次第ということです。決心すると、ICTをやりたい人間が出てくるものなんです。そういう人間が出てきたら、いろいろな情報を入れていって、他の人間にも火をつけていく。そんな感じでやってきた結果ですね(笑)。

最初に現場で3Dを取り入れたのは10年前で、美々津の護岸工事の現場でした。施工性の向上はもちろん、早い段階で設計の間違いがわかったり、経営者として「これは使える」と確信するのに十分なものがありました。ICT施工の現場を見て、私が一番強く感じたのは「3Dのモノをつくるなら、2Dの設計図じゃダメだな」ということです(笑)。

TVCMなどを通じて、建設業界内外にインパクトを与えていきたい

――TVCMや新聞に全面広告を打っているようですが、会社の広報PRについてどういうお考えをお持ちですか?

黒木さん 建設会社が良いことをしていても多くの人は知りません。たとえば、地域のために夜間にパトロールしていることは知られていません。新しい道ができたときは、その直後は住民は喜んでくれますが、しばらくすると、当たり前のことになって、感謝されることはありません。TVCMや新聞広告を打つのは、県民の方々に対して、その当たり前のことを少しでも思い出してもらいたいという思いがあるからです。旭建設がと言うより、建設業界全体が周りから尊敬されるような、「ありがとう」と言われるような、そういう存在になってほしいという思いもあります。

――黒木社長は宮崎県建設業協会の副会長も務めていますが、宮崎県の建設業をどう見ていますか?

黒木さん まだまだ古い体質が残っていると思っています。従来やっていたことをいまだにやっている人が多いと思っています。いずれは変わってくるとは思いますが、どれだけ早く気づけるかが重要といった感じですね。旭建設として頑張っていろいろやっていって、業界内外にインパクトを与えていかなければならないと考えているところです。

たとえば、業界の集まりなどに顔を出すと、「CM打ってたね」とよく言われるのですが、「ちょっとは響いているのかな」と感じることはあります。そういうことを積み重ねていければ、業界の体質も変わって、自然と働き手が集まってくるような業界になるのかなと期待しています。

――黒木社長の意見に賛同する他の建設会社の社長さんも何人かはいらっしゃる?

黒木さん ええ、何人かはいると思います。ボクより上の世代はわかりませんが、比較的若い世代の社長の中には、けっこう頭が良くて、勉強もしている社長が何人かいます。そういう社長はいろいろな新しい方法で仕掛けてくると予想しています。勝ち負けの問題ではありませんが、私としてもそういう社長たちに負けないようにいろいろと取り組んでいきたいと思っています。

旭建設テレビCM「ICT篇」 / YouTube(旭建設株式会社 -宮崎県日向市-)

目指すは「疲れない会社」

――旭建設を今後どういう会社にしていきたいですか?

黒木さん 「疲れない会社」にしていきたいです。売り上げとか利益ではなく、社員が疲れない会社にしたいということです。そういう会社になれば、社員はもっと良い発想を持って仕事をしてくれると思っているんです。社会でも家庭でも職場でも、人は疲れる環境にいたいとは思わないので(笑)。逆に、環境に疲れないと、人はどんどん新しいことを始めるものなんです。子どもが延々ゲームをやり続けるようなものです。疲れませんから。

――余計なことで疲れないということですか?

黒木さん そうですね。仕事に疲れず、仕事を好きになって、社員が自ら進んで仕事をやり続ける、そういう会社にしたいということです。

「常に考える」とは?

「常に考える」というシンプル&深いスローガンと黒木社長

――社内の至るところに「常に考える」という言葉が掲示してありますが、そのココロはなんですか?

黒木さん この言葉は、15年ほど前、経営者のセミナーで知り合った方の会社にお邪魔したときに、どこにでも貼ってあるのを見たんです。それを真似しました。

――シンプルな言葉ですが、深い言葉ですね。

黒木さん 深いんです。

――禅問答のような感じもします。

黒木さん その通り、禅問答なんですよ。たとえば、相手が話していることをはぐらかすように考えて話すということも、「常に考える」ということなんです。その話し方のウラにはなにがあるのかを考えるのも、「常に考える」ことだったりするんです。非常に深いんですよ。

――社員には浸透しているんですか?

黒木さん いや、してませんね(笑)。

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