四国地方整備局の仕事は楽しいのか?単刀直入に聞いてきた
国土交通省四国地方整備局が進める高規格道路「四国8の字ネットワーク」。ネットワークの一区間である高知東部自動車道の南国安芸道路(芸西西IC〜安芸西IC仮称、延長8.5km)、阿南安芸自動車道の安芸道路(安芸東IC仮称〜安芸西IC仮称、延長5.8km)それぞれの工事現場を担当する土佐国道事務所の建設監督官お二人、成岡茂義さん(入省40年目)、秋森良一さん(入省22年目)に取材する機会を得た。
建設監督官とは、その名の通り、建設工事の監督が主な仕事だが、工事監督以外にも、住民対応や関係機関との協議などやるべき仕事は多い。本局などと比べ、現場に近いぶん、人間味あふれる楽しいエピソードが聞けるかなとうっすら期待しながら、いろいろ話を聞いてきた。
成岡 茂義さん 四国地方整備局 土佐国道事務所 建設監督官
秋森 良一さん 四国地方整備局 土佐国道事務所 建設監督官
とりあえず、ダムをやりたいと答えた(笑)
――入省した理由はなんでしたか?
成岡さん 私は地元の工業高校の土木科出身なのですが、高校時代は野球部にいまして、野球部の先輩から「某市役所の某課はヒマで良いぞ」と聞いたので、「公務員になろう」と思ったのが、きっかけです。ところが、私が卒業する年は、その市役所は採用試験がありませんでした。県庁もその年は採用なしでした。それで、当時の建設省四国地方整備局に入りました。
――入省してなにをやりたいというのはありましたか?
成岡さん 正直に言って、入省試験当時は、四国地方整備局がなにをやっている組織なのかよく知りませんでした。面接で「なにをやりたいですか?」と聞かれたので、ダム関係は何かはやっているだろうと思い、とりあえず、「ダムをやりたいです」と答えた記憶はあります(笑)。
――秋森さんの入省理由はなんでしたか?
秋森さん 私は地元の高専を卒業してから、愛知県の大学に編入しました。就職では地元に帰りたいと考えていましたので、公務員試験を受験して四国地方整備局に入ることができました。県庁も受けたのですが、ダメでした(笑)。
――入省してなにをしたいというのはありましたか?
秋森さん 入省時から道路に携わる仕事をしたいと思っていました。
3Dプリンターを使った集水マス製作に携わる
――お二人とも今、建設監督官でいらっしゃいますが、建設監督官の経験はどれぐらいですか?
成岡さん 3年ほどです。その前には、維持管理出張所で監督員をやったことがあります。
秋森さん まだ1年経っていません。2023年4月からです。
――今担当している現場について教えてください。
成岡さん 今年の4月から安芸道路を担当しています。現場数は9つありますが、主には橋梁の下部、上部工事及び、改良工事といった現場を受け持っています。前年までは、南国安芸道路の現場も担当していたので、20件弱の現場を見ていました。
――お一人で20件弱の工事を担当するのは、大変ではなかったですか?
成岡さん 監督支援業務の技術員の方々がいらっしゃるので、大変ということはありませんでした。2023年4月から秋森監督官が配属され2人体制になったので、楽になりました(笑)。
――建設監督官として印象に残っていることはありますか?
成岡さん 3Dプリンターを使った集水マス製作に携わったことです。1年目は単純な四角いマスでしたが、2年目は円筒形のマスを製作しました。私自身、最新の技術としていろいろな勉強ができたので、よかったと思っています。
フレンドリーであり、厳しい関係
詰所のデスクで仕事中の成岡さん(本人提供)
――施工業者との関係づくりで、心がけていることはありますか?
成岡さん 基本的にはフレンドリーな関係づくりを心がけています。ただし、品質やコスト、対地元関係などについてしっかりやってくれるのが大前提です。その前提に問題があるのであれば、当然キビしく監督せざるを得ません。
たとえば、業者さんの中には、地元に対して苦手意識を持っている方もいらっしゃいます。そういう方は、住民の話をちゃんと聞かずに、「こまった」と言ってくることがあり、そういう場合は、「そしたら、一緒に地元に行こうか」と言って話をちゃんと聞いてみると、そんなに難しいことを言っていないということがちょくちょくあります。
相手がなにを望んでいるのか、ちゃんと話を聞くことが大事です。その上で、国のサービスレベルを逸脱しない範囲で、対応できることなのかどうかを判断する必要があります。
――住民対応や関係機関などとの調整ごとはどうでしたか?
成岡さん 私は比較的そっちのほうが好きなんです(笑)。なので、全然苦にならずに、やってこれていると思っています。住民の方であれ、関係機関の方であれ、面と向かって相手の話を聞いていると、問題点というものがわかってくるので、ちゃんと対応すれば、わかってもらえると思っています。
――いわゆる働き方改革への対応については、どうですか?
成岡さん 基本的には、業者さんに工事施工に当たっての聞き取りをし、国の考え方とズレていないかというところをしっかり確認します。ズレていれば、国の考え方を説明した上で、調整していきます。その際には、業者さんにとってなるべく手間にならないようなカタチで、追加の情報が必要であれば提供して、改善してもらうよう努めています。
資料づくり一つとってもそうです。わかりやすい資料を作っていこうということでやっています。私にはわかっても、私の上司にはわかりづらいということもあるからです。細かいことを逐一指摘するのではなく、大枠についてアドバイスするということです。こちらでがっつり直すといったことはしません。
時間外には受注者に電話やメールなどはしない
現場でチェックする秋森さん(本人提供)
――秋森さん、建設監督官としての業務はどうですか?
秋森さん 私は南国安芸道路について、完成した工事も含めると21件の工事を担当しています。建設監督官は今回が初めてですが、私も以前に出張所で監督員として現場に携わったことがあるので、とくに抵抗はありませんでした。施工業者の方々は、しっかりした技術者が多いので、逆に私が教えてもらいながら、仕事を進めていくこともあります。
――建設監督官として心がけていることはありますか?
秋森さん 現場がスムーズに、前向きに進むことが一番大事だと思っているので、発注者と受注者が対等な立場に立って、足並みを揃えて協力できる環境づくりを心がけています。
――住民対応などについては、どうですか?
秋森さん 対応が難しい住民の方とはまだ関わったことがないのですが、何かあったときに、すぐに対応できるようには努めています。たとえば、住民の方から「現場近くの水路の掃除をしてほしい」というご要望をいただいたときには、受注者にご協力いただいて、対応したということがありました。住民の方にはスゴく喜んでいただきました。
――施工業者から教えてもらったこととしては、どういうことがありますか?
秋森さん コンサルの設計成果をもとに工事発注するのですが、実際に現場に入ってみると、施工ヤードがスゴく狭いということで、受注者から提案を受けて、協議しながら、施工計画を変更したということがありました。
――働き方改革への対応についてはどうですか?
秋森さん 遠隔臨場を積極的に取り入れたり、工程会議をリモートで実施したりしています。現場によっては、ARを駆使したわかりやすい協議資料をつくってもらっています。当たり前のことですが、時間外には受注者に電話やメールなどはしないよう心がけています。
昔に比べれば、提出書類は減っている
――提出書類の簡素化は進んでいますか?
秋森さん 「土木工事書類作成マニュアル」があるので、基本的にはこれに則って作成することになっています。あとは、「工事関係書類等の適正化指針」というものもあって、この書類は受注者が作成するのか、発注者が作成するのかといったことが定められていますので、お互いの書類作業を簡素化できるように努めているところです。
成岡さん 昔に比べれば、こちらが提出を求める書類の量は減っていると思います。以前は、担当者によっては、参考資料として大量のバックデータを求めるケースもあったそうですが、最近は、余計な資料はなるべく求めないよう指導が入っています。
秋森さん 今はASPの電子決裁を導入しているので、昔の紙ベースでの決裁に比べれば、時間的にもかなり短縮されていると思います。
楽しくもあり、苦痛でもある(笑)
――単刀直入に聞きますが、四国地方整備局の仕事は楽しいですか?
成岡さん 楽しくもあり、苦痛でもあります(笑)。楽しいのは、現場でなにかあったときに、あれこれアイデア出しができることです。自分が出したアイデアがちゃんとハマったときには、やりがいを感じますし、業者さんや住民の方からお礼の言葉をいただけると、なお良いです。その一方で、なかなか良いアイデアが出なくて、長い時間悩んでしまうようなこともあります。そんなときは苦痛に感じます。
――イマドキの若者論の一つとして、引っ越しを伴う転勤をイヤがるというのがありますが、転勤についてはどうお考えですか。
成岡さん 私はイマドキの若者とまったく同じ考えです(笑)。「転勤はなるべくしたくない」と思いながら、40年間仕事をしてきました。家族の事情と高知県が大好きという事情があったからです。そのうちの転勤生活は10年間ほどです。
高知出身なので、地元のために働きたいという思いが強いことと、地元の方とのコミュニケーションをとるに当たって、濃密な地元情報を常に収集し、それを持って接すると、地元の方々が心を開いてくれることが多々あるように思い込んでいます(笑)。
転勤してしまうと、その地元に関する情報が乏しい状態で仕事をすることになりますし、私としては心細い環境となりトラブルになるのではと思い込んでいます。都合のいい思い込みかもしれません(笑)。
――秋森さん、仕事は楽しいですか?
秋森さん 楽しいです。先輩からも「建設監督官は楽しいよ」という話は聞いていたのですが、実際にやってみて、最前線の現場に携われるのは、やはり楽しいと感じています。
――では、ツラいことはないということですね。
秋森さん もちろん対応が大変な現場というものはありますが(笑)、そういったことも含めて、仕事全体としては楽しいということです。南国安芸道路という規模の大きな事業に携われるからです。
――引っ越しを伴う転勤についてはどうですか?
秋森さん 家族帯同での転勤や単身赴任も経験しましたが、基本的には四国内の転勤なので、週末を利用して帰省することができます。そういう意味では、転勤がスゴく苦に感じるということは、私の場合はあまりないです。