森下 博之さん 国土交通省大臣官房参事官(イノベーション担当)

森下 博之さん 国土交通省大臣官房参事官(イノベーション担当)

国土交通省大臣官房参事官(イノベーション担当)とはなんぞや?

参事官(イノベーション担当)とは?

国土交通省は近年、データとデジタル技術を活用したインフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)にチカラを入れている。

今年4月には、大臣官房に参事官(イノベーション担当)を設置。インフラDXを加速させるため、省内の分野網羅的、組織横断的な取り組み強化に乗り出している。

参事官(イノベーション担当)とはどのようなポストなのか。そもそも、インフラDXによってなにがどう変わるのか。当の参事官に就任した森下博之さんにお話を伺った。

インフラDXのスピードを上げるためのハブ的なポスト

――参事官(イノベーション担当)とはどういうポストですか?

森下さん 国土交通省がインフラDXを掲げて、DXを進めるようになって2年ほど経ちましたが、これまでは道路や河川、都市や港湾空港といった省内の各分野ごとに独自に進めてきたようなところがありました。これを分野網羅的、組織横断的に進めようということで、今年4月に新設されたポストです。

省内のセクションごとにDXを進めていると効率が悪いので、知見や情報を共有して、横展開していく必要がありました。私の役割は、そういった知見や情報を集約することです。言わば、DXの取り組みのスピードを上げていくための、ハブ的な立場です。

とは言え、組織横断的な取り組みがなかったわけではなくて、省内にインフラDX推進本部を設置しています。各局からメンバーが集まって、省全体の方針などを決めたり、それぞれの取り組みなどを共有はしていました。このDX推進本部の機能をもっと強化することも、私の役割です。

――(インフラDX担当)ではなく、(イノベーション担当)となっているのはなぜですか?

森下さん 私が付けたわけではないので、本当のところはわかりませんが(笑)、インフラDXに限らず、デジタル以外にもイノベーションにつながるいろいろな役割を期待されているからだと思います。

機械と土木のハイブリッド職員

――デジタルには明るいのですか?

森下さん 私はもともと機械職として入省していまして、言ってみれば、機械と土木のハイブリッド職員なんです(笑)。ICT施工と言われる前、情報化施工と言われていたころから、デジタル技術を使った施工を担当してきました。私にとって、この分野はライフワークのようになっています。

――組織横断的に進めるという仕事は、DXよりもなによりも難しい仕事だと思われますが(笑)。

森下さん (笑)。DXの取り組みに関しては、権限を侵すとか領域を取り合うといったこととは無縁な世界なので、その辺はあまり心配していません。就任してまだ日が浅いですが、各局からの期待をヒシヒシ感じているところです。

ちなみに、国土交通省全体としては、インフラDXとは別の取り組みとして、働き方改革や職場改善といった取り組みも進められています。

インフラまわりの「作り方」「使い方」「活かし方」を変革する

インフラ分野のDXの全体像(国土交通省資料より)

――そもそもの話ですが、インフラDXとはどういう概念なのでしょうか?

森下さん 生産性向上を目的に平成28年度に始まったのが「i-Construction」ですが、どちらかと言えば、建設生産プロセスに主眼を置いていました。ICT施工をトップランナー施策と位置付けてやり始めたわけです。あとはプレキャストの採用、発注時期などの平準化、BIM/CIMの導入といった施策を進めていました。インフラDXはこのi-Constructionがベースになっています。

インフラDXは、i-Constructionを「もっと広げる」ことを目指した概念で、

  1. 「インフラの作り方」の変革
  2. 「インフラの使い方」の変革
  3. 「データの活かし方」の変革

を柱に据えています。「インフラの作り方」とは、基本的にはi-Constructionの取り組みを踏襲したものになります。

「インフラの使い方」とは、デジタル技術を駆使してインフラの潜在的な機能を最大限引き出す取り組みを指します。たとえば治水と発電を行うハイブリッドダムをイメージしています。

「データの活かし方」とは、国土交通データプラットフォームをハブとして、デジタルツイン化を進めることで、建設現場、建設業界にとどまらず、他の業界の方々にも建設に関するインフラまわりのデジタルデータを積極的に使っていただこうという意味です。

国土交通データプラットフォームの新ビジネス活用を期待

――国土交通データプラットフォームのお話が出ましたが、「少々使いづらい」という話を聞きますが。

森下さん データプラットフォームは今年4月に3.0にリニューアルしました。今回のリニューアルでは、新たに国や地方自治体が保有する橋梁やトンネル、ダムなどのインフラに関するデータや地盤データなど約22万件のほか、ICT施工の3D点群データ約250件を地図上に追加しました。

とくに検索機能が大幅に向上したほか、API連携も拡大したので、使いづらさはかなり改善されたと考えています(笑)。われわれとしては、新たなビジネス、サービスを考えている方々に積極的に活用してもらうことを期待しているので、今後もさらにつくりこんでいきたいと考えているところです。

――たとえばインフラツーリズムビジネスに活用するといったことですか?

森下さん そうですね。

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今年夏にアクションプラン第2版を策定予定

――まだ短期間ですが、イノベーション担当の参事官として、これまでどのような動きをしてきましたか?

森下さん 今年の夏までにインフラDXのアクションプランの第2版を策定することになっているので、現在はそこに注力してやっているところです。それに向け、GW前に第2版のアクションプランの骨子を公表しました。

そのための前提として、われわれチームとして、デジタル技術に関する新しい知見知識などを勉強していかなければいけませんので、その辺についてもチカラを入れて取り組んでいるところです。たとえば、最近で言えば、民間技術を公募して、数時間飛行可能なドローンの実証実験を実施し、建設業界のニーズに合ったデジタル技術に関する調査を行っています。

――アクションプラン第2版の策定作業はどんな感じですか?

森下さん 現在各局で取り組んでいる内容を集約した上で、それらの中から組織横断的に取り組めるものを抽出して、省全体の取り組みとして方向づけ、とりまとめるといった作業になります。

――インフラDXには、レイヤーと言うか、段階があると思いますが、アクションプランはどこまで視野に入れたものを目指しているのですか?

森下さん 本省はもちろんですが、全国の地方整備局などの取り組みも含めたものにしたいと考えています。実際に発注業務を行っているのは地方整備局などなので、逆に言えば、地方整備局などの取り組みがコアになってくると言えます。あとは、データプラットフォーム、つくばにあるデータセンターあたりをスコープしたものにしたいと考えています。

われわれとしては、建設産業については、大きな会社、小さな会社の区別なく、建設産業全体として捉えたものにしていく考えです。たとえば、ICT施工については、小さな建設会社への普及が課題になっていますが、最近では、バックオフィスを含め、もっと簡易的なツール、サービスなどが出てきています。中小の建設会社がそういったツールを積極的に活用してもらえるような、そういうアクションプランにしたいと思っています。

各組織、各現場がヤル気にならないと、前に進まない

インフラ分野のDXで目指す姿(国土交通省資料より)

――「インフラDX元年」という言い方をするとすると、いつになるのでしょうか?

森下さん 今年度は「インフラDX躍進の年」ということになっています。昨年度は「インフラDX挑戦の年」だったので、昨年度が初年度、元年ということになろうかと思います。インフラDXは中央集権的な取り組みではなく、各組織、各現場ごとにそれぞれ取り組むものなので、みなさんがヤル気になってもらわないと、前に進まない取り組みなんです。

――インフラDXの取り組みはどれぐらいのスパンをかけて実現していくお考えなのでしょうか?

森下さん インフラDXについて明確な年次目標はありません。ただ、国土交通省として、20〜30年後の社会のイメージをこうしたいというビジョンは、第5期国土交通省技術基本計画の中で、すでにお示しさせていただいていますので、インフラDXもそのビジョン実現を目指してやっていく、ということになっています。

――インフラDXに対して後ろ向きな業界人もいると思いますが。

森下さん われわれがICT施工をやり始めたときも、同じようなことがありました。たとえば、「ICT施工?オペレーターがいるから、ウチには関係ない」という感じで、全然相手にされませんでした。その後、「ICT機器の購入費は積算でみますよ」とか、「検査の基準もICT施工に合わせますよ」といったカタチで、国土交通省としてICT施工をサポートしていったんです。その結果、ICT施工はかなり一般的なものになりました。インフラDXも同じようなカタチで前に進めていきたいと考えています。

インフラDXはもはや「いつやるか」の問題

――イノベーション担当の参事官として、建設業界に向けてメッセージをお願いします。

森下さん 建設業界は、生産性向上と担い手確保という大きな課題を抱えている一方で、働き方改革という大きな波が押し寄せています。そのような状況の中、建設業界全体として、少ない人員、短い時間でも、これまでと同じだけのパフォーマンスを発揮していかなければなりません。そこで期待できるのがデジタル技術です。

もちろん、最初は戸惑う方もいらっしゃるでしょうし、コストや人的資源に不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、デジタル技術の導入はすでに、「いつやるか」だけの問題になっています。「やらない」という選択をすると、近い将来建設業は成り立たなくなっているかもしれません。建設業のみなさまには、できるだけ早い時期にご決断されるのが良いとお伝えしたいです。いきなり難しいことに手を出すのではなく、簡単なことから始めてみてはいかがでしょうか。

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